生徒会って皆に慕われてそう

 入学戦が終わって一週間後。


 俺が優勝したということは学園中に広がっていて、俺に話しかけてくる奴なんてそんなにいない。


 話しかけてくれる人なんてアリスとエリザくらいだ。


 マルコは最近部屋にいることが少なくご飯とか寝るときとかしか部屋にいない。


 この前、クラスの人たちに避けられるから言ったんだ。


『俺はたまたまあそこまで勝ち進んだだけなんだよね。準決勝のあれはただの奥義であってさ〜』


 て、言ったらマジで引かれた。


 くそ、俺は普通なのにな。

 まぁ今はもういいや。これから誤解を解いていこう。


 そして、その機会は早く来た。


「フィン・トレード。優勝おめでとう。君の準決勝の試合見せてもらったよ。とても素晴らしいものだった」


 生徒会室。

 俺はそこで生徒会長である、アルトさんと向かい合っていた。


 アルトさんの両隣には三人の男女が立っている。


「いえ、俺なんてまだまだです。運が良かったんです」


 見てたなら分かるだろ、とは言わない。


 こういうのはお世辞を言うのが礼儀みたいなものだからな。


「ははっ、謙遜を。まあよい。

 それで、君を呼んだ理由だが単刀直入に言おう。

 生徒会に入ってくれないか?」


 やっぱりか。

 ここに連れられた時点で予想はしていた。


「何故、俺を?」


「入学戦で優勝した人は生徒会に勧誘するというルールがあってね」


 アルトが少し微笑んで言う。


 俺の警戒心を解こうとしているのかもしれない。

 イケメンだから腹立つ。


「勧誘ということは断っても良いですよね。あなたたちからは何か裏を感じます」


 これは本当だ。

 入った直後から俺を観るような視線だった。全員が。


「っ!……まさか断れるとは。でも、もう少し考えてみないか?君にも何らかのメリットがあるのでは?」


 生徒会なんて入った日にはさらに目立ってしまう。

 メリットなんて欠片もない。


 ……いや。ある。


 目立つは目立つでもベクトルが違う。


 俺は、今運悪く優勝してしまい悪目立ちしてしまっている。


 だが、生徒会はおそらく学園でも頭の良い人たちの集まり。

 だから皆から慕われる。

 学園の人気者。

 良い意味で目立つ存在。

 つまり、友だちができる。


 そういうことか。


 アルトさんの言うメリットはこれか。


「分かりました。生徒会に入りましょう」


「ありがとう。フィン・トレード、生徒会は君を歓迎する。俺の名はアルト、生徒会長だ」


「副会長のノア・ヒゥーマー。よろしくお願いします」


「書記のアメリア・エイベル。以後お見知りおきを」


「会計のライラ・カーミュラだよ!よろしくね、フィンくん!」


 こうして、俺は生徒会に所属することになった。


 でも、本当に俺なんかで良かったのかな?

 俺バカだよ?

 もう、紙に書名したからな!

 取り消せないからな!


 よし、これで友だち増えそうだ。



◆◇◆◇◆◇



「おはよう」


 教室に入るなり、俺は皆に向かって挨拶をする。


 何て言ったって、生徒会だもんな。


 席に座ってからも俺は笑顔で皆が話しかけやすいようにしていた。


 けれども、誰も一向に話しかけてこない。


 ああ、そういうことね。

 皆、まだ照れているのか。


 まあ、それも時間の問題だろうな。


「おはようございます、フィンさん」


 いつもの時間にアリスがやってくる。


「おはよう、アリス」


「あれ、何か良いことありました?嬉しそうですね。

 あ、聞きましたよ。フィンさん、生徒会に入ったのですね!凄いです!」


 アリスが早口にまくし立てる。


「そうなんだよ。生徒会に入ってこれから友だちができると思うと嬉しくてさ」


 俺はあえて周りに聞こえるように言う。


 これで近づきやすくなっただろう。


「そうですね。フィンさんはあの実力者揃いの生徒会に入れるくらいですから、友だちくらいすぐにできますよ!」


 んんん?!


 実力者揃い?

 なにそれ。


 生徒会って皆、真面目な人なんでしょ?


 ねえ、そうだよね!


 俺は縋るような思いで周りを見渡す。


 女子のグループと目があう。

 さっ、と全員が一瞬にして逸らす。


 男子の不良グループと目があう。

 ざっ、と全員が俺に頭を下げる。


 ……これはあれだな。

 ビビられてる。


 生徒会のメンバーってそんなにヤバかったんだ。


 アリスに聞いたところ、今の生徒会は学園でトップ4がメンバーらしい。

 それ、もう生徒会名乗っちゃだめでしょ。


 てか、そこに入ったせいで普通の俺までビビられてるんだけど。



◆◇◆◇◆◇



「何?生徒会をやめたいだと?」


 生徒会室で俺は会長と向き合っていた。


 ヤバい。これが学園トップか。

 なるほど、中々に貫禄があるな。

 あの鋭い眼がとても怖い。


「は、はい!俺にはやっぱり荷が重かったらしいです!」


「そうか」


 会長は頷いて胸ポケットをまさぐる。


 こ、殺される!


「……っ!」


 ナイフとかが出てくるのかと思ったら、出てきたのは一枚の紙。


 俺が昨日書名した誓約書だった。 


 最後の文には、『この以下の項目を破った場合、罰金、金貨1000枚』


 そして項目の一つには、一年間は生徒会に所属するというものがある。


 Cランク冒険者が一ヶ月働いて得られる金貨は平均で4枚程度らしい。


「……これからもよろしくお願いします」


 まだ借金は背負いたくなかった。

 


 





 

 

 

 


 

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