第44話 身体を取り戻したい


「さて、行ってくるか……」 


 俺はいよいよダンジョンを出ようとする。

 しかし、ある問題に思い当たる。


「おい、俺って……ここのダンジョンマスターだから、このスライムの身体のままじゃ、出られないぞ……?」


 以前ダンの身体を借りて出たときは、憑依によるものだった。

 しかし、今回ギルティアの身体を借りているのは、変身能力によるものだ。

 だから、メタモルスライムの身体自体を外に出すことはできない……。


「なんだ、そんなことか」


 しかし、魔王はなんてことないように言う。


「ダンジョンマスターの権限を、だれか別のものに移せばいい」

「うつす……? そんなことができるのか?」


 俺の記憶が確かなら、そんな機能はダンジョンメニューにはなかったはずだが……?


「我を誰だと思っている? 魔王だぞ……?」


 魔王……つまりは他のモンスターたちにダンジョンマスターの権限を与えている存在。

 ならば当然、その権限を移し替えることも可能だというわけか……。


「じゃあ、イストワーリア。頼めるか?」

「え? 私ですか……?」

「ああ、俺の留守を頼む」

「そんな、私がマスターの代わりを……!?」


 イストワーリアはすごくうれしそうだ。

 俺も彼女のことは信頼しているから、安心して任せられる。


「じゃあ、権限を移すぞ」


 ラヴィエナは俺に近づいて、そう言った。

 そして、なにやら魔法を放つ。


「もういいのか……?」

「ああ、ためしにダンジョンメニューを開いて見ろ」

「ダンジョンメニューオープン! ……出ないな……」


 これで、ダンジョンマスターの権限は俺からイストワーリアに移った訳だ。

 まあ、それは一時的なことだけど……。

 これで、俺はギルティアの姿でダンジョンを出ることが出来る。


「じゃあ、いってくるよ」





 ギルティアの肉体を借りた俺は、王都にやってきた。

 王城にいくと、あっさりと王と話すことが出来た。


 だがしかし……。

 王のようすがおかしくはないか……?

 俺は今、あの勇者ギルティアの姿だというのに。

 王は眉間にしわをよせ、俺を睨みつけている。


「ギルティア……君は今更、なにをしに私の元へ来たんだ?」

「え……?」


 まさか、王がこんな塩対応をしてくるなんて。

 ギルティアは勇者として活躍しているんじゃなかったのか?


「まあ最近は少しは頑張ってダンジョンを潰しているようだが……。だからといってあの件は許していないぞ? 君はまだ監視対象なのだからな」


 くそ……ギルティアは何をしたっていうんだ?

 王とギルティアの間になにがあったのかわからない。

 とりあえずここは謝っておこう。


「申し訳ございません。その件は、非常に反省しております」

「ほう……君が反省なんてするとはな……」

「今日はあの魔族、ユノン・ユズリィーハの遺体を確認させていただきたい」

「それはまた、なぜ?」


 俺はなるべく、ギルティアの言葉使いやしぐさを再現しようとした。


「それは……私は間違っていたからです。彼は魔族ではありませんでした」


 俺はせめて自分の名誉を回復しようと、そう言った。


「それは前に私からも言っただろう……。それで……?」

「そ、そうでしたね……。なので、私は罪を償いたいのです」

「いや、それはならん。君にはまだ勇者として働いてもらわねばならない」

「っく……で、でしたら……その、せめて、ユノンの遺体を拝ませてください」

「ふむ……まあよかろう」


 俺は自分の遺体が保管されている場所に案内された。

 どうやら俺の遺体は重要な証拠品となるため、キレイに保管されているのだそう。

 まあ、おおかたギルティアが勇者として用済みになれば、逮捕でもするつもりだったのだろう。


「では……ごゆっくり」


 俺を案内してくれた人が、そう言った。

 しかし、彼女は俺の横から立ち去ろうとしない。

 これでは変身が使えないじゃないか……。


「あの……少し一人になりたいんだ……その、いろいろあったから」

「……! こ、これは……失礼しました。気がきかず……」


 ひとこと言うと、彼女はちゃんと部屋を出ていってくれた。

 これで、部屋には俺と俺の死体だけだ。


「さあ、俺の身体! 戻ってこい!」


 俺は変身を使った。

 そして、死体の状態の俺をコピーする。


「ぐあぁ……!!!!」


 いきなり身体が死体になったから、俺自身に激痛が走る。

 そして、息ができない――!


 急いで俺は憑依を使う。

 さっきの女の人に憑依させてもらおう。


「ふぅ……。あとは、こっから出ないとだな……」


 俺はまた、自分の身体に憑依で戻る――!

 そしてすぐさま変身で、ギルティアの身体に戻る――!


「はぁ……はぁ……あぶねえ……」


 命からがら、俺は自分の肉体情報を写し取ることができた。

 これで、あとはダンジョンへと帰ればいい。

 DP消費で回復でもいいし、アンジェに回復してもらってもいい。


「では……俺はこれで」


 案内してくれた女の人に礼を言い、俺は城を出た。

 これで、俺は蘇る……!

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