ロイドとアリス II

教会の近くに車を止めた俺達は歩いて教会に向かった。


「お待ちしておりました女王様。」


教会の入り口に立っていた年配の神父が俺達に声を掛けて来た。


「あぁ、出迎えご苦労。」


「そちらの方が…、アリスを引き取って下さると言うお方ですか?」


そう言って年配の神父が俺の方をチラッと見て来た。


「えぇ。」


「分かりました。では、こちらで手続きをお願いいたします。」


俺達は神父の後に付いて行く為に教会の中に入った。


教会の敷地内に生えている芝生の上で子供達が遊んでいた。


子供の笑い声を聞きながら教会の中に入った。


親父の部屋に通された俺達は椅子に腰を下ろした。


教会の中にあるとは思えない程に豪華な内装で、家具や置き物だって高級品だ。


この爺さん…。


かなり金を稼いでるな。


テーブルの上に、貴重な酒と呼ばれてる年代物のウィスキーが置いてあった。


このウィスキーを持っていると言う事が証拠だ。


「女王様。例の物は…。」


神父はモジモジしながら女王に尋ねた。


女王が指をパチンッと鳴らすと机の上に沢山の札束が現れた。


神父は興奮しながらバラバラになった札束を掻き集めていた。


「おい。どう言う事だ?これは。」


俺は小声で女王に尋ねた。


「この神父。子供を高額で売り付けてんのよ。里親も金持ちしか選んでないの。」


「この爺さん…、もしかして子供を売って商売してるのか?」


「そうよ。」


こんな奴が教会の神父かよ!!


汚ねぇ…。


「はぁ…、はぁ…。で、では取り引き成立と言う事で。」


息を整えながら神父はお札を数えながら呟いた。


「1つ聞きたい事があるんだけど。」


「な、何ですか?女王様のお連れの方…。」


俺はアリスの資料に目に通しながら口を開いた。


「アリスには…、兄貴がいるみたいだけどソイツもいるの?」


「は、はぁ…。アリスの兄はこの教会にはおりません。アリス自体も自分に兄がいると言う事を分かっていません。」


「ふーん。分かった。」


俺がそう言うと、扉がノックされた。


「神父様。アリスとジャックをお連れしました。」


「あぁ。入りなさい。」


神父の返事を聞いたシスターが扉を開けて部屋の中に入って来た。


写真よりも痩せ細った体にボロボロの服。


ろくに飯も食わせて貰えなかったのか。


この爺さんは、子供の事に関して無関心なのかもしれないな。


「アリス、ジャック。貴方達の里親ですよ。ご挨拶は?」


「「…。こ、こんにちは…。」」


ジャックとアリスはそう言って頭を軽く下げて来た。


これが俺とアリスの出会いだった。


アリスはまだこの時5歳だった。


「どうもー、ジャックは私の所ね。アリスはロイドの所で引き取るから。」


「俺達…。離れるのか。」


女王の言葉を聞いたジャックがアリスの手を取った。


「家が違うだけよ。それ以外の時間は遊んで良いし。連絡も取れるようにするし。」


女王の言葉をアリスとジャックは信じてない様子だった。


まぁ…、いきなり信じろって言われても信じれない…か。


アリスなんてカタカタ震えてるし…。


はぁ…。


仕方ねぇな…。


ガタッ。


俺は椅子から立ち上がり、警戒しているアリスとジャックに近付いた。


俺が近付くとジャックはアリスを庇うように前に立った。


へぇ…、ガキなのに根性あるじゃん。


俺は2人の目線に合わせるように腰をかがめた。


「ここにいるより俺の所に来た方が腹一杯食えるよ。」


そう言うと、2人のお腹がグゥーと音を立てた。


「アハハハ!!」


「わ、笑うんじゃねーよ!!お、俺は腹なんか減ってない!!」


爆笑していると、ジャックが顔を真っ赤にして怒って来た。


「はいはい、飯が食える店に行こうな。お前もそれで良いか。」


俺はそう言ってジャックの後ろにいるアリスに視線を向けた。


アリスはポッと頬を赤くしてから頷いた。


「じゃあ、そろそろ出ましょうか。ここにはもう用事はないし。」


女王はそう言って椅子から立ち上がり俺達の方に近付いて「行きましょうか。」と言い、アリスとジャックを部屋から出した。


「あ、あのお見送りいたします。」


神父が部屋から出ようとする俺に付いて来ようとし

たが、俺は「結構。」と言って部屋を出た。


しかし、興奮しながら金を数える爺さんは気色悪かったな。


女王達は早めに教会の外に出ていたらしく、俺が教会を出ると車が教会の入り口に止まっていた。


車の中を覗くと、後部座席にはアリスとジャックが座っていた。


ジャックが睨んで来たけど、最初よりは顔付きに安心感が見られた。


警戒心が解けて良かった。


俺も後部座席に乗り込むと車が走り出した。


女王が行くような高級な店ではなく、誰でも入れるような洋食店に車が止まった。


「さ、降りるわよ。2時間後に迎えに来て頂戴。」


女王が運転手にそう言うと、運転手は「かしこまりました。」と返事をした。


俺達が車を降りた事を確認にすると運転手は車を走らせた。


「こ、ここは?」


「料理が出て来る店よ。さ、入りましょ。」


アリスの問いに答えた女王は店の中に入って行った。


「さ、俺等も入るぞ。」


「あ、おい!!待てよ!!」


「ま、待って!!」


俺の後を2人が慌てて付いて来た。


店は女王が貸し切りにしたらしく、客は俺達しかいなかった。


アリスとジャックを隣に座らせ、俺は女王の隣に座った。


俺達がテーブルに座った事を確認した店員が水とメニューを持って来た。


メニューを見ながらアリスとジャックは目を輝かせていた。


「好きなの食べて良いわよ。ロイドの奢りだから。」


「は?まぁ…良いけど。好きなの食えよ。」


俺達の会話は2人の耳には入っていないらしく、メニューを見ながら話していた。


「オムライスって何?」


「オムライス?ケチャップライスを卵で包んだヤツだよ。」


「あ、あたしそれが良い。」


俺の説明を聞いたアリスはオムライスにした。


「お前はどうすんだジャック。このハンバーグセットで良いんじゃないか?」


「はぁ!?こんな量食えないよ!!」


「男ならこんくらい食えるだろ。」


そう言うとジャックが頬っぺたを膨らませ「食えるよ!!」と言った。


「じゃあ決まりだな。すいません。」


俺が軽く手を挙げると店員は直ぐに俺達の座るテーブルに来た。


「はい。お決まりですか?」


「あぁ、オムライスとハンバーグセット。それとコーヒーとロイヤルストレートティーにハムエッグサンドを。」


「かしこまりました。」


「あ、それとこの2人にオレンジジュースを。」


「かしこまりました。少々お待ち下さい。」


そう言って店員は軽く頭を下げてからテーブルを後にした。


数分後にオレンジジュースとコーヒー、ロイヤルストレートティーを持った店員が現れ、飲み物を俺達の前に置いた。


「このオレンジ色した飲み物は…何?」


ジャックが眉間にシワを寄せながら俺に尋ねて来た。


「オレンジジュースだよ。知らねーの?オレンジってフルーツを潰した飲み物。」


「つ、潰した!?」


「そ、そんな恐ろしい飲み物なの?」


ジャックの反応を見たアリスがそう言って不安そうな顔をしていた。


「大丈夫よ。このジュースは子供が大好きな味よ。ほら、飲んでみなさいよ。」


女王に勧められ2人は渋々オレンジジュースに刺さっているストローに口を付けた。


ゴクッゴク。


オレンジジュースが喉を通った後に2人の表情がパァッと明るくなった。


「「すっごく美味しい!!!」」

2人は声を合わせて叫んだ。


俺と女王は一瞬だけ顔を見合わせホッと胸を撫で下ろした。


その後に、頼んだ料理が運ばれアリスとジャックは


口元を汚しながらオムライスとハンバーグを食べていた。


俺はその光景を見ながらコーヒーを啜った。


食事を終えた俺達は迎えに来た車に乗り込んだ。


暫く走っていた車が俺の家の前に止まった。


「それじゃあ、俺達はここで。」


「えぇ。」


「ここで降りるの?」


車から降りようとする俺をアリスが引き止めた。


「あ?あぁ…。俺の家だし。」


「そっか…。」


また表情が暗くなったな。


ジャックと離れるのは不安だよな…。


「大丈夫よ、ジャックとは住む場所が違うだけだから。すぐに会えるから安心して良いわよアリス。」


「本当ですか?女王様。」


「えぇ。嘘は付かないわ。」


「大丈夫だよアリス。俺がロイドの家に遊びに行くからさ!!」


女王とアリスの会話にジャックが入り話がまとまった。


車を降りた俺とアリスは、走り出す車が小さくなるまで見ていた。


「さて…と。一応、部屋は用意してあるから案内するな。」


「う、うん…。」


「そんな不安がらなくて大丈夫だ。さっ行くぞ。」


「うん。」


俺はアリスを家の中に入れ、アリスの部屋に案内した。


最初は不安を抱えていたアリスも徐々に不安を取り除いて行った。


それからのアリスは意欲的に時計の修理を手伝ったり、掃除をしたり、家事をしていた。


ハートの騎士団の制服を着たジャックが毎日尋ねて来て、アリスと話をしていた。


2人にとって教会にいた頃よりは環境が良くなったんだなと分かる。


2人共、痩せ細った体には程良く肉が付き健康的な体付きになっていた。


俺に懐いてくれるアリスを可愛く思っていたし、小さい妹が出来た感覚だった。


普通の生活ってこう言う物なんだな…。


夜の情報屋の仕事をする時はアリスが寝た事を確認してから店を開いていた。


誰かに気を使う事なんて今までなかったのに…。


アリスが来た事で俺の世界も変わって行った。


アリスと過ごす日々はとても穏やかで幸せだった。


ジャックとアリスが仲良くしている姿を見ると微笑ましく思った。


ずっとこんな日々が続けば良いと思っていた。


そんな願いは叶う筈がなかったんだ。



アリスが7歳になった時から、アリスが少しずつ変わって行ったんだ。


その頃からアリスは自分の部屋に飾ってある鏡をずっと見ていた。


ある日、夜中に帰って来た時にアリスの部屋が光り輝いていた。


俺は恐る恐るアリスの部屋を除くと、ケラケラ笑っているアリスの姿が目に入った。


「アハハハ!!これで…これであたしは幸せになれるのよ…。」


何を言っているのか理解出来なかった。


アリスを見て初めて気色悪いと思ってしまったんだ。


その日を境に、アリスは異常なまでにジャックに執着し始めた。


ジャックが俺の家に来ないだけでアリスは機嫌を悪くした。


こうなったらアリスは何をしてもダメだった。


何とかジャックに時間を作って貰い俺の家に呼んで

アリスの機嫌を直して貰った。


そんな中、女王の娘が女王に即位すると言うニュースが街中に知れ渡った。


ハートの騎士団はマレフィレスの為に作られた騎士団だ。


ジャックも正式な騎士になった為に忙しくていた。

いつものように朝食を食べながらニュースを見ていた。


「アリス。俺達も女王即位のパーティーに呼ばれてるからドレスを見に行くぞ。」


「ドレス?それ、あたしも行かないと行けないの?」


「え?」


アリスがこんな事を言うとは思っていなかった。


「ジャックが騎士団に正式に入ったんだぞ?アリスからのお祝いを待ってるんだぞ?」


「だって、嫌いなんだもん。」


ガチャンッ!!


アリスはそう言ってお皿に乗っているミニトマトをフォークで突き刺した。


「アリス。」


「ジャックの事独り占めしてうざいんだもん。」


そう言ってミニトマトをグリグリ動かしていた。


いつからアリスは変わってしまったんだろう。


アリスの異常なまでのジャックに対する執着は何なんだ?


前まではジャックの方がアリスに執着していたように見えたのに、今ではアリスの方がジャックに執着している。



それから暫くして、アリスが何者かに殺された。

意味が分からなかった。


どうして、アリスが殺されないといけなかった?


誰が殺した?


俺は一心不乱にアリスを殺した人物を探していた。


ずっと、ずっと、アリスの事を考えていた。


精神的にもボロボロだった時にエースがゼロを連れて来た。


初めてゼロを見た時、アリスと瓜二つだと思った。


だけど、どこか懐かしく思えた。


初めて会ったのにどうしてだ?


あの、幼い頃のアリスを思い出す。


ゼロと接しているうちに、ゼロに対してある感情が芽生えたんだ。


ゼロの笑った顔、ゼロの戦ってる姿、ゼロの行動や


言葉に胸が高鳴る。


これは、恋だ。


自分でも分からない。


いつからゼロを愛おしいと思ったのか分からない。


分からないけど、愛おしいと思ってしまうんだ。


ゼロの腕を引っ張って、俺はゼロを抱き締めている。


華奢な体は少しでも力を入れたら折れてしまいそうだ。


雪のように白い肌は冷んやり冷たく俺の体を冷やす。


このまま時が止まってしまえば良いのに。


ゼロがジャックの事を意識しているのは見ていて分かる。


だけど、今だけはジャックの事を忘れて欲しい。


激しい頭痛と共に胸の鼓動が高鳴る。


そんな願いは叶う筈もなく、腕の中からいなくなってしまった。


ゼロの青い瞳が俺を写している。


ゼロは俺の話を真剣に聞いてくれている。


いつからだろうな。


アリスよりもゼロの事ばかり考えてるのは。


なぁ、俺はアリスよりもゼロの役に立ちたいんだよ。


君はそんな事を知らないまま、俺のあげた煙草を美味しそうに吸っている。


この時間だけは俺の物だよな…ゼロ。



ゼロside


ロイドはアリスとジャックの幼少期頃の話をしてくれた。


アリスが変わったのは7歳の頃…。


変わる直後に、アリスの部屋の鏡が光った…。


もしかしたら…。


「もしかしたら、アリスが変わった原因は鏡かもしれないぞ。」


「鏡?」


「あぁ。アリスの部屋にある鏡には不思議な力があるかも知れん。」


ボクがそう言うとロイドは暫く考え込んだ。


「確かに…。そう言われると、あの日からアリスは変わった…。」


「だろう?あの鏡に何の力があるか分からないが、調べてみる価値はある。」


「鏡に詳しい奴っていたかな…。」


チリンチリンッ。


ボクとロイドが悩んでいると鈴の音が鳴り響いた。


「僕達の事忘れてない?」


その声の主は…。


天井にポッカリとあいた大きな穴からCATとエースが現れた。


「CAT!?それにエース!?」


「どうして、2人が一緒にいるんだ?」


ボクとロイドは突然現れたCATとエースの姿を見て

驚いた。


「僕達が仲良いの知らなかったの?」


「い、いや…。初耳なんだが。」


「エース。ゼロには話してなかったんだよ。ごめんねゼロ。」


エースと話しているとCATが申し訳けなさそうな顔で謝って来た。


「CATとはよく鏡の世界を行き来したりしてるんだよ。fieldも同様にね。」


「鏡の世界を行き来!?そんな事出来るのかエース。」


「出来るよ。だって、ゼロをこの世界に連れて来たのは僕だよ?」


「あ…。そっか。」


「たまたまCATとお茶してたら、CATがゼロの所に行こーって言ってさ。」


「成る程。それでCATと一緒だったのか。」

そうか。


エースがこの世界に連れて来たんだったな。


「さ、鏡の中に入ってみようよ。」


エースはそう言って手を叩いた。


「鏡の中って…。どうやって?」


ボクがエースに尋ねるとCATが指を鳴らした。


パチンッ!!


ボクとロイドが座っている床にポッカリ大きな穴が

開いた。


「「え。」」


ボクとロイドの声が重なると同時に落下した。


「うわぁぁぁ!!」


「エース!!CAT!!」


「アハハハ!!さぁ、行くよ!!!」


CATは落ちるボク達を見ながら爆笑していた。

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