俺の妹は天使だった

 生まれてきてから俺は、自分の状況を把握することにした。


 まあ、喋れないし、上手く動けないから出来ることも限られるが。


 まず、家族のことから。


 俺の名は、フィン・トレード。

 黒髪のそこそこイケメンだと思われる顔だ。


 母がフィナ・トレード。

 黒髪でおっとりしている。


 父がアルベルト・トレード。

 黒髪で男気溢れている男。


 今はこの三人で暮らしている。

 ってのは最近、母さんが妊娠したのだ。

 だから、一年後くらいには弟か妹ができる。


 前世は、一人っ子だったから今から楽しみだ。


 そして、この世界のこと。


 俺の住んでいるところはナタス村という小さな町だ。


 どうやらこの世界は、魔法と剣のある世界らしい。


 良かったな、前世の俺。

 どうやら、死に間際の願いはきちんと叶ったらしいぞ。

 でも、無双はしねぇからな。俺は普通に暮らすんだ。


 部屋の隅に普通に剣が立てかけられている。

 魔法は母さんが普通に使っていた。


 この世界には、魔物がいる。

 どうやって発生するのかは、分かっていない。


 なんか、魔王も誕生したらしい。

 それと、なんかもうすぐで聖女が生まれるとかなんとか。

 まあ、俺は男だから関係ないが。


 魔王がいるんだったら、勇者とかもいるのかなって思ったけどまだ分からない。


 まあ、今んところ分かるのは、これくらいかな。


 じゃあ、おやすみなさい。赤ちゃんは寝るのが仕事です。


「フィンちゃん、おっぱい飲みましょうね〜」

「やっ!」

「え〜」


 母さんは、毎日俺におっぱい吸わせようとする。

 もちろん俺は、断っている。

 断る度に母さんは泣きそうになるが関係ない。


 だって俺、中身は高校生だよ。

 あと、そのおっぱいを夜な夜な父さんがしゃぶってると思うと……。

 ごめんな、こんな可愛げのない子供が生まれてきてしまって。




◆◇◆◇◆◇




 生まれてきてから約一年半が経った。


 その頃になれば、俺はようやく二本足で動けるようになった。

 喋れるようにもなった。


 そして、妹ができた。

 名前はソフィア・トレード。


「あぅあぅ!」


 小さい両手を笑顔で俺のほうに伸ばしてくる。


 俺がそっと握ると、


「きゃきゃっ」


 満面の笑みを浮かべる。


 か、かわいいぃぃぃぃぃ!!!


 これは、天使だ。


 まだ生まれてきて3ヶ月だが、俺を見ては笑顔を見せてくれる。

 ソフィアはどうやら頭がいいらしい。


 いや、待てよ。これが普通なのでは?

 俺は赤ちゃんの普通を知らない。

 ソフィアが普通なのか。

 そうだとしたら、俺は普通じゃなかったのか。

 ちくしょう。


「あぅ?」


 頭を抱えてうずくまると、ソフィアが心配そうな声を出す。


「あ、ああごめんな、ソフィア。なんでもないよ」


 心配かけたソフィアに俺は頭を撫でてあげる。


「あぅ!」


 か、かわいいぃぃぃぃぃ!!!


 どうやら、俺の妹は天使らしい。


「あら〜またお世話してくれているのね〜。ありがと、フィン」


 扉を開けて母さんが入ってきた。


「うん!」


 俺は、大きく頷く。

 別に幼児退行したわけではない。

 ほら生まれて一年半ってどれくらい喋れるのかしらないから。


「フィンもそうだったけど、ソフィアも手がかからないわね〜。二人とも天才なのかもしれないわ〜」


 いや、俺は転生者だから。本当の天才はソフィアだと思うよ。


「でも、もう少し甘えてほしいな〜」


 こっちをチラチラ見ないでくれます?


「ぱぱ〜?」


「ん?パパ?ああ、パパはね今外で魔物……悪いのを退治してるのよ」


「ん!」


 は、恥ずかしいなぁ。何が高校生にもなって『ぱぱ〜?』だよ!

 まあ、いい。おかげで良い情報が手に入った。


 父さんは、いつもこの時間あたりにいなくなる。

 疑問に思っていたんだが魔物を狩っていたのか。

 もしかしたら、父さんは冒険者なのかもな。




◆◇◆◇◆◇




 約三年の月日が流れ現在。


「フィン!誕生日プレゼントだ!」


 俺は三歳となった。

 そして、父さんと母さんから俺は一振りの剣を貰った。


「パパ、ママありがと!」


 とうとう来たか。

 俺は剣を見て笑みを浮かべた。

 あ、違うぞ?別に厨二病が再発したわけではない。


 俺はちょくちょく、家の外に出て世の中を学んでいた。

 そこで知った。

 今、子供から大人に人気な職業は冒険者なのだと。

 そして、俺くらいの歳になったら皆剣を振るうのだと。


 俺は、明日から剣を振る。


 そして、普通になる!


「ふふっ、フィンったらあんなに喜んで〜」


「そうだな!良かった、良かった!」


「でも、少し早いんじゃないの〜?三歳から剣を振るなんて貴族くらいよ〜。それも嗜み程度に〜」


「いいじゃないか!フィンが剣欲しいって言ってたんだから!」


「それもそうね〜」






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