第6話  銀座の巻子さん

 ふた月も経たないうちに、彼女は、僕の客になった。


 死んでも艶やかな彼女は、席につくと、笑って言った。


「駄目だったわ。大丈夫だと思ったのにね」


「優秀な医者だったのでしょう。長生き出来た方だと思います」


「そうよね。それよりありがとう。私も長い事、銀座で生きてきたからね、他人様に言えない事もしてきたのよ。このタクシーがなければ、とても極楽なんて行けなかったわ」


「仕事ですから、もう一度言いますが、門をくぐるまでは、自分の欲は押さえて下さい」


「分かったわ」


 霊道を走りだすと、すぐに彼女に負けず劣らず綺麗な女の人に襲われた。


「私が、最初に勤めたお店のママさんね。彼女のパトロンが、私に乗り換えたのよ。知らなかったのよ。ただ、私を応援してくれる金持ちのおじさんだと思っていたの」


「人の気持ちは、変わりますからね」


 よほど、彼女には、胆力に恵まれていたのだろう。笑っていた。


「おかしいわね。生きているときも彼女に刺されそうになった。死んでも襲われるのね」


 僕は、行灯の光りを強くした。


しばらく走ると、次々と襲われた。


 あの女は、隣の店のママで、お客を巻子さんの店に、とられて潰れた人。


 あの人は、客をとられて、大騒ぎしたあげく、殴り合いのケンカになって、お店をクビになった女。


「幻滅したでしょう。夜の世界とはいえ、夢を売る商売なのにね。バレバレでしょうけどね」


「いいえ、それでも夢を見てしまう女性だけが生き残る世界でしょう」


 彼女が、僕を見た。


「帰ったら、たまには、私の店に遊びに行ってね。少々お値段は張るけど、あなたならいけるでしょ。真美ちゃんは、あなたを気に入ってるようよ。あの娘なら将来大化けするかもよ」





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