ふたりのおはなし

 俺は本を閉じた。

 俺は最後の一文に聞き覚えがある気がした。

 俺は目の前の紙を二枚に破き、文字を書き綴った。


                  ♢


 本と紙を持ち、諒の部屋の扉を叩いだ。返事を待っていると、扉が開いた。

「もう書けたの?」

 そう顔をのぞかせる諒は、体調が悪そうだった。

「あぁ、それよりも大丈夫なのか?」

「うん。それより、書いてくれたんでしょ?見せてよ」

 そう言いながら諒がふらついた。俺はとっさに扉を開け、体を支える。諒の体は、明らかに熱を帯びていた。

「熱があるじゃないかよ。とりあえず、ベッドに行くぞ」

 諒の体を支えながら、ベッドへと歩く。

「諒、お前喰字期なんだろ?」

 それを聞いた諒は少し驚いた顔をした。そして、

「そうだと思う?」

 と、俺に微笑んだ。

「あぁ。これ、諒が俺に向けて書いたんだろ?」

「どういう意味?」

「俺に気付いて欲しかったんだろ? 自分が喰字鬼であるこを。自分が嘘をついてきたことを。」

 諒は黙って俯く。

「いままでありがとうな」

 その言葉を聞いて、諒は顔を上げた。驚きと動揺が隠せない様子だった。そして、怒っているような、すがっているような、泣きそうな顔で俺に

「なんで」

 と聞いてきた。

「色々忘れちまった俺をここまで支えてくれたじゃないか。たくさん一人で抱え込ませてごめんな。もっと早く、気づければよかったんだが」

 俺はどんな顔をしていたのだろうか。

「でも、僕は大事な文字を喰べてしまったんだよ? それに、嘘もついてたんだよ?」

「その文字を俺はもう覚えていないし、今の俺にとってはお前が兄だ。だから、これからは、弟の俺を頼ってくれよ。家族だろ?」

 それを聞くと、諒はなにかの糸が切れたかのように泣いた。俺はそんな諒をただ抱きしめていた。


                  ♢


「もう大丈夫」

 落ち着いた諒に、俺は一枚の紙を差し出した。

「これは?」

「感想。頼んだだろ?」

「でも、これ喰べたら」

 とても悲しそうな、苦しそうな顔で諒は紙を見つめる。言葉の詰まる諒に、

「これで、大丈夫だろ?」

 もう一枚の紙をみせた。

 それを見た諒は、花が咲くように笑った。

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ふたりのおはなし 神代雪津 @setu_kamisiro

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