壊れた歯車 I

一方、その頃 ハート城では


一向に目覚めないゼロをロイドとマリーシャが様子を見に来ていた。


包帯が沢山巻かれているゼロの体はとても痛々しく写っていた。


「全く起きないわね。もう4日よ?」


マリーシャはそう言ってゼロの髪を優しく撫でた。


「ゼロの体にかなり負荷がかかっているのかもしれないな。」


「かなり、1人で無茶させちゃったし。こんなに目覚めないと心配ね…。」


コンコンッ。


ロイドとマリーシャが話していると、不意に扉を叩く音が聞こえてきた。


「はい。どうぞー。」


マリーシャが扉に向かって返事をすると、ゆっくりと扉が開いた。


扉の先にはマッドハッターとインディバーの姿があった。


「ゼロの様子はどう?」


インディバーはそう言ってロイドとマリーシャに尋ねた。


「いや、相変わらずだ。」


インディバーの問いにロイドが答えた。


「そう…。全然起きないわね…。」


ロイドとインディバーが話している中、マッドハッターはジッとゼロを見つめていた。


マッドハッターはゆっくりとゼロに近付き、ベットの横にある椅子に黙って腰掛けた。


「こんなにボロボロの姿になって…。」


そう言ってマッドハッターはゼロの頬を優しく撫でた。


その光景は恋人と言う簡単な言葉では表せない光景だった。


"愛おしい存在"。


ロイドとマリーシャは心の中でそう思っていた。


「ゼ、ゼロの事が好きなんだね…。」


マリーシャはマッドハッターを見ながら呟いた。


「そりゃあ、そうだろ。俺の妹だからな。」


「…、え?」


「お、おい。今、何て言った?」


ロイドとマリーシャは驚いた顔をした。


「い、妹って…?ま、まさかゼロの事じゃないよな?」


ロイドは戸惑いながらもマッドハッターに尋ねた。


「いや、この状況でゼロ以外にいないだろ。」


「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」


マッドハッターの問いにロイドとマリーシャは驚きのあまり大声を上げた。


「い、妹!?ゼロとマッドハッターが兄妹!?」


「ゼロと全然似てないじゃないか!?嘘だろ!?」


「アハハハ!!確かに、ゼロとマッドハッター似てないわよねぇ。瞳の色も違うし。」


ロイドとマリーシャの様子を見て笑いながらインデ

ィバーが呟いた。


「ゼロと俺は腹違いだからな。」


「腹違い?」


「ゼロは…、親父の浮気相手の子だよ。」


マッドハッターはそう言ってマリーシャの問いに答えた。


「そ、そもそも、ゼロはこちら側の世界の住人ではないだろ?それなのに兄妹…って。」


ロイドは混乱を隠せないでいた。


そんなロイドを見たマッドハッターは、ゼロが本当はこちらの世界の住人と言う事と、アリスの話をした。


「え、ちょ、ちょっと待って!!じゃあ今までこっちの世界にいたアリスは偽物で、ゼロが本当のアリスって事…?」


話を聞いたマリーシャは慌てながらインディバーに尋ねた。


「そうよ。今まで私達が見ていたアリスは偽物だったって事よ。ロイド?大丈夫?」


マリーシャの問いに答えたインディバーはロイドの顔の近くで手を振った。


呆然としていたロイドは、インディバーの手を見てハッとし意識を取り戻した。


「っ!?わ、悪い。どう…反応して良いか分からなかった。じゃあ、あの時に入れ替わったのか?」


ロイドの放った言葉にマッドハッターの眉毛がピクッと動いた。


「あの時?それはどう言う意味だロイド。」

マッドハッターがそう尋ねると、ロイドはアリスの


部屋にある鏡の事を説明した。


「じゃあ…、その時にゼロとアリスが入れ替わったって事?」


「実際の所、いつ入れ替わったのかが問題じゃないわ。

この世界にアリスが"2人"存在している事がまずいのよ。」


マリーシャの言葉を聞いたインディバーはそう呟いた。


「Night'sの存在はお前等は知ってるよな?」


マッドハッターはそう言ってロイドとマリーシャに尋ねた。


「あ、あぁ。名前は聞いた事はあるが…。それがどうかしたのか?」


「確か、一流の魔術師達の集まりだったよね?」


ロイドとマリーシャの言葉を聞いたマッドハッターはインディバーに視線を向けた。


マッドハッターの視線に気付き、インディバーは軽く頷いた。


マッドハッターはゆっくりと口を開けた。


「俺とインディバーはNight'sのメンバーだ。」

その言葉を聞いたロイドとマリーシャは目を点にさせた。


「「えぇぇぇえ!?」」


ロイドとマリーシャの大きな声はハートの城中に響き渡った。


「キャパオーバーなんですけど!?何?じゃあ2人はすごい魔術師だったって事!?」


「嘘だろ?!ゼロと兄妹ってだけでも驚いてるのに今度はNight's?何で殺し屋なんかやってんだよ…。」


「ゼロが寝てるんだぞ!?声を抑えろ!!」


そう言ってマッドハッターが大きな声を出すと、ロイドとマリーシャは口を慌てて閉じた。


「アンタが1番うるさいわよ。」


インディバーはそう言って、マッドハッターに向かって指を刺した。


「わ、悪い。」


「2人にはちゃんと分かりやすく説明するわよ?ゼロがこの世界に来た事で今までピッタリハマってたこの世界の歯車が壊れ始めてるの。」


「歯車…?」


ロイドはそう言ってインディバーに尋ねた。


「この世界はアリス側の人間の能力で作られた世界なんだよ。つまり俺達は知らず知らずの内に作られた世界に移動させられてたんだよ。」


インディバーの代わりにマッドハッターが説明をした。


「成る程ね。この話を聞くと、この世界の人間がアリスに固執していた理由が分かったわ。だけど歯車が壊れてしまったらどうなる訳?」


「この世界は俺達がいた元の世界と合体してる。つまり歯車が完全に壊れてしまうと元の世界も消滅する。」


マッドハッターの言葉にロイドとマリーシャは唾を飲み込んだ。


「そ、それじゃあどうしたら良いのよ。作られた世界だけ壊せないの?マッドハッター。」


マリーシャはそう言ってマッドハッターに尋ねた。


「方法ならある。」


「それはどんな方法なんだ!マッドハッター!!」

ロイドはマッドハッターに話しながら近付いた。


「偽物のアリスを殺す事。この世界にアリスは2人もいらない。」


「それしか方法はないようだねぇー。」


「「「「っ!?」」」」


謎の声が聞こえて来た言葉にこの場にいた4人は驚いた。


声のした方に振り向くとそこにはズゥーが立っていた。


「ズゥー!?い、いつからそこに?」


「え?帽子屋とインディバーがNight'sに入ってるって所と、帽子屋とその子が兄妹だって所からぁー。」


マリーシャの問いにズゥーはゆっくり答えた。


「全部聞いてたんじゃないか。」


マッドハッターは溜め息を吐きながら呟いた。


「僕も協力するよぉー。」


「あ、あぁ…。それは良いけど…。」


「だ、大丈夫かしら…。」


マッドハッターとインディバーはズゥーを心配そうな顔をして見ていた。


「アリスを殺すしか方法はないんだな?マッドハッター。」


ロイドはそう言ってマッドハッターを見つめた。


「あぁ、俺は殺すよアリスを。ゼロが本当のアリスなんだ。偽物は消えて貰う。」


マッドハッターの目には強い殺意が映し出されていた。


とても冷たく恐ろしい殺意だった。


「何にせよ。ゼロが起きない事には…。」


インディバーはそう言ってゼロの髪を撫でた。


ダダダダダダダッ!!!


廊下から乱暴な足音が聞こえて来た。


「た、大変です!!!」


バンッ!!!


ドアを開けて入って来たのはハートの騎士団達だった。


「何かあったのか?」


マッドハッターが尋ねるとハートの騎士団の1人が口を開いた。


「は、早くその子を連れて避難して下さい!!!」


「何?急に…。」


マリーシャは困惑しながらハートの騎士団達に尋ねた。


「Edenの奴等が攻めて来たんです!!!」


「「「「っ!?」」」」


ハートの騎士団達の言葉を聞いてこの場にいた4人は驚愕した。




ハートの城の門前ー


アリスとミハイルは武装した50人の団員を引き連れハートの城に訪れていた。


「この世界もジャックも渡さない。アンタを殺せば

全部、全部あたしのモノになるんだから。」


短くなった爪を噛みながらアリスは呟いた。


爪の間からは血が滲んでいた。


「ミハイル。」


アリスがそう言うとミハイルは腕を振り上げた。


「総員、突撃!!!」


「「「おおおおおおー!!!」」」


ミハイルの言葉を聞いた団員達は一斉にハートの城の中に突入した。

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