3.13歳へ

 月日は流れて中学1年生の春となった。

 親にも友達にもサンタさんのことはばれていないと思っている。


「ここが新しい中学校」

 私にとってはいいことがあった。

 初恋というのだろうか。

 同じクラスの子だ。


 周りの女の子がかっこいいよねと言って評判を呼んでいるらしい。

 入学式の日さっそく告白されたことで有名だ。


 私もその現場にいたから知っている。


 新入生のあいさつの時だった。

 成績優秀の人が誓いのような、これから頑張っていきますという

 抱負を表明するときだった。


「こんなことをここでいうことは違うとは思いますが、

 どうしても今伝えたいんです」


 と切り出してマイクを使ったままで叫んだ。


「付き合ってください。深沢隼人フカザワ ハヤトさん」

 涼やかな声が体育館中に響いた。


「ごめんなさい。オレ、今、恋愛興味ないんで」

 スピーチをした彼女は赤面をして壇上から降りて行った。

 こんなことがあったから壇上の人の名前と

 告白された人の名前は学年に知れ渡った。


 彼と私は別のクラスとなっていた。

 彼は一組、私は六組。どうやっても接点はない。


 体育の時間にサッカーをしている彼を見かけることがあって、

 廊下で見かけることがある。

 でも声をかけることはできない。

 向こうはこちらのことを知らないだろう。


 なんとなく気になる。毎日彼のことを考えるようになった。

 彼の好きなもの、嫌いなもの、はまっているもの。

 知りたい欲求はあるのに。


 向こうは私なんか知らない。


 サッカーをしている姿がかっこいいとクラスでも評判だ。

 私だってそう思う。グラウンドへ出て行って彼に声援を送りたい。

 でも私はそんなキャラじゃない。

 眠れない日が続いて、あんまり食事もしたくなくなった。


 体重がどんどん減って、親にも体のことを気にされるようになった。

 親に心配をかけたくなかった私は保健室の先生に相談した。


 ふくよかな先生で、安心する。

 お母さんみたいな雰囲気を持っていた。

 保健室の先生はためらいがちに言った。


「残酷なことを言うかもしれないけれど、

 小学校や中学校の好きっていうのは思うほど続かないものよ。

 とりあえず食べなさい」


 ショックだった。毎晩泣いた。


 朝、お母さんに起こされてパンを食べる。

 でも味なんかしなかった。


 そんなある日、彼のクラスをうろうろしていたら彼の恋愛話が飛び込んできた。


 入学式にあれだけの盛大な告白を振った彼だ。

 ほかの男子とて彼の恋愛話を聞きたくてうずうずしている。


 私は一日一回は彼のクラスの前を通るようにしていた。

 するとやはり声が聞こえてくるものだ。

「誰が好きなんだよ?」

「めんどくさいよ。恋愛なんて」


 毎日通っていると夏休みを過ぎたあたりから変化が出てきた。


「おまえ、好きな奴いるのかよ」


「んー。いいかもって思い始めた……かな」

 クラス中がどよめいた。

 どんな奴か、男子は聞きたがる。

 あまり彼は話したくなさそうだったが毎日聞かれて、

 ポツリポツリと話すようになっていった。



 彼女の名前は佐々木よしみ。聞いたときにはまさかと思った。

 前の小学校で一緒にいたよしみちゃん。

 彼女は毒舌家で、私が少し苦手だなと思っていた女の子。

 彼が実家に帰った先で彼女に会ったらしい。

 そうして彼女に付き合ってほしいといわれたそうだ。


 彼女とはまだ連絡はとれるだろうか。

 今よりもつらいことになるかもしれない。三日迷って、メールをしてみた。

『ひさしぶり。元気? うちの学校に好きな人がいるんだって?』


 彼女から返信が返ってきた。

『うん。好きだよ。彼も好きって言ってくれるんだ』

 私はやはりショックを受けた。

 でも連絡したのはこちらからだ。

 一回で終わらせるわけにはいかないなとおもって返信した。


『そっか。学年中で話題になってって、名前が同じだから気になってメールしちゃった。おめでとう』

『ありがとう。わたしいま世界一幸せなんだ』


 彼女を応援することはできない。

 だって私も好きだから。

 連絡を絶ってしまえば苦しまない。

 だから私のアドレスを変えることにした。


「友達を裏切ることはいけないことなのかな?」


 きっとあの子は怒るだろう。

 幸せにといったのに祝福しないのは友達じゃない。

 でも私は自分の感情を抑えることができない。

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