剣を貰ったら普通の子供は一日中振り続けるはず

「ふっ、ふっ、ふっ……」


 俺は庭で剣を降っていた。


 だいたい六時間ぶっとうしで。


 やりすぎだって?知ってるよ。でもいいんだ。

 俺には、分かるんだ。


 例えば、子供の頃おもちゃを貰うだろ?

 で、貰ったらずっと遊んでたろ?もう、ずっと。


 つまり、この世界の子供も剣を貰ったら振り続けるんだよ。多分。

 だから、俺は振り続けている。それに、ちょっと楽しくなってきたんだ。

 前よりも速く、力強く振り下ろすんだ。


 そろそろ手が痛くなってきた。

 だが、やめない。貰ったばかりの子供はまだやめない。だから、振り続ける。

 ここで、やめて俺の実力が普通に達しなかったら……


『おい!てめぇ俺の練習台になれっ!』

『ひぃ!』

『逃げんなよ!』

『ぶへっ』


 近所のガキ大将にサンドバッグにされてしまう。


「ふっ、ふっ、ふっ……」


 俺の素振りは晩ごはんができるまで終わらなかった。




◆◇◆◇◆◇




「にぃに!どこ行ってたの?!」


 素振りを終えて家に入ると妹がトコトコ走ってきて、ぷりぷり怒っていた。


 ほっぺを膨らませて腰に両手をおいている。


 怒っていても、かわいい。


 やっぱり、今日も俺の天使は天使のようだった。


「ごめんな、ソフィア。お庭で剣を振ってたんだよ」


 俺は、ソフィアの頭を優しく撫でる。


「あぅ〜、だ、だめっ!にぃに、ソフィと一緒にいるのぉ!」


 一瞬、気持ちよさそうな顔をしたが、はっと思い出したように怒るソフィア。


「う〜ん、そうは言ってもな〜」


 ソフィアをこのままにしておくのは、俺の心が許さない。

 けど、普通の人は剣を振る。


「あ、じゃあ俺を応援しててくれないか、ソフィア?」


 そう。これで一緒にいるってわけではないが大丈夫だろう。


「ソフィ、にぃに、応援?」


「うん、そうだよ。ソフィアが応援してくれたら、俺頑張れそうだ」


「〜っ!にぃに、応援する!」


 ソフィアは頬を染めて、ジャンプする。


 かわいい。


「ありがとう、ソフィア」


 俺は、ソフィアと視線の高さを合わせて、頭に手をのせて微笑んだ。


「きゃう!にぃに、大好き!」


「うおっ」


 すると、ソフィアが抱きついてきた。


 やっぱりかわいい。


 俺の妹はやはり天使のようだ。




◆◇◆◇◆◇




 深夜。俺は、隣で眠るソフィアを起こさないように部屋を出る。


 目的の場所は父さんの部屋。


 ん〜、あるかな〜。

 おっ、あった。


 俺が探していたのは、魔法の本。


 どうやら、この世界では冒険者は魔法が使えるのが普通らしい。

 そこで、俺は思った。

 子供のころから剣を振るのが普通。なら、魔法も使うのが普通なのでは?


 たぶん、俺の予想は当たっている。


 だから、今から調べるのだ。




◆◇◆◇◆◇




 だいたい分かった。


「『照らせ−−ファイアー』」


『確認。消費魔力は?』


 うわっ?!何だ?頭の中から女性の声が。

 しかも、消費魔力?何だそれ。もしかして、魔法ってそんなかんじなのか?


「じゃあ、10で」


『確認。発動』


 すると、指先に小さな炎が出る。

 不思議と熱くはない。


「良かった。ちゃんと発動できた」


 まあ、初級だからな。普通だな。


 魔法には、初級、中級、上級、絶級、神級があるらしい。


 普通の冒険者は、中級くらいまで使えるらしい。


 よし。練習して中級まで使えるようになろう。


 そして、魔力というものがあり増やす方法は全部使えばいいらしい。そうしたら、回復した時に少し増えているらしい。


「つまり、さっきの魔法を発動して寝ればいいのか」


 まぁ、今日はひとまずここまでで。

 さっきの魔法発動しよう。


『確認。消費魔力は?』


 うわっ?!今度は何?!急に来ないでよ!

 『さっきの魔法を発動して寝ればいいのか』って言葉に反応したのかな?

 ま、とりあえずさっき通りしてみようかな。


「全部で」


『確認。発動』


 指先からさっきより明るく、勢いの強い炎が出る。


 そうか、消費した魔力量で威力とかも変わるのか。


 ん?あれ、何か眠く……




◆◇◆◇◆◇




「……に!にぃに!」


「んん?ど、どうしたんだ?」


 誰かに揺さぶられ、起きたらソフィアが泣きついていた。


 誰?俺の天使泣かせた奴。殺るよ?


「うわぁぁぁん!にぃに、どっかいっちゃ、や!」


 俺でした。すみません。


 どうやら、魔力を全て失ったら気絶するらしい。


「ごめんな、寝ぼけてたみたいだ」


 俺は、抱きついて離れないソフィアの頭を撫でてあやす。


「もう、ソフィから離れちゃだめ!」


 今は、どれだけ頭を撫でてもソフィアが笑顔になることはなかった。


「心配かけてごめんな、ソフィア。もう離れないよ」


 俺は安心させるようにソフィアをそっと抱きしめた。


  もう、二度とソフィアを心配させないと誓いながら。




◆◇◆◇◆◇




 ある一室にて。


「ちょ、ちょっと、急にどこ行くんですか?!」


 若い男性が部屋から出る老人に訴える。


「ちょっとな」


 白髪の老人は歩きながら答える。


「ちょっとって、絶対ちょっとじゃないでしょ?!ああああもう、この老いぼれが!」


 男性が敬意もクソもない暴言を叩きつける。


「老いぼれは言い過ぎじゃ」


 少し、しょんぼりした様子の老人。


「はぁ、一応、元Sランク冒険者なんですから、そんな勝手な行動しないで下さい。しかも、あなたは――」


「ほら、どうせお主もついてくるんじゃろ?行くぞ」


「はあ〜、もう何も言いません。それでどこに?」


 若い男はため息を吐きながら、老人の後ろを歩く。


「ナタス村じゃ」


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