肉まん


 週末デートは終わって次の日の放課後に、ブレイドルドと呼ばれる剣と剣で戦う競技の練習を見に来た。愛華に誘われたからだ。


 高校にもブレイドルドの部活はあって、俺と愛華は体育館の二階でブレイドルドをやっている人たちを見下ろしていた。


「勇くん勇くん、どうやって決着をつけるの?」


 愛華はブレイドルドに夢中でかぶりつくように眺めている。


 俺がやっていた競技だからか。もうやってないはずなのに無性に嬉しい気持ちになる。


「あぁ剣道とは違うんだよ。防具は付けずに、身体のどこかしらに剣を当て、1ポイントが入り、10点取った方が勝つんだ。

 ポイント取得で仕切り直しとかはない。10点を取るまで、試合が続くんだ。もちろん時間制限はあるけどね」


「へぇ」


「練習の時には電気を纏う刃がない専用武器で戦うんだが、本番は自分専用の殺傷能力のある物で戦うことになる」


 説明すると目をキラキラさせて愛華は俺の話を聞いていた。それが嬉しくなって愛華が聞いてないことまで喋ってしまう。


「専用武器って?」


「普通は剣だが、俺はブレイドルドをやっていた時には鎖鎌やトンファーに刃を付けて試合をしていた奴もいたから専用武器と言ったんだ」


「そうだったね、うん。あっ! そういえば勇くんは刀だった。私、テレビの前で応援したのに、トンファーとか鎖鎌を使っている人は見たことないな。見逃してたんだ」


「中学の頃はテレビが来ない大会もしらみ潰しに参加してたからな。愛華が見てない試合もある」


「勇くんが怪我をしても戦って、戦って、戦って。それが怖くてテレビで活躍する姿をあんまり見れなかったの。勇くんは怖くなかったの?」


「う〜ん、怪我しても傷薬で直ぐに治って、時間がかかるけど身体の欠損も治るからな。あんまり怖いって思ったことないな」


 そうだ、怖いと思ったことはない。


「もういいか? コンビニで肉まん食いたい」


 俺はコンビニへ行くために歩き出した。


「えっ? まだ来たばっかりだよ」


 愛華に手を掴まれて、俺は強制的に立ち止まった。


「見るだけじゃつまらないだろ」


「じゃ、じゃあやって行けばいいんじゃないかな」



「は?」



 低い声が俺の口から出た。


 俺からこんな低い一音が出るんだと、初めて知る。


 俺のやるせない想いが、怒りが少し顔を出した。


 愛華は俺の声にビビったのか俺から手を離す。


 愛華の優しさは分かる。けど、愛華には分からない。神に選ばれた人に、俺の気持ちは一生わからない。


「ごめん……愛華はそこで見てればいいよ。俺はコンビニに行く」


 愛華に謝ることは出来て、少し一人にして欲しかった。俺は愛華の優しさに漬け込んで、コンビニへ向かった。




 随分遠くのコンビニへ来てしまった。コンビニは六件ぐらい見たがそこでは買わなかった。


 肉まんを三個買い、お茶を待って川のすぐそばにある公園のベンチに座る。


 気づけばもう辺りは暗くなっていた。


「俺も産まれた時から力を持っていたらこんな気持ちにならずに済んだのに」


 肉まんをパクパクと食う。俺は弱い言葉を出ないように口に肉まんを詰める。


 ダサい俺の目からは塩水が出る。それが何もかけていない肉まんには丁度良かった。




 正義マンと怪人は産まれた時から、普通の人とは違い、強大な力を持っている。


 ゴリットル先輩も産まれた時からだ。


 ゴリットル先輩が悪の組織に入った理由は、『見た目を馬鹿にされてきたからだ』と飲みの席で言っていた。


 悪の組織のバイトを初めて、怪人にも俺たちのような普通の人間の心があることを知った。


 俺はその時だけはゴリラにならなくて良かったと心底思ってしまった。


 怪人にも人の姿の奴は沢山いる。バイトの完璧超人で後輩の岡村もそうだ。羨ましい。


 正義の心を力に変えられる正義マンは愛華のような魔法少女や、戦隊系だろう。正義マンにも人の姿をしていない奴はいる。


 正義マンと怪人は表裏一体で、たまに正義から悪へ、悪から正義へと入れ替わる奴もいる。



 普通の人が怪人になろうとすると、人体改造するか悪の力を貰うかだが、ダブジザー先輩はどちらとも経験している。


 普通の人が正義マンになろうとすると、まずは怪人になって、正義の心に目覚めないとなれない。


 戦隊ヒーローのスーツを着たら超人になれますかと言われたら答えはNOだ。


 あのペラペラなスーツで超人になれるんだったら、俺がバイトで支給されているスーツでも超人になれる。


 たまに正義マンだけに許された、超人からさらに強化されるパワードスーツを装着していたりするが、普通の人がそのスーツ着たら、力に耐え切れずに爆発して死ぬと、怪人の先輩から聞いている。


 やった人が何人かいたらしい。


 愛華は生まれ持った正義マンだけど、魔法少女は例外と考えないとダメだ。


 普通の人でも魔法生物の助けを借りたら、魔法少女になれるという。


 魔法少女は変身すると、絆、友情や、愛の力を糧に力が増す。愛華は愛の力を糧にと言っていた。


 戦隊ヒーローのように魔法少女も色々種類があるようで俺にも詳しくは分からない。


 でも種類が多い魔法少女だけど、全部の魔法少女に言えることもある。それは可愛ければ可愛いほど力が増す、だ。


 愛華は正義マンだし、愛に溢れているし、可愛い。よって最強の魔法少女だ。



 肉まんを三個食い終わる頃には、愛華は最強だと言うことで落ち着いた。


 満腹になると睡魔が襲ってくる。


 お茶を飲んで、ベンチに横たわり、そのまま眠りについた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る