2つの歯車

ゼロside



ヤオの問いに重みを感じた。


「俺は今すぐ殺したいよ。ゼロは本来ならこんな運命を渡る必要はなかっただろ。」


ヤオは悲しい顔をして呟いた。


ズキンッ。


心臓に痛みが走った。


ヤオはどうして、そんな悲しい顔をするんだ?


どうして、どうしてこんなに心臓が痛い?


「俺がどうして、ゼロの側にいたか分かる?」


「…え?」


「俺は、守りたかったんだ…。ゼロを。」


「ボクを?」


「最初は、ゼロが飛ばされた異世界に行ったのはマッドハッターの妹であるゼロを探す為だった。」


ボクは黙ってヤオの話を聞いた。


「マッドハッターが血眼になってゼロの事を探していたから、俺も探すのを手伝う気持ちでゼロを探した。異世界でゼロを初めて見た時、俺は怒りを覚えたよ。」


「い、怒り!?何で?ボクがその時、何かやったのか?」


ボクがそう言うと、ヤオは慌てて訂正して来た。


「違う違う!!あの頃のゼロは、体も今よりも痩せ細っていて…、瞳も死んでた。あの姿にさせた奴に怒りが湧いたよ。」


ヤオの拳が小さく揺れていた。


最初に出合った時のヤオは、ボクよりも少し大きな男の子って感じで、顔には傷一つなかった。


今思えば、あの見た目も魔法を使って小さくしてい

たのかもしれないな。


「ゼロがこんな辛い運命を辿っているのに、偽物は呑気に生きてるのか…って。だから出来るだけゼロを守ろうと思った。」


スタスタスタ…。


ヤオはボクの目の前まで歩いて来た。


ヤオの顔をジッと見つめた。


数カ所に切り傷が残っている。


この傷達は、ボクと一緒にいたから出来たモノだ。


ボクはソッとヤオの頬に触れ、スッと切り傷の痕を撫でた。


「綺麗な顔だったのに…。ボクの所為で傷だらけにしてしまったな。」


「へぇ…。そんな事、気にしてくれるんだぁ?」


ヤオはそう言ってニヤニヤし始めた。


イラッ。


イラッと来たボクはヤオの頬を引っ張った。


ギギギギッ…。


「いて!!いででででででで!!!痛いよゼロ!!」


「調子乗んな。」


「分かった!!分かった!!」


スッ。


ヤオの頬から手を離すと、ヤオは自分の手で頬に触れていた。


「いったいなぁ…。」


「お前が調子乗るからだろ。」


「Night mare!!大変だよ!!!」


上の方からエースの声が聞こえて来た。


上を見上げて見るがエースはいなかった。


「え?エース?」


「何かあったのか。」


ヤオは冷静に答えた。


「ハートの城にアリス達が乗り込んで来たんだよ!!ゼロを殺す為に!!」


「「っ!?」」


ボクとヤオは驚きを隠せなかった。


ボクを殺す為にハートの城に乗り込んで来た?


「どうして、ハートの城に?」


「ゼロの手当てをする為にマレフィレスが城に運んだんだよ。」


「そうなのか!?」


「マレフィレスもアリスが偽物だって気付いてたようだしな。一時的にゼロをアリスから守るのに運んだんだろうな。」


マレフィレスもアリスが偽物だって分かったのか…。


「しかも、しかも!!マレフィレスがアリスに殺されちゃったんだよ!!」


「は、はぁ!?」


エースの言葉を聞いたボクは大きな声で叫んだ。


マレフィレスが殺された!?


「マレフィレスが殺された!?アリスにか!?」


どうやら、ヤオも驚きを隠せなかったみたいだな。


「早く戻って来て!!ジャックがミハイルと戦ってる!!それに、マレフィレスの能力をアリスが使え

るようになってるんだ!!」


アリスがマレフィレスの能力を使えるようになった?


どう言う事だ?


Trick Cardは1人に1つの魔法しか使えない筈じゃ?


「分かった、すぐに戻る。絶対にゼロの体を死守しろ。良いな?」


「分かったよ!!Night mareの意のままに。」


グラッ!!


エースの言葉の後に床が大きく揺れた。


「うわ!?」


「よっと!!」

ボクの体が倒れそうになった所をヤオが手を引き、

ボクの体を持ち上げた。


側から見たらお姫様抱っこされている状態になった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


床の底が抜け落ち、現れたのは巨大な2つの歯車。


だが、巨大な2つの歯車はぶつかり合っていた。


ゴンゴンゴンッゴンッ!!!!


「な、何だ?この歯車は…。」


「この世界を回してる歯車だよ。」


「この世界の歯車…と言う事か?」


「あぁ。ミハイルの野郎…、仕組みを変えやがったな。」


ヤオはそう言って短い舌打ちをした。


「それって、さっきエースが言っていた事と関係してるのか?」


「あぁ。Trick Cardは俺が作った物だからな。それを作り替える事は絶対に出来ないようにしてある。その事を分かったミハイルはまた、世界の仕組みを変えやがった。」


ゴンゴンゴンゴンゴンッ!!


再び2つの歯車は激しくぶつかり合った。


「無理矢理に作り替えたから歯車が壊れ始めてる。急ぐぞ、ゼロ。」


パチンッ!!


そう言ってヤオは指を鳴らした。


ポンッ!!


真っ白な大きな扉が現れた。


「歯車が壊れ始めた事にミハイルは気付いてない筈だ。アリスとミハイルを仕留めるには絶好のチャンスだ。」


ヤオの瞳には殺意の色を宿していた。


ヤオの奴、本気だ。


本気でアリスとミハイルを殺す気だ。


ボクの為に。


ボクの為にヤオは2人を殺そうとしている。


そんなヤオを見て少し体が震えた。


ボクの体は震えたまま、扉を潜った。





ジャックside



ゴォォォォォォォ!!!


俺とミハイルは燃え盛る炎の中で刃を交えていた。


ゴッ!!


ゴンッ!!

俺の左頬にミハイルの拳が強く当たる音が耳に響く。


俺はミハイルの脇腹に蹴りを入れ、銃弾を放った。


パンパンパンッ!!


銃弾はミハイルの前で止まり、ミハイルが指を動かすと、俺の方向に銃弾が飛んで来た。


俺は自分の出した炎を操り飛んで来た銃弾を溶かした。


炎を掻き分けながらミハイルの前まで走り、拳を振り上げた。


パシッ!!


俺の振り上げた拳を肘で受け止めたミハイルは、左

拳を俺の脇腹に向けて振り上げる。


お互いの攻撃を受けては止めての繰り返しだった。


俺は口に溜まった血を吐き出した。


「ペッ!!」


ビチャッ。


「アハハハ。ボロボロでウケるんだけど。」


ミハイルは俺のボロボロになった姿を見て笑い出した。


「ハッ。お前もだろミハイル。」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


地面が大きく揺れた。


「きゃあ!!」


地面に倒れそうになったアリスをミハイルが抱き止めていた。


俺も地面に膝を付き揺れを耐えた。


さっきから大きく揺れてるな…。


地震か何かか?


「ジャック!!無事なのか!!」


ロイドの叫び声が聞こえてて来た。


「あぁ!!俺の方は何とか…。そっちはどうだ!!全員平気か!?」


「あぁ。こっちは大丈夫だが…。」


「さっきから何なの!?この大きな揺れは!!」


マリーシャの声が聞こえた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


「うわっ!!」


再び、地面が大きく揺れた。


フワッ。


揺れの振動で俺の体が浮き上がった。


それはロイドやミハイル達も同様だった。


「ちょ、ちょっと、どう言う事?この状況は何なの?」


アリスは困惑しながらミハイルに尋ねた。


「分からない。もしかしたら、この世界に歪みが出来たかもしれない。アリス、しっかり掴まって。」


ミハイルがそう言うと、アリスはミハイルの体に抱き着いた。


ゴォォォォォォォ!!!


天井に大きな穴が空いていた。


ゴォォォォォォォ!!


天井の大きな穴から協力な吸引力に体が引っ張っられた。


「う、うわあ!?」


「ちょ、ちょっとロイド!?うわぁぁぁあ!!」


大きな穴に引き摺り込まれそうになったロイドの手

を掴んだマリーシャは、大きな穴に吸い込まれていった。


「マリーシャ!!ロイド!?うっ!?」


ロイドとマリーシャの名前を呼んだマッドハッターも大きな穴に吸い込まれていった。


俺は咄嗟に周りを見渡した。


眠っているゼロを置いてインディバーが大きな穴に吸い込まれていった。


「ゼロ!!!」


俺は吸い込まれそうになったゼロの手を掴み抱き寄せた。


「くっ、う、うわぁぁぁぁあ!?」


俺はゼロを抱き締めたまま大きな穴に吸い込まれた。

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