第24話 絢斗と水卜と過去②
水卜の顔を見た瞬間、自分の中でまた怒りが募る。
見るだけで腹が立つ……何しに来たんだよこいつは。
と言うかそもそもなんでここで俺がバイトしてること知ってるんだ?
「……俺のバイト先、なんで知ってるんだよ?」
「あ~、有名人だからさ~、絢斗」
なるほど……ニュースを見たってことか。
面倒な奴にまで俺の居場所を教えてくれたようだな、世間の情報は。
俺は心底辟易し、ため息をついて室内に戻ろうとした。
「ね、ねえ。ちょっとぐらい話できないの~」
「できないんじゃない。する気がないんだよ」
「……なんでそんなに私のこと避けるかな~。私、何か悪いことした~?」
「…………」
水卜を殴りたい衝動に駆られる。
だが俺はグッと我慢し、彼女を睨むだけにとどめた。
水卜は身体を縮こませてこちらを見ている。
「……お前にとっては冗談だったかも知れないけど、俺は本気だったから」
「私、何か冗談言ったっけ~?」
首を傾げる水卜。
あらゆる出来事は、人によって意見も感じ方も違う。
とにかくこいつとはもう会いたくも見たくもない。
俺は扉を開け、さっさと中に入ろうとした。
これ以上こいつと一緒にいたくない。
部屋の中には御手洗がおり、俺の顔を見てニコッと笑う。
「絢斗!」
「…………」
「私、絢斗があの学校に行ってるって知ってたの~。だから暇な時はあの辺りをウロウロしてた……いつか絢斗に会えるかなって思って~」
水卜は何を言ってるんだ。
俺にあれだけのことをやっておいて……今更会えるかなって、常軌を逸しているとしか思えない。
「水卜……自分で何やったのかよく考えろよ」
「だから、何か悪いことしたっけ~」
「……もういい」
俺は扉を力いっぱい閉める。
バタンという大きい音に御手洗が両耳を塞いでいた。
「……今の人誰っすか?」
「中学の時の同級生だよ」
「同級生っすか……何か訳ありみたいっすね」
「訳なんてないよ。ただアイツのことが嫌いなだけさ」
「……やっぱり訳ありっすね」
俺に詰め寄る御手洗。
彼女の清潔な香りが鼻の奥に飛び込んでくる。
「な、なんだよ……」
「あの人のこと、聞かせて下さい」
「私も聞かせてよ」
「って、春夏冬!? なんでここにいるんだよ?」
何故かバイト先のバックヤードにいる春夏冬。
服装は私服。
可愛らしい恰好をしており、それを見ていた店長が鼻の下を伸ばしている。
「店長……なんで部外者がここにいるんですか?」
「え? 部外者だけど君の友達だろ? それに可愛いし」
「可愛いのは関係ないでしょ。まったく……」
この人は適当な部分は適当すぎる。
まぁしかし、この人の店だからこの人の自由なのだけれど……
だからここに春夏冬がいようが問題はないわけだ。
いること自体が俺としては大問題だけれど。
「で、どういう関係なわけ?」
「どう考えてもただならぬ関係っすよね……もしかして、も、元カノとかっすか!?」
「違う……付き合ってなんていなかった」
付き合う寸前だったような気もするが。
いや、それも俺の思い込み……あいつの策略だったのかもしれないが。
「だったら何? 詳しく聞かせてよ」
「……あ、バイト頑張らないと」
「高橋くん! 今日はバイトしなくてもいいよ! こんな調子じゃ、店もまともに機能しないようだしね!」
面倒なこと言うんじゃないよ、店長……
逃げ道がドンドン失われていく。
バイトに逃げることも、ここから出て裏で時間を過ごすこともできない。
二人の視線が痛いほどに刺さる。
視線で人を殺すなんて表現もあったが、怪我ぐらいは本当にしそうな勢いだな。
俺はゴクッと息を呑み込み、そして彼女たちを見る。
「……は」
「「は?」」
「……初恋の人だよ」
二人は愕然とし、足元をヨロヨロとさせる。
そして黙ったまま真っ青な顔で俺を見つめていた。
「あ、言っとくけど、さっき言ったように付き合ってはいないからな。それに今はなんとも思っていない」
それは少し嘘だった。
なんとも思っていないわけがない。
激しい怒りを覚えている。
恋心なんてものから遠く離れた感情ではあるが、彼女に対して抱いているのだ。
「そ、それで……なんであの子は高橋に会いにこんなところまで来てるの?」
「そうっすよ。なんとも思ってなかったら会いには来ないっすよね」
「そんなの知るかよ。俺は会いたくないけど、あいつは会いたいなんて言ってたけど」
またヨロヨロとする二人。
「それって……相手も好きってことじゃないっすか」
「は? そんなわけないだろ」
俺は怒り気味に御手洗に言う。
「だってあいつは……あいつたちは俺をはめて楽しんでたような奴だぞ」
「はめたって……どういうこと?」
「…………」
口が滑った……
そう、あいつらは俺の反応を楽しんで、笑っていただけなんだ。
俺とアイツの関係はそれだけだった……結果としてそれだけだったんだ。
二人はもう話すまで帰さない。
そんな覚悟を感じる目つきで俺を睨んでいた。
もう話すしかないのかな……
ああ、面倒だなぁ。
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