第2話

 レイシャにメイクを教わってからマナリィの生活は一変した。

 今まではどこか避けられてた雰囲気だったのに、メイクをしただけで周囲から声をかけてきたのだ。


 そんな周囲の変化に戸惑いを覚えながら、内心でドギマギするマナリィ。メイクを施したレイシャも何処か自慢気だ。



「凄い、メイクだけでこんなに変わるものなんですね」


「そうよー、男って単純だから」



 驚きに声をあげるマナリィに同意する様にレイシャは頷いた。



「そう言っては相手に失礼ですよ?」


「良いのよ、相手はマナリィだって気がついてないんだから」



 メイク道具はレイシャのを借りたので、マナリィがずっとそれを続けていくにはそれら一式を買い揃える必要があった。

 懸念問題があるとすればその維持費か。



「でも、買い揃えると高いんでしょう?」


「そりゃそうよ。女にとってメイクは武器なのよ。オシャレするのも一緒で、着飾ることで自分を一つ上のステージへと上げてくれるのよ」


「はぇー、全く想像もできないわ」


「マナリィももう少しオシャレに目覚めるのが早かったら恋人の一人や二人出来てたかもね?」


「そうかもしれませんね。でも二人もいらないです。一人でも私に気を許してくれればそれで良いかなって」


「あら、消極的ね。なんだったら男を取っ替え引っ替えするくらいに自分の魅力を高めてやろうとは思わないの?」


「私はそこまで……レイシャさんはそうなんですか?」


「どうだろ? 言い寄られることはあるけど、そう言う人たちって着飾ってるあたしが好きなだけで中身のあたしまで愛してくれてるわけではないのよね。一時的な恋愛状態とでも言うのかしら? だから言葉が薄っぺらいと言うか」


「レイシャさんでもそう思う時があるんですねー」


「何よそれ、馬鹿にしてるの?」


「いいえ。ちょっと意外だなって」


「そうね、周囲はあたしをそいう風に見てる人は多いわ。でも本当は違うのよ。着飾ってるあたしは本当のあたしじゃないもの。普段はモデルでもプライベートの時間はあるのよ?」


「そうなんですよねー……あ、これ可愛いかも」


「あんたセンスは悪くないのよね。それ今年の流行色よ」


「へー。でもお値段が……」



 値札を見てマナリィが硬直する。

 それを横目にレイシャはくすくすと笑った。



「オシャレも案外お金がかかるのよ。流行に合わせて着飾ると、月毎にドレスが増えていくもの」


「それはちょっと考えものですね。自分で作れればなー」


「そうね、いっそ自分で作れちゃえばコストは大幅に下がるわよね」


「じゃあ作っちゃいましょうか?」


「あんた、簡単に言うけどね?」



 あっけらかんと言い切るマナリィにレイシャはその過程がいかに大変か言いくるめる様に語気を強める。



「実は私、裁縫が得意なんですよ。そういう理由で今の勤め先に来てますし」


「裁縫ができてもお洋服を作るのは別次元よ? ウチは服飾店と言っても売るのが専門で作るのは別の業者がやってるわ」


「大丈夫ですよ、普段から見てますから」


「???」



 マナリィの物言いに不穏なものを感じながらレイシャはクエスチョンマークを頭の上に並べた。

 意味を測りきれない様に沈黙する。

 意外にもその沈黙を破ったのはマナリィが先だった。



「なのでお願いがあります」


「何かしら?」


「私のモデルになっていただけませんか?」

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