副会長さんの実力

 ニ回戦。


 いつもとは違い真剣な表情で立つ、副会長さん。


「ふぅぅ〜」


 深呼吸。


 緊張はしているが、身体の動きに支障はない。程よい緊張だ。


『アラード学園三年生、ノア・ヒューマー。同じくアラード学園一年生、フィン・トレード。

 試合始め!』


(『ファイアーボール、魔力10000』)


 先手必勝。様子見なんてしない。


 俺の周りに浮かぶ数十の炎の玉。それらが一斉に副会長さんの元へ。


「『錬成』」


 副会長さんの手元に大きな盾が現れる。

 おそらく、いや絶対にこれは防がれる。


(『風刃、魔力5000』)


 風の刃を飛ばす。


 キィン。


 副会長さんの持っていた盾は二つに分裂する。


「『錬成』」


 副会長さんは再び盾を持ち出す。右手に槍を構えて。


「はあああっ!」


 怒涛の勢いで放たれる突き。

 速い。でもぎりぎり避けられる。


「……くっ」


 回避に思考を割かないといけないから魔法を発動できない。


 バックステップで一旦距離を――


「無駄ですよ!」


 副会長さんが前進して、距離が開かない。


 しょうがない!


「ふっ!」


 顔面を狙ってきた突きを躱し、槍を掴む。


 よし!これで身動きを封じた!


(『風刃、まりょ――』)


「『錬成』」


「っ?!」


 勢いよく後ろに下がる。


 ははっ。考えてみれば当然と言えば当然か。

 錬成した物をまた錬成できないはずがない。


 俺の手のひらには大きな穴が開いていた。


 副会長さんの持つ槍からは一本の鋭い棘が不格好に生えていた。

 さっきまで俺が握っていたところだ。


「『錬成』」


 また来るっ!


「違う!」


 俺は高く飛び跳ねさらに後ろに下がる。


 刹那、俺のいたところから無数の棘が生える。


(危ねっ、結構えげつないな!『飛行、魔力10000』)


 よし、これでとりあえず距離は取れた。

 このまま魔法で押し切る。


「『錬成』」


「……まじ?」


 副会長さんの手元に現れる、弓。


 いままで見た中で副会長さん、剣、槍、盾、弓を扱っているけど、もしかして万能なのかな?

 凄い。


(『風、魔力5000』)


 弓の対策に俺の周りに風を起こす。


 前方から飛んできた矢が弾かれ、逸れる。


「……障壁、いや風か。厄介だな」


 副会長さんが戸惑っている。


(『炎龍、魔力10000』)


 副会長さんの今の武器は弓。

 それは俺が離れたから。


 炎龍をどう対処する?


「あはは……まさかこう来るとは。この圧、対峙したら凄まじいですね

 『錬成』」


 副会長さんは弓を捨て、槍と盾を創り出す。


 俺は後回しか。

 させるわけないけど。


(『風刃、魔力10000』)


 副会長さんの背後を取る。


「『錬成』」


 キィィィン。


 地面から副会長さんの背中を守るように生える鉄の壁。


 クソっ、チートすぎるだろ!!

 人のこと言えないけど!


「はあああぁぁぁあ!!」


 炎龍を前に立ち向かう副会長さん。


 炎龍が発する熱に耐えながらも槍を突き立てる。

 槍を振り、炎龍を薙ぎ払う。


 でも、


「はぁはぁ、ダメージが全く入らない……!」


 副会長さんは勘違いしているんだと思う。


 俺の炎龍は魔力の塊。

 物質を持たないんだ。魔力を貯めている核以外には。だから、核を狙わないと。


 それか、炎龍をかき消すくらいの威力の魔法を撃つとか。

 それなら、普通の魔法使いならできるだろうけど、副会長さんが土属性以外の適正属性を持っていないことは知っている。


 つまり、もう副会長さんには手がない。


「『錬成』ッ!!」


 まだ、諦めていない!!

 いや違う。何か策があるのか?


 副会長さんを覆い囲むように鉄の壁が生えてくる。

 なんだ?隠れる気か?


 正直に言うとそれを維持されたらキツイんだけど。

 でも、手ならある。


「『錬成』ッ!!」


 中からくぐもった砲声が漏れる。

 何か不味い気がする。


 炎龍が動き出し口から炎を吐き出す。


 俺の考えた策、蒸し焼きだ。


 中で何を創っているんだ!


 開始から今まで、錬成発動から出来上がるまで一秒程度だった。

 なのに、今はまだ出来ていない様子。


 構造が複雑になってくる程、錬成に時間がかかるんだと思う。


「『錬成』」


 一分が過ぎた頃、再び声が上がった。

 今度は副会長さんを囲む鉄の壁が崩れ去る。


 中から出てきたのは、満身創痍の副会長さん。

 しかし、瞳の中の闘志は弱まるばかりか強くなっている。


 副会長さんは炎龍を無視し、俺の眼を捉える。

 両手に槍と盾に変わった武器を――


「はあ!?」


 どうしてそんなところに、それがあるんだ!?

 いやそれよりも!

 どうして、副会長さんがその武器を知っているんだ!?


 実物は見たことも触ったこともない。

 だけど知っている。


 ――銃


 副会長さんの持つ銃口が俺へと向けられていた。






 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死んで異世界転生したら厨二病が治りました。今世は普通に生きます。 猫丸 @reosyu12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ