黒魔術と鏡 II

裏路地から様々な場所に移り変わった。


移り変わる事にミハイルは沢山の人を殺して血を抜き取っていた。


何人殺したのか分からない程の数の人を殺していた。


沢山の小瓶を箱に詰めたミハイルは教会の庭に埋めて隠していた。


「へぇ、ガキの癖にちゃんと考えて血を隠していたんだなー。」


コソコソ掘った穴を埋めているミハイルを見てヤオが呟いた。


「そのようだな。」


「ミハイルのアリスに対しての感情は恋愛感情に似た依存だな。」


「依存?」


「きっと、ミハイルにとって誰かの為に何かをする事が生き甲斐なんだろうよ。」


ゴソゴソッ。


そう言ってヤオはポケットから煙草を取り出し口に咥えた。


カチャッ。


手慣れた手付きで煙草に火を付けた。

「ほら。」


煙草を一本だけ箱から少し出しボクに差し出して来た。


「サンキュー。」


そう言ってから一本だけ出ている煙草を取り口に咥えた。


カチャッ。


すると、ヤオがライターを付けボクが咥えた煙草に火を付けてくれた。


大きく息を吸い溜まった煙をゆっくりと吐き出す。


「はぁ…。上手い。」


「だよなー。煙草って久々に吸うと上手いよな。」


「って、呑気に煙草吸ってる場合じゃない。」


そんな事を話していると、教会から大きな鏡がある物置き部屋に変わった。


蝋燭の火に灯されたミハイルは黒い布を頭から被っていた。


ミハイルの周りには今まで集めた血が入った小瓶が置かれている。


どんな状況なんだよ…。


カポッ。


ミハイルは小瓶の蓋を開け魔法陣を書き始めた。


「不気味な光景だな。」


「黒魔術の儀式の準備をしてるな。」


ヤオはミハイルが書いている魔法陣を見ながら呟いた。


「儀式?」


「あぁ。この黒い布と血糊の魔法陣が決め手だな。」


黒魔術の本を見ながら丁寧に魔法陣を書いている…。


完成した魔法陣の横にミハイルは数本の火の付いた蝋燭を並べさせた。


「で、出来た…。出来たぞ!!」


ミハイルはそう言ってガッツポーズをした。


「早速、アリスを連れて来ないと。大丈夫、大丈夫だ。僕なら、いや、俺なら出来る。」


スゥッ。


そう言ったミハイルの顔付きが変わった。


ゾッとするぐらいにミハイルの瞳に光を移していなかった。


ミハイルの様子が少し、変だ。


「あの顔は情を捨てた顔だ。」


ヤオはミハイルの顔付きを見ながら口を開けた。

そうだ。


この顔は何度もロシアで見た事があった。


同じ軍にいた奴が裏切られた時に見た表情と同じだ。


ヤオも何度も見た表情だろう。


ミハイルの行動はアリスとジャックを裏切るモノだ。


「これから裏切るぞって顔してんなーミハイル。」


「ヤオ、言い方が軽いぞ。」


「ごめん、ごめん。ほら、ミハイルが部屋出て行ったぞ。急いで付いて行くぞ!!」


ヤオはそう言って部屋を飛び出して行った。


「お、おい!!待てヤオ!?」


ボクは慌ててヤオの後を追った。


ヤオに追い付くと、ミハイルはボクとジャック、皆んなが寝ている部屋に訪れていた。


「ゼロ。見ろよアレ。」


ヤオはそう言って指を差した。


指の方向を見ると、ミハイルが小さいボクの事を起こしていた。


「アリス、アリス。」


ミハイルが小さいボクの肩をゆっくり揺らした。


「ん…?なぁに?ミハイル…。」


小さいボクは目を擦りながらミハイルを見つめた。


「アリスに見せたい物があるんだ。」


「見せたいものぉ?」


「うん。ジャックには内緒でね。」


そう言ってミハイルは自分の指を口元に当てた。


「内緒かぁ…。分かった!!」


「うん。行こうアリス。」


ミハイルは小さいボクの手を取って部屋を出た。


「ミハイルはそう言ってゼロを部屋から出したのか。」


「そのようだな。」


「ジャックが起きたら邪魔して来るって事はミハイルには分かっていたからジャックを起こさずに部屋を出たのか。」


「ミハイルの後を追い掛けよう。」


「了解。」


ボクとヤオは部屋を出て行ったミハイルの後を追い掛けた。


ミハイルと小さいボクは手を繋いだまま廊下を歩いていた。


何も知らないボクは呑気にミハイルに話し掛けてる。


ミハイルはボクの話を聞いてるのか聞いていないのか分からない表情をしていた。


ミハイルがボクの手を繋いでいるのも、ボクが逃げ出さない為だろう。


「ここにあるのぉ?ミハイル。」


「そうだよ。さ、部屋に入って。」


「うん!!」


小さいボクは笑顔をミハイルに向けた。


ミハイルはボクの顔を見ないまま扉を開けた。


「うわぁぁ…。蝋燭が沢山ある。キレイだねぇ…。」


小さいボクは目をキラキラさせながら置かれている蝋燭を見つめていた。


すると、ミハイルは小さいボクの手を乱暴に掴み魔法陣の書かれた床に無理矢理座らせた。


「痛い、痛いよ!!」


足を擦りむいた小さいボクは泣きながらミハイルを見つめた。


だが、ミハイルは冷たい目で小さいボクを見つめた。


「さよならだアリス。」


ミハイルがそう言うと、魔法陣と大きな鏡が光出した。


魔法陣から血の色をした無数の手が小さいボクの体を掴み、魔法陣の中に引き摺り込もうとしている。


小さいボクは泣きながらミハイルに助けを求めたが、ミハイルは大きな鏡に視線を向けていた。


ゾッとする光景だ。


ミハイルは小さいボクの泣き声など、聞こえてない。


ただ、鏡からアリスが来るのを黙って待っている。


ヤオに視線を向けると、怖い顔をしてミハイルを見つめていた。


大きな鏡から小さな手が現れ、ミハイルは優しく小さな手を掴んだ。


「やだ、やだやだやだやだ!!助けて、助けてよミハイル!!」


小さいボクは何度も何度も泣きながらミハイルに助けを求め、手を伸ばした。


だか、ミハイルは1回も小さいボクを見なかった。


小さいボクは泣きながら魔法陣の中に吸い込まれた。


すると、鏡から小さなボクに似た女の子が現れた。


「ミハイル?」


「アリス。ようやく会えたね。」


「ミハイルならあたしを助けてくれると思ってた!!」


そう言って小さいボクに似た女の子はミハイルに抱き付いた。


ブゥオオオオオ!!


再びボク達を包むような暴風が吹いた。


ボク達は再び、白い部屋に戻って来ていた。


「あの野郎…。ゼロの事を最後の最後まで無視しやがって。」


「あの記憶は思い出したくない記憶だな。」


「黒魔術を行った者は長生き出来ないからな。」


「え?じゃあ、ミハイルは死ぬのか?」


「近い内奴は死ぬぞ。体に亀裂が入ってんだからな。」


「そ、そうなのか。」


「あんな奴、死んで当然だろ。ゼロの事を苦しませたんだからな。」

ヤオは相当ミハイルに怒っている。


「どうするんだゼロ。」


ヤオはそう言ってボクの事をジッと見つめて来た。


「どうするってどう言う意味だ?」


「ミハイルとアリスだよ。お前の事を苦しめた2人を殺すか。ゼロ、この世界のお姫様はお前なんだよゼロ。」


「…。」


「なんなら俺が殺す。」


そう言ったヤオの瞳は殺意に満ち溢れていた。

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