最終章 Alice in Wonderland

アリスのハート I



ゼロside


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


空間が大きく揺れた。


「ゼロ!!」


ジャックが手を引き自分の方に寄せて来た。


「あ、ありがとうジャック。」


「おう。それより歯車の間を見てみ?」


ボクはジャックに促されるように歯車の間に視線を向けた。


そこには赤いハートを守っている黒い大きな原型を止めてない怪物がいた。


怪物の周りには黒い灰のような物が舞っていた。


「何だよ、あの怪物は…。さっきの大きな揺れはアイツか?」


怪物を見ながらジャックが呟くと、どこからかCATとエースの声が聞こえて来た。


「「ジャックー!!ゼロー!!」」


姿が見えないが、恐らくこの空間にいるのだろう。

声が反響して聞こえる。


「声は聞こえるけど、2人はどこにいるんだ?」


「僕達ね、姿がないんだよ。」


ボクの問いにエースが答えた。


「姿がないって…。どう言う事だよ?」


「こう言う事だよ。」


ジャックの問いに答えるのかのように、赤色のハートのジュエリーが2つ、ボク達の所に飛んで来た。


「これがエースとCATなのか?」


「そうだよ。Night mareが本気で戦っちゃってるからオレとエースは体が持てなくなっちゃったんだよ。魂だけの状態になったのさ。」


「本気でって…、ミハイルとか?」


ジャックとCATの会話を黙って聞いていると、CATが怪物の方に光を放った。


「あのデカイ怪物が守ってるハートが見えるだろ?」


キラキラ輝いている赤いハートの事か?


「あのハートはアリスの"心臓"。つまりは、アレを

壊せばこの世界は壊れて元の世界に戻る。」


「アリスの心臓を守ってる怪物はミハイルが最後の力を出して召喚したんだ。僕達を、元の世界の住人を殺す為に。」


CATとエースの今の状態と光っているハートを見れば説明がつく。


「あのハートを壊せば戻るんだな。ゼロ、行けるな?」


ジャックはそう言ってボクの顔を見つめた。


ボクが本来、住むはずだった世界を壊したのはアリス。


全ての元凶のアリスの心臓が剥き出しになっている。


ボクを探しに異世界まで来てくれたヤオ。


この世界に戻って来た時に協力してくれたロイド、

マリーシャ、帽子屋、インディバー。


手当をしてくれたズゥー。


ボクの為に動いてくれたジャック。


ボクが、ボクがこの手でアリスのハートを壊す。


そして、世界を戻す。


「行こうジャック。戻そう、本当の世界に。」


「当たり前だ。さっさと戻してのんびりしようぜ。」


ポンッ。


ジャックはそう言ってボクの頭を軽く撫でた。


「ボクとCATは飛ばされた皆にもこの事を伝えてくるよ!!」


「ジャック!!ゼロの事をちゃんと守れよ!!」

エースとCATはどこかに飛んで行ってしまった。


「あの怪物の所に行けばいんだよな。うっし、急いで向かうぞゼロ!!」


「了解。」


ボクとジャックは怪物のいる所に繋がっている階段を登り始めた。


タタタタタタタッ!!!


螺旋状になっている階段を急いで駆け登る。


階段は上がったり下がったりの繰り返しで目が回りそうだ。


「ったく、何だよこの階段は…。まるで迷路だな。」


ジャックは溜め息を漏らしながらも、足は止める事はなかった。


「近寄られないようにしているじゃないか?」


「最後の悪足掻きって所だろうな。」


ドゴォォォーン!!!


急に爆発音が聞こえて来た。


「うぉっ!?びっくりした…。」


ジャックが驚いた反応をしていると、誰かの声が聞こえて来た。


「さっさと来いよ!!!お前の足掻きはこんなもんか!!」


この声は…ヤオか!?


「ヤオがミハイルとやり合ってるのかも…。」


「ヤオ…って、確かNight mereの事か。」


ヤオの奴…、もしかして本気で戦ってるのか?


タタタタタタタッ!!


上の方から足音が響いた。


「ちょっと!!ゼロ達が下にいるわよ!?」


その声は…。


見上げると、インディバーと帽子屋がいた。


帽子屋はインディバーの声を聞くと足を止め、下を除いた。


「ゼロ!!そんな所にいたのか!?」


帽子屋は驚いた顔をした。


「お前等もあそこに向かってんのか?」

ジャックは上を見ながら2人に尋ねた。


「そうよ!!Night mareがミハイルと戦ってる隙に


アリスがあっちに逃げたのよ!?」


アリスが?


「ゼロ、怪我はしてないか?起きて平気か?」


帽子屋は不安気な顔をしていた。


そうか…、帽子屋はボクが眠ったままの状態しか見ていなかったな。


そんな顔にもなるよな…。


「大丈夫だ。心配させて悪かったな帽子…いや、お兄ちゃん?だったな…。」


「お、お兄ちゃん!?」


ジャックがボクの言葉に驚いていると、帽子屋が下に飛び降りようとしていた。


ボクとジャックは驚きあまり口が開いてしまった。


「えっ!?ちょ、ちょっと!?もしかして、おりる

つも…。」


帽子屋はインディバーの言葉を無視して飛び降りて来た。


スタッ!!


「ったく!!仕方ないわねっ。」


インディバーはそう言ってから下に降りて来た。


「抱き締めさせてくれ。」


「あ?」


帽子屋の言葉を聞いたジャックは声を低くした。


「ちょっと、ジャック。兄妹なんだから良いじゃないの。」


「…。まぁ、コイツもゼロの事を心配してたのは事実だし…。」


インディバーとジャックが言い合いをしている隙に、ボクは帽子屋の前まで歩き足を止めた。


帽子屋がボクの正体を知ったあの日から、帽子屋は

こんな優しい目でボクを見ていた。


「お兄ちゃんって呼ぶのも今更だが、少し恥ずかしいな。」


「…ゼロ。」


ガバッ!!


帽子屋はボクの名前を呼んでからボクの事を抱き締めた。


力強くそれでいて安心する腕の力でボクの体を抱き締めた。


「あまり、自分を責めるな。それとボクのお兄ちゃんなんだから、しっかり兄貴の威厳と言うのを見せてくれよな。」


「ップ。やっぱり、俺の妹は可愛いー!!!」


ギュュゥ…。


帽子屋は叫びながら少しだけ力を入れた。


「いい加減…、離れろ!!そんな事をしてる場合じゃねーだろ!!!」


ジャックはそう言って、ボクと帽子屋を引き剥がし

自分の方にボクを寄せた。


「見つけたァァァァァァああ!!!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


急にアリスの変な声と何かを引き摺るような音が聞こえて来た。


「何だ!?アリスの声が聞こえたような…。」


ジャックは怪物の方を見ながら呟くと、帽子屋が舌打ちをした。


「ッチ。あの糞女、怪物の中に閉じ籠りやがった。」


「アリスが?」


「ぜろぉぉぉぁああ?!殺すぅぅぅぅぅぅ!?!!」


ドドドドドドドッ!!!


怪物が物凄い速さで僕達の方に向かって来た。


ボクは素早く銃を構え怪物に向かって銃弾を放つと

同時に、ジャックも炎を出していた。


ボクの放った銃弾をジャックの炎が纏い怪物の体を貫いた。


「ギャアアアアア!!痛いぃいぃう、い、、痛いよオオオオ!!!」


怪物は叫びながら周りにある螺旋階段を破壊し始めた。


大きく空間が揺れるせいで、立っているのが精一杯だった。


この揺れじゃあ…、まともに戦えないぞ。


シャシャシャシャシャシャッ!!!


ボクの横を数本のナイフが通り過ぎって行った。


帽子屋が怪物に向かってナイフを投げ飛ばしていた。


ナイフは真っ直ぐハートに向かっていたが、怪物が

手に刺さるにも関わらずナイフを止めていた。


「おっらぁぁぁぁぁあ!!!」


この声は…。


「マリーシャか?!」


声の主はやはりマリーシャで、階段の瓦礫を幾つか怪物に投げ飛ばしていた。


ドゴォォォーン!!


怪物が手で瓦礫を払い除けていると、怪物の動きがピタリと止まった。


「動きが止まった?」


「な、何だ?」


ボクとジャックが困惑してると、誰かが走っている足音が聞こえて来た。


タタタタタタタッ!!


走っていたのはロイドで手に細くて長い先が尖った棒を持っていた。


怪物の動きが止まっているのはロイドのTrick Cardの能力か。


「ハッ!!」


ロイドは怪物の胸にあるハートに向かって飛んだ。


尖った棒がハートに刺る寸前、怪物が再び動き出した。


ロイドが危ない!!


ボクは素早く立ち上がり、怪物の方に走った。




「っあ!?待てよゼロ!!しゃーねな…っ!!!」


ジャックも急いで立ち上がりゼロの後を追い掛けた。


「ゼロ達を追うぞ。さっさと起きろインディバー!!」


帽子屋はインディバーの方に声だけ届けると、急いで2人の後を追い掛けた。


「も、もぉー!!!皆んなして考え無しに行動すんじゃねー!!!」


インディバーは苛々しながらも帽子屋の後を追った。



タタタタタタタッ!!


怪物の目に銃弾を当てれば、ロイドの事を振り払えない筈。


カチャッ。


銃口を怪物の瞳に向けて引き金を引いた。


パンパンパンッ!!!


3発の銃弾は瞳に命中し、瞳から黒い血飛沫が上がった。


「あ、ぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぃぁぁあ!!!」


「ガッ!!!」


暴れ出した怪物は飛んで来ているロイドの体を投げ

飛ばした。


「ロイド!!すまないが、受け身を取って着地しろよ!!」


「ゼロか!?うぉっ!?」


ロイドの体を鞭が巻き付き、マリーシャの方に引き寄せられていた。


「まずは自分の心配をしなさいよ!?ゼロしか目に入ってないんだから…。」


ん?


マリーシャの今の顔は…、


ふぅーん。


「何よその顔!?ゼロ、言いたい事があるなら言いなさいよ!!!」


ボクの姿を見つけたマリーシャは顔を真っ赤にさせながら叫んで来た。


「いやー、別に。それよりも2人もあの怪物の動きを止めるの協力してくれ。ボクは先に行くぞ。」


「は?って…、勝手に1人で行くんじゃないわよ?!」


マリーシャの声を無視してボクは怪物に飛び乗った。


「ゼロ!!勝手に1人で行くな!!」


ボクに続いてジャックも飛び乗って来た。


「ジャック!!」

「俺がいた方が良いだろ?それにこうやって…。」


ジャックはそう言って怪物に触れている手から炎を出した。


ゴォォォォォォォ!!!


怪物の右半分が炎に包まれた。


「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


グラッ!!


ガシッ!!


ジャックは倒れそうになったボクの体を素早く掴

み、自分の方に寄せた。


「いだい、いだいいだいいだぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「痛い?ですって?」


飛んで来たマリーシャは怪物の左肩を思いっ切り鞭で叩き付けた。


バシーンッ!!!


うわっ、痛そう…。


「あがぁぁぁぁあぁぁぁあわぁぁ!!!」


「ほらほらほら!!いつもの威勢はどうしたのよ?!」


バシバシバシバシ!!!


マリーシャは何度も鞭を振り続けた。


「いだい、いだいいだい!!ミハイル!!」


怪物は泣き声でミハイルの名前を呼んだ。


シュンッ!!


殺気!!


ボクは殺気を感じ銃を構えた。


マリーシャは殺気に気が付いていないな。


「おい、マリーシャ!!一旦、離れろ!!誰か来るぞ!!」


ボクの声が聞こえていないらしく、マリーシャは攻撃を続けた。


ジャックもボクの様子がおかしい事に気が付き、マリーシャの名前を呼んだ。


「マリーシャ!!さっさと離れろ!!」


「は?何言っ…。」


マリーシャの顔を誰かが掴み物凄い勢いで近くにあった階段に突撃した。


ドゴォォォーン!!!


「「マリーシャ!?」」


ボクとジャックは声を合わせてマリーシャの名前を呼んだ。


ゾクゾクゾクッ!!!


背中に寒気を感じた。


この感じは…ミハイルか!!




パラパラッ…。


階段の破片がパラパラッと黒い空間に舞い降りる。


マリーシャの顔を強く掴んでいたのは血塗れのミハイルだった。


ミハイルの体から黒いオーラが放たれていた。


「あ、アンタ…。」


「お前の顔をこれ以上にもっと醜くしてやろうか?あ?」


ググググッ…。


ミハイルはマリーシャの顔を掴んでいる手に力を入れた。


「うっぐ…あが?!?」



マリーシャがヤバイな。


この距離でも届く。


ボクは銃弾をミハイルの背中に向けて放った。


パンパンパンッ!!


ビュシュッ!!


放たれた銃弾はミハイルに命中した。


「ガハガハッ!!」


ミハイルはマリーシャから手を離し、ゆっくりボクのいる方角に顔を向けた。


「見つけたぁあ…?!!ぜろぉおおおおお!!!」


ビュンッ!!


ダンッ!!


ミハイルはボクに向かって飛んで来た。


「ゼロ!!下がってろ!!」


ジャックは急いでボクを背中で隠し、手を広げた。


ミハイルに向かって大きな炎が放たれた。


ゴォォォォォォォ!!


炎炎と燃える炎の中から血塗れのミハイルが現れた。


「正気かよコイツ!?」


「邪魔だジャック!!!」

ミハイルはそう言って、ジャックの頭を掴み乱暴にボクから引き剥がし投げ飛ばした。


「ゼロッ!!ミハイルから離れろ!!!」

ジャックは飛ばされながらもボクに向かって叫んでいた。


ボクはミハイルから離れようと一歩、後ろに下がろうとした瞬間、ミハイルの手がボクの首元に伸びて来た。


だが、その手は動きを止めた。


「ゼロに触るな糞野郎。」


ミハイルが振り返ろうとした瞬間、ミハイルの顔に回し蹴りが届いた。


飛ばされたミハイルは物凄い勢いで螺旋階段にぶつかった。


ドゴォォォーン!!


「ガハッ!!!」


階段にぶつかったミハイルの口から大量の血が吐き出された。


凄い破壊力…。


誰が…?


見覚えのある背中が見えた。


この背中にこの声は…。


「まだ元気があるみたいだなぁ…、ミハイル。」


ボクの前に立っていたのは拳を鳴らしているヤオだった。

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