入れ替わり I

マレフィレスはゆっくり歩きながらアリスの目の前に立った。


アリスとマレフィレスはお互いを睨み合っていた。


「ご機嫌如何(いかが)ですか?女王様?」


「貴方に女王様って言われる筋合いがないわよ。ジャック。アンタは私の騎士でしょ?何でそっちにいる訳?」


そう言ってマレフィレスはジャックを見つめた。


スッ。


ジャックは腰に下げていた剣を抜きマレフィレスに向けた。


スッ。


だが、アリスとマレフィレスの周りを取り囲んでい

るハートの騎士団達も一斉に剣を抜きジャックの首元に剣先を向けた。


「俺はアリスに使えている。だからアンタの命令には従えない。」

 「正気なの?私に剣を向けるのは死に値するぞ。」


マレフィレスはそう言ってジャックを見つめた。


アリスは腕をジャックに絡めマレフィレスを見つめながら「ごめんなさいね。」と言った。


「お前のシナリオ通りと言う事…か。ジャックを手に入れそこに転がってる女を殺して終焉(しゅうえん)か?お前の作ったシナリオは。」


「そうよ。だから邪魔しないでくれる?」


マレフィレスはジャックの様子がおかしい事に気付いていた。


ジャックは確かに、アリスの為なら何でもやる事を知ってる。


だけど…、今のジャックにその感情を感じないと思っていた。


「おい!!ゼロ!!しっかりしろ!!」


ロイドの声にこの場にいる皆が一斉にゼロの方に視線を向けた。


ロイドがゼロの体を抱き寄せていた。


ロイドの呼び掛けにゼロは反応しなかった。


それどころかゼロの背中に刺された傷口から血が流れていた。


「ゼロ!!どうしよう…早く手当をしないと…。」


マリーシャはゼロの背中の傷口を見て顔を白くした。


ジャックはゼロの姿を見て剣を下ろし、ゼロの元に駆け寄って行った。


マレフィレスとアリスもジャックの行動に驚きを隠せなかった。


「ジャック!!!」


ジャックにはアリスの呼び掛けが聞こえていなかった。


近付いて来たジャックを警戒したロイドはアリスの体を抱き寄せた。


「ゼロの事、トドメ刺しに来たのかジャック。」


そう言ってロイドはジャックを睨み付けた。


だが、ジャックは着ていたジャケットを脱ぎ着ていたワイシャツの袖を破った。


ビリビリッ!!


破いたワイシャツの袖を傷口に当てた。


「な!?」


「これで少しは止血が出来る筈だ。それと…。」


ジャックは脱いだジャケットをゼロの肩に掛けた。


「ゼロの体を冷やすなよロイド。」


「お前…。もしかしてせー。」


ジャックが咄嗟にロイドの口を手で押さえた。


ロイドの口から手を離しソッとゼロの頬を撫でてか

らジャックは立ち上がった。


「ジャック!!何してるのよ!!」


アリスが怒りながらジャックを呼び付けた。


ジャックはロイド達に背中を向けてアリスの元に向かった。


「Orde"Edenのメンバーはこの場から立ち去りなさい。"」


マレフィレスのTrick Cardの能力が発動された。


Edenのメンバー達はゾロゾロとマリーシャとは逆方向に歩き出した。


「ちょっと!?アンタ達、何してんのよ!!」


「"ひれ伏せ"」


「っ!?」


ガクッ!!


マレフィレスの能力に掛かったアリスが地面に膝を付いた。


ジャックはすぐさまアリスの前に立ち、マレフィレスを見つめた。


ジャックはアリスに聞こえない声でマレフィレスと話していた。


言い終わったジャックはアリスを抱き起し、マレフィレスに背を向けた。


「今は一旦引こう。」


「…、分かったわ。今は引くしかなさそうね。」


「行こうアリス。」


ジャックはそう言ってアリスを連れて歩き出した。


「ロイド。その女を連れて城に行くぞ。」


マレフィレスの突然の提案にロイドとマリーシャは驚きを隠せないでいた。


「え、え?聞き間違いじゃないわよね?ゼロをハートの城に連れて行くって事?」


「そうよ。今、そう言ったじゃない。早く手当しないとその子ヤバいでしょ?」


マレフィレスはそう言ってゼロを指差した。


ゼロの顔色は青白くなっていて唇の色もかなり悪かった。


「あぁ、早く手当を。ゼロを助けてくれ。」


ロイドはゼロの体を抱き締めながらマレフィレスを見つめた。


マレフィレスはロイドの顔を見た後、ハートの騎士団が乗って来た車をロイドの前に止めさせた。


「早く車に乗せなさい。」

 「助かる。」


ロイドはそう言ってゼロの体を抱き上げ車の後部座席に乗り込んだ。


マリーシャもロイドの後に続いて車に乗り込んだ。


3人が乗った事を確認したマレフィレスも車に乗り込んんだ。


車はスピードを上げて、ハートの城に向かった。




ハートの城に到着したマレフィレス達は急いで車を降りた。


ハートの城の入り口には既に数人の医療班が立って

いた。


「怪我人はこちらへ!!」


ロイド達を見た医療班達はテキパキと指示をした。


「はぁーい。退いて退いてー。その子は俺の担当だからぁー。」


医療班達を掻き分けながらロイド達の前に現れたのは白衣を着た居眠り鼠のズゥーだった。


「ズ、ズゥー!?何でお前がここに…。」


「何で白衣なんか着てるのよ!?」


ロイドとマリーシャはズゥーを見て驚きの声を上げた。


「何で…って。俺はぁ医者だよ?」


「「はぁぁあ!?い、医者!?」」


ロイドとマリーシャは声を合わせて叫んだ。


「ッ…。」


マリーシャは脇腹を押さえながら蹲った。


「ホラホラー、2人共。怪我人なんだからぁ静かに。ロイドもその子を連れて付いて来てー。」


「あ、あぁ。」


歩き出したズゥーの後ろをゼロを抱き上げロイドは付いて行った。


蹲っているマリーシャも医療班達に連れて行かれた。


マレフィレスは黙ってロイドとマリーシャが去るのを見ていた。


マレフィレスの背後から現れたハートの騎士団の騎士が近付いた。


「女王様。ジャック達の追跡は如何なさいますか?」


「追わなくて良い。」


「分かりました。」


マレフィレスの言葉を聞いた騎士は頭を下げてから

その場を去った。


キキキィー!!


勢い良く車がハートの城の前に止まった。


パタンッ!!


乱暴に車のドアを開けたのはマッドハッターとインディバーだった。


「何だ。着くのが早いなマッドハッター。」


「無事なのか!?ゼロは!?」


マッドハッターはマレフィレスの言葉を無視して呟いた。


「今、ズゥーが治療をしている。血を多く流しているから無事かは分からぬ。」


「そ、そんな…。」


インディバーは話しながら口を押さえた。

ガシッ!!!


マッドハッターはマレフィレスの肩を強く掴んだ。


「血が足りないなら俺の血を使え。何が何でも俺はあの子を救う。」


「お前が会いたがっていた"妹"だからな。だからズゥーを呼んだのだ。」


マレフィレスはそう言ってマッドハッターの手を払った。


「ちょ、ちょっと待ってよ…。ゼロがマッドハッターの妹?」


「お前には話していなかったな。俺には…、生き離れになった妹がいたんだ。」


「ずっと妹を探していたのは分かっていたけど、ゼロは異世界の子じゃないの?」


そう言ってインディバーはマッドハッターに尋ねた。


「ゼロは…、異世界の子じゃないんだ。」


「え、え?どう言う事なの!?」


「ゼロはこの国の住人なんだ。」


「っ!?」


マッドハッターの言葉にインディバーは驚いていた。


「じゃ、じゃあ…、アリスは一体…。」


「アリスは異世界の住人なのよインディバー。」


「はぁ!?アリスが異世界の住人!?」


マレフィレスの言葉にインディバーは再び驚いていた。


「マッドハッターから妹を探して欲しいと依頼を受けていたのだ。コイツの家庭の事情は複雑でな。コイツの親は子供は男の子だけで良かったんだ。」


「俺の母親はゼロが産まれた瞬間に教会に捨てた。俺がその事を知ったのはゼロが捨てられて10年後だった。」


マッドハッターとマレフィレスは丁寧にインディバーに説明をした。


「だから、あらゆる教会を調べていたのね。マッドハッターはどうして、アリスが異世界の住人だとわかったの?」


「単純な話だが、アリスを抱けた事で分かった。普通、兄妹なら性欲が湧かない筈だ。それと、Night mareが教えてくれたから決定的になった。」


「成る程…ね。Night mareが教えたのなら正確な情報ね。ゼロはその事には気付いていないんでしょ?自分がこの世界の住人だと。」


「あぁ。どうやってゼロとアリスが入れ替わったのか。その方法が分かれば全ての謎が解ける。」


「ジャックはアリスの内部に入り込んだのだ。」


「「え!?」」


サラッと発したマレフィレスの言葉にマッドハッタ

ーとインディバーが驚いた。



ゼロside


体が重い。


思うように体が動かない。


ボク…死ぬのか?


「目を開けて。」


男の声が耳元で聞こえた。


重たい瞼を開けると、前に夢で見た白い部屋が視界に広がった。


「おはようゼロ。」


声のした方に視線を向けると夢の中に現れた仮面をした男がいた。


「お前は…。」


「俺の名前を教えてあげる。」


「え?」


ボクがそう言うと、仮面の男がボクの手を掴んだ。


「俺はNight mare。君をずっと見ていた。」


仮面の男は優しい声で囁いた。


「Nightmare?Night'sの!?」


「アハハハ!!そうだよ。俺がNight'sの団長さ。」


「Night mareがどうしてここに?ここはどこなんだ?」


「君の悪い夢の中。」


悪い夢?


「ここはボクの夢の中なのか?」


「そうだよ。正解に言うと夢と閉ざされた記憶の狭間の世界。」


「記憶?」


「そう、君の記憶の一部分に鍵が掛かっているんだ。」


そう言ってNight mareはボクの額にソッと触れた。


「閉ざされた記憶…。」


「君は悪い夢から覚める時が来たんだ。」


仮面の男は話しながらボクの後ろを指差した。


ボクは指の方向にゆっくり振り返った。


そこにあったのは頑丈な鎖に南京錠が付いた黒い扉があった。

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