ログイン15 スポット——涙を流す女神——

 森の中にありながらも、場違いとも思える神々しさを纏う。辺りの木々も、その神秘さに圧倒され、傾倒してしまっているのだろうか。乱雑に根を伸ばし、葉を実らせる緑の浸食は、このエリアには及んではいなかった。


「これが・・・。この世界で言うところの、スポット・・・なのか!?」


 礼央は自分の目を何度か擦って確認してみる。先ほどから、何度も繰り返している行為だが、その過程の中で目の前の物体が変化することはない。それどころか、より鮮明にその姿を視覚で捉えれるようになっていた。


念のために、空中で表示されているマップ画面を確認してみる。間違いなく、自分の現在地を指す矢印と、スポットを表す青い円が綺麗に交差している。近くまでスポットに歩み寄ったことで、その詳細まで画面に表示されていた。


この機能は、現実世界でもあったような気がする。しかし、前までそれが有意義なものだと認識していなかった。無感情のまま、説明を読まずにスポットに触れると立ち去っていたっけか。だが、全く知らない世界においては、その説明はとても重要だと気付かされる。


「スポットの名前は——涙を流す女神か。詳細は・・っと」


 礼央は、心の中でスポットに表示される説明文を読んでいった。


『涙を流す女神

いつ、誰の手で製造されたかのかは不明。ブロンズ像で作られた女神を表している。酸性雨の影響か、目から爛れるように溶け始めているところが、涙を流しているように見えるため、このような呼び方をされている。もしかしたら、この世界で起きる全ての悲劇を一身に背負い、涙を流しているのかもしれない』


「涙を流す女神か・・・」


 確かに、銅像の目から一線が伝っているようにも見える。あれを、涙を流していると最初に表現したものに、賞賛を送らなければいけないと、礼央は心の中で呟く。そう言われてしまえば、涙を流しているようにしか見えない。


「一身に悲劇を背負っているのかもしれないなんて、えらく詩的な説明だな。現実世界でも似たような説明とかあったのかな?」


 今まで何の画面を見ながら、ゲームをしてきたのか。それを改めて少し考えさせられる。しかし、今はそんなことを考えている時間じゃない。今は・・・スポットに触れる時だろ!!


「この世界で初めてのスポット!! さぁ、一体何が出てくるんだ!!!」


 礼央は、女神像との距離を縮めるため、大きな足幅で前に進む。その足取りは、極めて軽い。先程までの悩みは、どこにいったのやら。すでに、頭の中にはスポットのことで、頭が一杯であった。


 手を伸ばし、銅像に右手が触れる。冷たい感触が、手を介して頭に情報として伝わっきた。その冷たさが、今まで涙を流し続けてきたからなのか、それとも誰の目にも触れられてこなかったからか。それは分からない。しかし次の瞬間、礼央が女神の顔を見上げた時。ふっ、と女神の顔が和らいだように見えたのは、恐らく気のせいではないだろう。


「笑った・・・のか?」


 直後、礼央の身体を眩い光が覆い尽くした。激しい光の中で、女神の表情は照らされて真っ白なものに変わり、網膜を強く刺激するそれは目を開けることすら困難にする。気がつけば反射の反応で閉ざしていた瞼。そこに映るのは、永遠に続く暗闇のみであった。

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