第26話 絢斗と水卜と過去④

 水卜と仲が良くなって冬休みが訪れ、受験勉強で塾の空気がピリピリし始めていた。

 でもそんな中でも三浦はマイペース。

 のほほんと勉強をしていた。

 彼女の私服は少し派手めで、肩が露出しているタイプの物。

 腰よりも高い位置までズボンが伸びており、実際よりも足が長く見える。

 しかし服装が好きなだけでギャルっぽさはないんだよな、水卜って。

 彼女の恰好を見て俺は、勘違いされるからそんな恰好止めておけばいいのになんて考えていた。


「お前さ、そういう恰好しなかったら、もっといい子だって思われるんじゃない? 俺だって最初は勘違いしたし」

「ええ~。でも好きな服は着たいもん~。理由はないけど、こういう服装が好きなんだ~」


 好きなのなら仕方ないか。

 だが普通に可愛い服着てれば周囲の評価も悪くないのに。

 実際、水卜は服装だけでバカで迷惑をそうなんて印象を周囲に与えていた。

 教師に注意を受けているところも見たことがある。


 まぁせめて、俺だけでも彼女はそんな奴じゃないと理解してあげていたらいいか。

 こいつの友人もそんな連中ばかりだけれど。

 でも水卜だけはそんな奴じゃない。

 良い奴なんだ。

 誰かに迷惑をかけることもないし、自分の将来を見据えて行動もしている。

 人を傷つけるような真似もしない……優しい女の子なんだ。


 その時の俺は、そう信じていた。

 でもそれがバカだった……全部俺の勘違いだったんだ。


 事件は、卒業式の日に起きた。


 肌寒い風は吹くが爽やかな青空。

 俺はそんな空を見あげて笑みを浮かべていた。

 それと同時にさ寂しさも感じる。

 今日で水卜とは別々の学校……会う機会はぐんと減るだろう。

 と言うか、もう会えない可能性だってある。


 となれば……告白しといたほうがいいのかな。

 いっちゃいますか?

 でも振られてたらどうしよう。

 この頃にはすでに水卜に対してハッキリとした行為を抱いていた俺。

 緊張と不安、それに希望を感じながら学校への道を歩く。


 中学を卒業すること自体はなんとも思わない。

 数人の友人とはこれからも付き合いは続くであろう。

 なんだかんだで初もうでに一緒に行ったりしていたし、仲は良好だったように思える。

 やはり心残りは水卜のことだけだな……


 色んなことを考えていると、気が付けば学校に到着していた。

 同級生がゾロゾロと学校へと入って行く。

 俺もその流れに従い、教室へと向かう。

 教室に到着すると仲本たちがおり、楽しそうにクラスメイトたちと会話をしていた。

 水卜はまだいないようで俺は自席に着こうとするが、急に肩にポンと手を置かれる。


「おはよ~絢斗~」

「ああ、おはよう、水卜」


 彼女のいつも変わらない笑顔。

 人を優しい気持ちにさせる素敵な笑みだ。


「今日で卒業だね~」

「ああ。卒業だな」

「別々の学校に行くんだよね~」

「だな……」


 俺はしんみりとするが、水卜は普段通りの表情。

 のほほんと何も気にしていない様子だった。

 俺と離れるのは別に寂しくないのかな?

 そんなことを思い、俺は少し切なく感じていた。


 ため息をつき、自分の席に着く。

 

「ん?」


 なんとなく机の中に手を入れると――そこには一枚の手紙があった。

 それは女の子が用意するような可愛らしい物で……裏には『水卜菫より』という文字がある。

 これは……水卜からの手紙?

 俺は歓喜に興奮し、手紙を持ってトイレに向かった。

 大をするわけではないけれど、個室に入り手紙を読む。


 内容はと言うと……卒業式が終わった後、教室に来て欲しいということであった。


 俺はガッツボーズを取り、一人喜びを抱きしめる。

 場所がトイレでなければ転がり回って喜んでいるところだ。

 だがトイレは清潔な匂いがするので気分はいい。

 俺は手紙を胸のポケットにしまい、トイレを後にした。


 そして卒業式は無事に終わり、約束の時間が少しずつ迫る。

 泣いている女子に、いきったポーズで写真を撮る男子たち。

 俺は特に何かをすることなく、その辺をぶらぶらした。


「そろそろいいかな……」


 水卜もさっきまでは他のクラスメイトたちと写真を撮ったりしていたから、すぐに向かってもしかたがないと思っていたのだが……結構な時間が経ったしもういいだろう。

 俺はワクワク、ドキドキしながら教室へと向かった。

 教室の前に到着すると、心臓が爆発しそうな勢いで脈打っていた。

 

 うわー、緊張するな……

 俺は喜びに振るえる手で教室の扉にてをかける。

 そしてゆっくりと扉を開けると――


「マジで来たぜ、高橋の奴!」


 ドッと沸くクラスメイトたち。

 教室の中には仲本を中心に、俺の友人でもある同級生も含めて皆がいるようだった。


 俺は呆然としたまま、大笑いするクラスメイトたちを見つめる。


「……え?」

「お前、菫にバカにされたんだよ! もしかして告られるとでも思った? 残念だけどそんな夢みたいな話はねえよ!」


 ゲラゲラ笑うクラスメイトたち。

 俺は真っ白になった頭のまま、気が付けば逃げ出していた。


「…………」

 

 クラスメイト皆で俺のことをバカにしていた……

 友達だと思っていた奴らも笑っていた……

 好きだった水卜にも裏切られた……


 俺は涙を流しながら走り続ける。

 手に持っていた卒業証書はどこかで落としたのか、見当たらない。


「クソ……クソッ……」


 家に帰り、ベッドに飛び込む俺。

 そして友人や水卜のことを考え、恨みと憎しみが沸き起こる。

 どうしようもない感情に暴れ出したくなるが、親に心配をかけたくない。

 そう考え、俺は一人ベッドの中で叫んだ。

 声が枯れるまで叫び、最後は怒りを通り越し笑っていた。


「こんな裏切られるなら友達はいらない……彼女だったいらない……俺はもう独りでいい。それなら誰にも裏切られない……孤独に生きてやる」


 友達を作らず独りで生きる。

 俺を裏切った水卜のことを思い、怒り渦巻く思考で、暗くそう決断したのであった。

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