無理やり攫ってきておいて、運命の番と出会ったからと捨てられました

伊澄かなで

第1話

 こんなにも彼を愛していると気付いたのは、彼に捨てられたそのときでした。


「すまないユイ、僕は運命のつがいと出会ってしまったんだ。だからきみとは、結婚できない」


 そう言って、リカルド侯爵様は悲しげに目を伏せました。

 どうして彼が悲しそうな顔をするのでしょうか?

 泣きたいのは、私のほうなのに……。


「もちろん、これまで通り、きみを放り出したりはしない。この離宮で、自由に過ごしていてもらって構わない。きみの生活は、保障する」


 途切れ途切れに、まるで言い聞かせるように、彼は私にそう言います。

 これでは私が我儘を言っているようでした。


 私は悔しさを噛み殺し、彼の目を真っ直ぐ見つめて言いました。


「……分かりました。でしたら私を、もう元いた国へ帰してください」


 リカルド侯爵様は、透き通った蒼い瞳を見開いて、ぺたんと犬耳を伏せて言いました。


「すまない。それはできないんだ。ユイ、知っているだろう? 頼むから我儘を言わないでおくれ」


 何が自由なものですか。

 何が我儘なものですか。


 私はもう、帰りたいのです。

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