第2部 27

 一夜明ける。昨日の決意はひとまず夢の中にしまっておけ。

 朝、出勤した署で、タクヤは話題の人物となっていた、またしても。

「署長が呼んでたぜ」

 なんだ?

 同期の人間に、スマホでみせられた映像に、タクヤは驚愕させられた。

 タクヤが決意したと同じような時刻、ネットの、例のチャンネルに映像があがっていた。

 なんと、影盗団が誰かと戦っている、とみられる映像だった。

 紛れもない、タクヤたち三人と四人の影盗団の映像だった。なんで

「これが」

 ネットにあがる、撮影されているんだ!

 そんな驚きを精一杯抑えた言葉だった。

「いや、いつも山田が映ってたから、これもおまえなんじゃないかってさ」

 同期が笑っていった。「これが俺となんの関係があるんだ」そんな風に聞こえたのだろう。

 もちろん署長には、

「違いますよ、そんなわけないっしょ。その時間ですか? 友だちと遊んでましたよ」

 真顔で否定するか、笑って冗談ぽく否定するか。

 まあ、タクヤはそれほど芸達者ではないために、感情がほぼほぼ丸出しになった硬い表情にしかならないのだが、特に、こういう改まった場所では。

 ――真下から「みて欲しいものがある」っていうのは、このことか……。

 決意の純潔性を守りたかったために昨日は現場からまた寮に直で戻って寝てしまったのだが、こんなことならいっておくべきだった。

 真下にしたって、勿体つけずに「こんな動画があがってる」てびっくりマーク「!」一〇個くらい付けて教えてくれりゃよかったのに。

 映像は途中からだった。車は映っていない。そこはとりあえずほっとした。


 日勤明け、夜二二時頃、タクヤは真下の家にいる。

 真下、ジュンペイ、さぁも真下の斜め後ろで座っていた、今回はさぁにも直接関係がある、そしてマキ。

「映像を作ってアリバイ工作しといたほうがいいな」

 いまいちピンときてなさそうなタクヤをみて、真下が続ける。

「日本ですよ、ここ、北関東の一地方都市ですよ、南東北とかいわれる地域ですよ、そんなとこで、ロケットランチャー撃って五人が死亡て、あんた」

 それは東北地方の人にも失礼だ。

「なにを暢気なこといってんすか、捜査一課、三課に組対、下手したら公安まで動くかもしれない事案ですよ。考えうることは全てやっておかないと」

 確かに、タクヤは暢気くんだった……。

「なんでここなんだよ」

「店内に防犯カメラがある店なんて、ここくらいしかないんですよ、仕方ないでしょ」

 五人がきたのはバー『サントゥイユ』。ここは、いつかきたゲイの方たちが集まるバーである。

 店長は快く許可をくれた。この店長、この店にきているお客さんたち、妙に信用できる気がするのは、なぜだろう。

 特別なことをするということではなく、座って普通に酒を飲むだけ。真下たちが映っていてはかえって怪しい。

「二日にわけて映像を作ろう、二日というか、二日分」

「俺が何度もここにきてるみてぇじゃねぇか」

「それが狙いですよ。何度かここにはきていると思わせるんです」

 なぜ?

「もし聞かれても、一気にいったらだめですよ」

 どういうこと?

「いきなり『この日とこの日にいった』じゃなくて、最初に『一二日の夜はここにいた』ていう、さらに追求されたら『実は他の日にもいってる』と。このほうが信憑性が高くなります」

「おまえら、楽しんでるだろ」

「冗談じゃありませんよ。こっちだって必死っすよ。相手はロケットランチャー持ったテロリストに、警察オールスターズですよ」

 悲観しているようにはみえないが。

「俺たちだって、まっさらな体じゃない、探られれば痛む腹なんです」

 いきなりテンション落として真面目な顔になる。

 これが真下の口説きのテクニックか。男前が。

「ばれないのか」

「そこはマキに任せておいてください」

 演技というほどのこともないが、座り位置、シチュエーションを決めて映像を撮った。

 その後の編集作業はマキの仕事。

 日付が変わる前に、タクヤだけ先に帰宅した。翌日は当番だ、しっかり休んでおかなければもたない。

 

「なんでこんなことするんです」

 真下の言葉が蘇る。

 ここまで首を突っ込まなければ、人が死んだりはしなかった、かもしれない。もっと黒子に徹しておけば。

 彼らは、影盗団は一般人の命を奪ったりはしなかった。タクヤが捕まえたことによって人が死んだ。

 いったいどっちのほうが「悪」だ……。

「起こっちまったことを思い返して悩んだって仕方ねぇっしょ。盗まれるほうがわりぃっていう人がいるけど、盗んだほうがわりぃに決まってる。今回だって、ミサイルぶっ放したほうがわりぃに決まってる」

 真下の家からサントゥイユに向かう道、歩いていったのだが、タクヤの悩みを解そうとしてくれたのは、ジュンペイだった。

 ある意味、わかっている、当然だ、そういう風に考える、切り替えるのが。

 タクヤだってそういう「答え」は持っている。

 他人が、仲間がそういうことをいってくれたことに、正直、救われる思いだった。涙が出そうだった。

 いってくれたことが、そういう仲間がいることが、そういう仲間であることが、そういう仲間ができたことが。

 いつかケジメはつけなければならない。

 タクヤの中にそんな言葉が、文字が刻まれた。

 自分に対するケジメ、犠牲者に対するケジメ、警察に対して、そして、犯人に対して、きっちりケジメをつける、落とし前を、つけてやる。

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