第5話  第2の客

 狐乃襟巻子このえりまきこさんから連絡が、あったのは、やはり夜だった。


 行った事のない銀座の高級クラブに呼び出された僕は、居心地が悪く、お尻がモゾモゾした。


 席は、囲われていないのに、他の席から死角になり、そのまま自分の身体が一部になってしまうのかと思うほど沈み込むソファー。


 慣れれば居心地は良いところなのだろう。


「ママのお客さんですって?」


 とても綺麗なドレスに負けない美しい女性が、僕の隣に付いてくれた。


 良く見回すと、全ての席に負けず劣らずの美女が、男たちの相手をしている。


 しばらくすると、よりいっそう艶やかな女性が現れて、全ての席に挨拶をしてまわった。


 お店の入り口に飾ってあった百合の様な雰囲気を持っている女性だ。彼女がガラス玉に触れれば、ダイヤモンドに変わってしまうのではないか、と、思わせる雰囲気がある。


 彼女は、僕の席まで来ると、自分の名刺を出し、隣に座った。


 少し目配せすると、席にいた女性は、立ち上がり去って行った。


 名刺には、百合と記されていた。


「ポン先生にお話しを伺いましてね。無理を言って連絡先を教えてもらいましたの」


「僕に用があるようには、見えませんが」


わたくしたちは、化粧のプロなので…。先日病院で、膵ガンと診断されまして、近々手術するのですが、駄目だったときのためにね」


「分かりました。では、これを読んで頂いて、必要事項を記入してください」


  目線を落とした彼女の視線が、再び僕を見た。これだけで、彼女に落とされた男たちは、たくさんいただろう。


「お名前は、本名でお願いします」


「確認しますが、ポン先生は確かに送り届けていただいたのよね」


「はい。そこに書かれているように、極楽門に、確かにお送りしました」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る