World

カチカチカチカチ…。


大きな時計の針は動きを止める事はなかった。


目の前に広がる綺麗な光景をその場にいた者は目を離せないでいた。


静かで、とても穏やかな光の球が螺旋階段から放たれている。


「時計が逆に回ってるわ…。どう言う事?」


マリーシャはそう言って、隣にいるロイドに尋ねた。


「世界が元に戻ろうとしている。恐らく、アリスのハートが壊されたんだと思う…。」


「ゼロがやったのね!!」


「あの光は…、きっとゼロが関係している。」


「おーい!!」


ロイドとマリーシャが話していると、欠片の状態のエースとCATが近付いて来た。


「この声は…、エースとCATか?」


「正解ー。2人共、早くここから離れないと足場が崩れるよ?」


ロイドとマリーシャはエースの声に促されながら、足元に視線を向けた。


足場になっていた床がボロボロになっている事に気が付いた。


「え、え、え!?足場が!?」


マリーシャは驚きのあまり体がフラついた。


ガシッ!!


「あっぶねー。」


フラついたマリーシャの腕をロイドは強く掴んだ。


「ロ、ロイド…。」


「ほら、俺の腕しっかり掴んでろ。落ちたりしても知らねーぞ。」


ロイドはそう言って、腕を絡めやすくする為に腕を少しだけ広げた。


頬が赤くなった事を誤魔化すように下を向きながら、恐る恐るロイドの腕に手を伸ばした。


「し、失礼…します。」


「お、おう。」


ギュウッ。


マリーシャはロイドの腕にしがみ付いた。


「なんだコレ。」


CATは呆れた声を出しながら光を放った。


「「……。」」


CATの言葉を聞いたマリーシャとロイドは頬を赤く染めた。


「イチャついてないでさっさとしろよ。時間がないって言っただろ。」


「う、うるさいわね!?時間がないってどう言う事よ。」


「ほら、上。」


「「上??」」


2人は声を合わせながら上を見上げると、大きな白い扉が開いていた。


「何?あの扉。」


「何…って、ここから出る扉に決まってるだろ?エースと作ったんだから。」


マリーシャの言葉を聞いたCATが答えた。


「CATとエースが作ったのか?」


ロイドはそう言って、CATとエースに尋ねた。


「そうだよ!!扉が閉まる前に行かないと、この世界に取り残されちゃうよ!!」


エースは慌てた声を出して、2人に扉に行くように誘導した。



ロイド達が話している中、マッドハッターとインディバーは白い扉に向かっていた。


「あの扉はエースとCATが作った出口ね。仕事が早くて助かるわ。」


「ゼロはどこだ?」


マッドハッターはそう言って、周りを見渡した。


「ゼロの姿が見当たらないわね…。どこにいるのかしら?」


「ゼロとジャックの姿がない。もしかしたらあの光の中にいるのかもしれない。」


「あの大きな光の中にゼロがいるって事?」


「マッドハッターの読みは合ってるよ。」


2人に声を掛けたのはNight mareだった。


「Night mare!?ゼロと一緒にいたんじゃ…?」


マッドハッターはそう言って、Night mareに尋ねた。


「いた…はずだった。」


「え?いたはずだった…ってどう言う事?」


インディバーはそう言ってNight mareに尋ねた。


「俺にも分かっていないんだよ。いつの間にか4人の姿が見えなかった。」


Night mareの言う4人とは、ゼロとジャック、アリスとミハイルの事だ。


この4人はNight mareの目の前から姿を消したのだった。


その4人はと言うと、光の中にいた。



ゼロside


目を開けると、視界に広がったのは真っ白な空間だった。


時計の針の音だけが耳に届く。


「ゼロ。」


ジャックの声が後ろから聞こえた。


ボクの今の状態は、ジャックに後ろから抱き締められている。


ジャックのポカポカとした暖かい体温がボクの体に伝わってくる。


周りを見渡すと、ボクとジャックの周りにガラスの破片が何個か浮いていた。


破片には小さい頃のアリスとボクの生活が映っていた。


小さな破片に流れ出した映像は、ボクとアリスの過去を映し出している気がした。


「この映像は、ゼロの過去の映像…か?」


「あぁ、ボクの過去とアリスの過去が映し出されてる。」


「そうか…。だけど、どうしていきなり過去の映像が流れ始めたんだ?」


ジャックはそう言って、不思議そうな顔をしてガラスの破片に視線を落とした。


ーこっちに来てー


ボクの頭の中にアリスが語り掛けて来た。


アリス?


こっち?


ボクはジャックの腕の中から抜けた。


「ゼロ?」


ジャックがボクに声を掛けて来たが、ボクはそのまま歩き始めた。


アリスの声の案内を聞き真っ直ぐ歩いた。


ジャックは何かを察知したらしくボクの手を取って、一緒に歩き出した。


ボク達は黙ったまま歩いた。


暫く歩くと、銀色の鳥籠が1つだけあった。


鳥籠の中には1本の鍵が浮いていた。


「鍵…?」


ボクがそう呟くと目の前に手帳が現れた。


この手帳は…、アリスの鍵付きの手帳だ。


「鍵付きの手帳?もしかして、あの鳥籠の中にあるのがこの手帳の鍵…か?」


ジャックは手帳と鍵を交互に見て呟いた。


「この手帳は…、アリスの手帳だ。アリスの部屋にあった物だ。」


「アリスの手帳なのか?」


「あぁ。だけど、どうしてこんな所に?」


ボクは目の前に現れた手帳を不思議に思いながら手に取った。


ガチャッ。


手帳を手に取ると、鳥籠がガチャリと音を立てながら開いた。


「鳥籠が開いた?」


開かれた鳥籠を見ながらジャックが呟いた。


「鍵を取れって事…か?」


ボクはそう言ってから、鳥籠の中にある鍵を取り出した。


鍵を取り出してから手帳についてる南京錠の鍵穴に鍵を差し込んだ。


ガチャッ。


「開いたな。やっぱりこの鍵は手帳のか。」


「そう…、みたいだな。」


だけど、どうして鍵付きの手帳が現れた?


アリスはボクにこの手帳を読んで欲しくて誘導したのか?


ボクはソッと手帳を開いた。


そこには、アリスの気持ちが書かれていた。


「 今日は、あたしと似た女の子をミハイルに殺させた

  この世界にあたしに似た女の子はいらない

  だけど、殺した後に感じたあの感情何?  」


次のページを開いた。


「 殺しても殺してもこの世界のアリスになれない

  やっぱりあたしがアリスじゃないから? 」


ペラッ…。


「 あたしに飛ばされたアリスはどうしてるかな

  どんな生活をしてるのかな

  最近よく飛ばされたアリスの事を考える

 あたしは自分が幸せならそれで良いと思ってた。

  世界があたし中心で周れば良いって思ってた。

  だけど、どうしてなのかな

あたしはアリスになったのに、本当は誰もあたしを

見てくれていない気がする。         」


ペラッ…。


「 ミハイルに酷い事を言った

 言葉を放った後にいつも気付く

 本当はこんな事を言うつもりじゃなかった

ミハイルの傷付いた顔を見ていつも気付かされる

ミハイルが離れて行っちゃったらどうしよう…

ミハイルに嫌われたどうしよう…

ミハイルだけが本当のあたしを抱き締めてくれる

あたし、ミハイルがいないと生きていけなよ  」


ペラッ…。


「 ミハイルの体が限界に近付いてる

 それはあたしの所為だって分かってる

 ミハイルがあたしの為に命を犠牲にしてるって

 ミハイルを助けるにはあたしが死ぬしかない

この世界を作ったのはミハイルだけど、この世界の核はあたしの心臓で世界が周ってる

あたしは…

まだ…

ミハイルの為に自分が死ぬ事は出来いない  」


「アリスは、ミハイルが死ぬ事を分かっていたのか。」


ジャックは手帳を見ながら呟いた。


アリスは迷って来ていたのか。


ペラッ…。


「 ミハイルが最近、眠裏が深くなった

  隣で寝ているミハイルの顔色が悪くなった

  体もどんどん痩せてきた 

  ミハイルが眠った後、とてつもなく不安になる

  このまま起きなかったらどうしよう

  ミハイルが死んだら、あたし生きていけない

  だからこれで最後にする

  これで最後にするから生きてよミハイル 」



そこで日記は終わっていた。


これで最後にするって事は、あの時のハート城への襲撃の事だろうか。


本当は…。


アリスは終わらせようとしていた?


この世界をミハイルの為に終わらせようとしていたのか。


この手帳を読んだらそう思える。


「ここに来てくれてありがとう2人共。」


ボクとジャックは声のした方に視線を向けた。


すると、目の前にアリスが立っているけどアリスの体は薄くなっていた。


「アリス!?」


ジャックはアリスの姿を見て声を上げた。


「驚く事ないでしょ?あたしがジャックとゼロをこ

こに呼んだんだから」


「ボク達を呼んだ…って?」


「ほら、見えるでしょ。あたしの世界が壊れて行くのを。」


アリスがそう言うと、ボクとジャックの目の前に大きな鏡が現れた。


鏡に映っていたのはさっきまでいた空間だった。


ボロボロになって崩れ落ちている螺旋階段、ヤオ達が大きな白い扉に向かって飛んでいる姿が目に入った。


「ヤオ達が向かってる扉は?」


「CATとエースが作った出口ね。」


ボクの言葉を聞いたアリスが答えた。


「あの大きな時計の針が廻り切る前に、この世界から抜けないと取り残されちゃうから。急いで向かってるのよ。」


「じゃあ、俺達も行かないとまずいんじゃないのか?」


「ちゃんと逃してあげるわよ。この手帳を読んだゼロならあたしが最後にここに呼んだのか分かるでしょ?」


アリスはそう言ってボクを見つめた。


ボクは持っていた銃をアリスに向けた。


「ゼロ?!」


「アリス。ボクに終わらせて欲しいんだよな。」


ボクの言葉を聞いたジャックは口を閉じた。


「アリス、ミハイルの為に死ぬ気なんだな。だけど、ミハイルはアリスがいないと駄目だろ?アイツ、お前まで失ったら壊れるぞ。」


「…、分かってる。分かってるけど、生きてて欲しいの。あたしが死ねばミハイルの記憶からあたしは消える。だからー。」


「んな事させねーよ。」


「「っ!?」」


パリーンッ!!


突然聞こえて来た何かが割れた音と、男の声。


アリスの作ったの空間が破れ、現れたのはミハイルだった。


ミハイルの後ろにはさっきまでた空間が見えた。


「「ミハイル!?」」


ボクとジャックの声が重なった。


それはアリスも同じようで驚きを隠せていなかった。


「な、何で?どうしてここに来れたの…?」


「そんな事はどうでも良いんだよアリス。俺の記憶からアリスを消すって何。」


ミハイルはそう言ってアリスを見つめた。


少し怒っているミハイルにアリスは一歩下がった。


「逃げるなよアリス。お前が死ぬ?俺を置いて死ぬのか。」


「だ、だって…、あたし、ミハイルに死んで欲しくないもの。あ、あたしミハイルの事が大事なの。」


「アリス?それって…?」


「だ、だから、あたしが本当に愛してるのはミハイルなの!!だから死んで欲しくないのよ!?何で分

からないの!!」


アリスの言葉を聞いたミハイルは目を丸くした。


「え、え?ジャックが好きなんじゃないの?」


「だ、だからジャックの事は…。ジャックの事が好きなんだって思い込んでたって言うか…。ごめんねミハイル。」


ギュッ。


アリスはそう言ってミハイルに抱き着いた。


ミハイルも抱き着いたアリスを抱きしめ返した。


「アリス。俺はお前さえいれば良いんだ。だけど、アリスが死ぬのだけは駄目だ。」


「じゃあ、どうしたら良いの?ミハイルが死ぬなんて嫌よ。」


「アリス…。俺の身勝手なわがままを聞いてくれるか?」


「え?」


「一緒にこの世界に残ろう。」


ボクとジャックはミハイルの言葉を聞いて心臓が跳ね上がった。


アリスはミハイルの言葉の意味を分かったらしく黙って頷いた。


「アリス…?」


チッチッチッチッチ…。


ボクがアリスに声を掛けようとした時、時計の針の動きが早くなった。


「ゼロ、ジャック。早く行け、間に合わなくなるぞ。」


ミハイルはそう言ってボクとジャックの背中を押した。


ドンッ!!


背中を押されたボクとジャックは、アリスとミハイルがいた空間から弾き出された。


「「アリス!!ミハイル!!」」


パシッ!!


ボクとジャックの声が重なると同時に誰かに手を掴まれた。


「ゼロ!!」


「ジャック!!」


ボクとジャックの手を掴んでいたのはヤオと帽子屋だった。


ボクとジャックは白い大きな扉の近くに吹き飛ばされていたらしく、ヤオと帽子屋がボク達の手を掴んでいたのだった。


「ヤオ!!帽子屋!!」


「ったく、間に合わないかと思った。早くここを出るぞ。」


ヤオはそう言ってボクとジャックを引き上げた。


「待ってくれ!!まだ、ミハイルが…。」


ジャックはそう言ってミハイルのいる方向に目を向けた。


「アイツ等を助ける時間はねーぞ!?お前だけ残りたいのか!?」


ヤオは大きな声でジャックに怒鳴り付けた。


「っ…!!だ、だけど、こんな別れ方があるかよ。」


「さっさと行けよジャック!!お前にはゼロちゃんを幸せにする義務があるだろ!?」


ジャックの言葉を聞いていたのか、ミハイルが大きな声で叫んだ。


「ミハイル!?」


「俺の幸せはそっちの世界にはない。だからここに残る。お前に助けられなくても良いんだよ。それと、悪かったな今まで。」


ミハイルの言葉を聞いたジャックは辛そうな顔をした。


「それ…を今、言うかよミハイル。」


「今だから言うんだよ。Night mare!!扉を閉めろ!!」


時計の針が廻る音とミハイルの声が重なる。


「っ!!アリ…。」


ボロボロになって行く世界の空間に浮いていたミハイルは青白くなったアリスを抱き抱えていた。


アリスの姿を見たボクは言葉が出なかった。


「戻るぞ!!」


ヤオがそう言うと、大きな扉がゆっくりと閉じようとした。


ボクとジャックはお互いの体を寄せ合った。


パタンッー。




ゴーン、ゴーン、ゴーン。


時計の大きな鈴がミハイルとアリスだけの世界に鳴り響く。


「アリス…。お前に愛してるって言われて嬉しかった。」


ミハイルはそう言って青白くなったアリスの頬を撫でた。


大きな時計が崩れ落ち、ミハイルとアリスが作り上げた世界が落ちる。


浮いていたミハイルの体もゆっくりと深くて黒い底が見えない下に落下し始めた。


冷たくなったアリスの体を強く抱き締めようとするが、アリスの体とミハイルの体は黒い灰となり始めた。


落下しながら黒い灰が舞い散る。


アリスとミハイルが黒と一体化する瞬間、ミハイルは最後の言葉を放った。


「一緒に堕ちようアリス。」


ミハイルの言葉は黒い灰と共に暗闇に溶けた。

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