Black Prince

ジャックside


俺は猛スピードでロイドの家に向かっていた。


もしかしたらゼロに何かあったのかもしれない。


いや、絶対にアイツ等の仲間がゼロに接触するに違いない。


ブー、ブー、ブー。


携帯に着信が入った。


俺はバイクを止め着信相手を確認した。


着信相手は"ロイド"からだった。


俺は通話ボタンを押し耳に当てた。


「もしもしジャックか!?」


ロイドのこの慌てよう…。


やっぱりゼロに何かあったんだな。


「今、ロイドの家に向かっている途中なんだが、ゼロは無事か?」


「ゼロが仮面をした女と共に外に出て行ったきり帰って来ない。」


「仮面の女…。」


「きっと、街の方に行ったんだと思う。街から爆破音が聞こえた。」


「分かった、街に向かう。ロイドは念の為に家で待機してくれ。ゼロが戻って来る可能性もあるからな。」


「分かった。ジャック、ゼロを頼む。」


ロイドがゼロの事を凄く心配しているのが声だけで分かる。


「絶対にゼロを助ける。」


そう言って俺は通話ボタンを切り、エンジンをかけた。


ブゥンブゥンッ!!


俺はスピードを上げ、ロイドの家から方向を変え街に向かった。


ドゴォォォーン!!


ドゴォォォーン!!


街に近付く度に爆発音が街中に響き渡った。


「やっぱり街に来てたか。」


森へ避難しようとする住人達で街の入り口がごった返していた。


住人達はパニックに襲われどうしたら良いか分からない状態だった。


すると、住人の1人が俺を見ると「騎士団長様!!」と言って駆け寄って来た。


「お助け下さい騎士団長様!!」


「お、おい!!騎士団の団長がいるぞ!!!」



次から次へと住人達が俺の周りに集まった。


俺がここで住人達を振り切る訳にはいかない。


「皆さん!!大丈夫ですか!!?」


住人達が群がっている後ろにエースとハートの騎士団達が現れた。


「我々が来たからもう大丈夫です!!」


「こちらに避難して下さい!!」


ハートの騎士団達が住人達を街から遠ざけるように誘導した。


住人達は騎士団の指示に従って俺の周りから次々と離れて行った。


この状態なら俺がこの場にいなくても平気だな。


「エース!!ここは任せるぞ!!」


「え、ちょ、ジャック!?どこに行くの!!!」


俺はエースの言葉を無視して炎が集る街の中に入った。


周りは殆ど火に飲まれていて、息をするのがやっとの状態だ。


「ゼロー!!ゼロッゴホッ。」


大声を出すと咳が止まらなかった。


ゼロの姿がない…。


住宅地を走っていてもゼロの姿が見当たらなかった。


街の中にはいないのか…?


そう思っていると広場から話し声がした。


広場に誰かいるのか…?


俺は急いで広場に向かった。


広場に着くと、両肩から血を流しているゼロが仮面の奴等に囲まれているのが見えた。


仮面をした女がゼロに銃を向けていた。


ヤバイ!!


俺は手のひらを前に出しゼロと仮面の女の間に炎を放った。


ゴォォォォォォォ!!


炎は天高く燃え盛った。


「うわっ!!」


「な、何!?炎?どこから!?」


銃を向けていた仮面の女が怯んだのを見逃さなかった。


「ゼロ!!」


炎に紛れて俺はゼロの手を掴んだ。


ガシッ!!


「なっ?!ジャ…。」


声を出そうとしているゼロの口を塞ぎ、ゼロの体をヒョイッと抱え上げた。


ゼロの事をお姫様抱っこをしたまま俺は走り出した。


「なっ!!追いなさいアンタ達!!絶対にゼロを逃しちゃ駄目!!!」


「御意。」


仮面の女が叫ぶと、仮面の男達が俺の後を追って来た。


ダダダダダダダッ!!


「ジャック。」


ゼロが俺に話し掛けきた。


「どうしたゼロ。」


「後ろから何人か追って来ている。」


俺はチラッと後ろを確認した。


炎のせいで、正確の人数は分からないが6人程…だろうか。


「多分6人…。悪い、炎のせいで見えない。」


俺がそう言うとゼロが銃を構えていた。


「っ…。了解した。」


一瞬、痛そうな顔したゼロは俺に抱きついて来た。


ドキッ!!


心臓が跳ね上がった。


不意にもドキッとしてしまった。


そんなトキメキはすぐに無くなった。


何故なら…。


パンパンパンッ!!


銃声音が耳に届いたからだ。


「うわっ!!」

 

「ガハッ!!」


ゼロは次々と仮面の男達を撃っていた。


俺は口笛を吹き「お見事。」とゼロの耳元で囁いた。


ゼロの耳がポッと赤くなった。


それを見て俺の胸も高鳴った。


ドキドキッ。


何だコレ…調子が狂う。


「待てー!!」


「ッチ。キリがねぇな…。」


ゼロが苦笑いをしながら呟いた。


ゼロの顔色がどんどん悪くなっていった。


どこかでゼロを休ませた方が良さそうだな…。


俺は周りを見渡した。


色んな家が燃えている中で1つだけ燃えていない家があった。


俺はドアを蹴破り家の中に入った。


2階の階段を素早く上がったのを仮面の男達には見えていなかったらしく、俺が入った家を通り過ぎていった。


「おい!!どこかに隠れてるはずだ!!隈なく探せ!!」


外からは仮面の男達の話し声が聞こえた。


ここにいれるのも時間の問題だな。


俺はゼロを優しくベットに下ろした。


「ゼロ、大丈夫そうか。」


「あ、あぁ。」


「ちょっと傷口見せて。」


俺はそう言ってシャツを下ろした。


左肩は弾は貫通してるな。


右肩は…掠っただけか。


「少しだけ痛い事するけど、我慢出来る?」


「大丈夫だ。」


俺はゼロの返事を聞いてからベットのシーツを破り傷口に巻いた。


ゼロは表情を変えずに手当を受けていた。


「ゼロの肩は細いな…。」


「え?」


「え、声に出てた?」


「あ、あぁ…。」


どうやら心の中の声が出てしまったようだった。


こんな細い体には沢山の古傷があった。


数々の戦場を潜り抜けて来た証拠だ。


「ジャックは…来ないと思った。」


ゼロが弱々しい声で呟いた。


俺はしゃがんでゼロの顔を覗き込んだ。


「どうして俺が助けに来ないなんて思ったんだ?」


「ジャックが来る前に仮面の女が言ったんだ。ジャックはアリスを選ぶからここには来ないと。来るとしたらボクを殺しに来たんだと。」


そう言ってゼロは真っ直ぐ俺の顔を見た。


「だから、炎の中から火傷だらけのジャックを見た時。ボクの心臓が震えたんだ。ジャックの顔を見たら心臓が跳ね上がったんだ。この感情が何か分からないけど…。」


ゼロが一生懸命に自分の感情を説明していた。


俺はそんなゼロの姿をどうしようもなく可愛いと思ってしまった。


俺の手がゼロの肩に伸びた。


ゼロの背中に手を回して、細い体を抱き締めていた。


鼓動が早くなった。


「ジャック?」


ゼロが不思議そうな顔をしているんだと見ていないのに分かる。


ゼロ…。


その感情の答えは簡単なんだよ。


その感情の名前は"恋"なんだ。


俺がその答えを教える権利なんてない。


けど、ゼロの事をどうしようもなく愛おしく思っている自分がいる。


アリスの事も大事だ。


俺の背中にゼロの手が伸びて来た。



ゼロside



ジャックがボクの事を抱き締めて来た。


どうしてボクの事を抱き締めているんだ?


だけど、嫌と感じないのはきっとボクの体がジャックの事を許しているからだ。


ジャックがボクを助けに来る前に仮面の女がボクに言った言葉を思い出していた。


「ジャックはここには来ないわよ。」


「何故、いきなりジャックの名前を出したんだ。」


「少しの可能性を信じているなら早めに諦めさせた方が良いじゃない?ジャックはアリスを選ぶの。貴方はジャックに選ばれないの。ここに来る時は貴方を殺す時。」


ズキンッ。


肩の痛みよりも胸の痛みの方が強かった。


ジャックがボクの事を選ばないのは分かってる。


分かってるよ。


ゴォォォォォォォ!!!


「っ!?」


目の前に大きな炎が現れた。


「キャアア!!」


仮面の女は炎を見て悲鳴を上げた。


どうしてこんな所から炎が?


「ゼロ!!!」


右側からジャックの声がした。


だけど炎のせいでジャックの姿が見えなかった。


「気のせいか?」


目を細めて炎を見つめていると火傷だらけのジャッ

クが炎の中から現れた。


ジャックの温かい手がボクの手を掴んだ。


トクンッ、トクンッ。


ジャックがボクの事を助けに来てくれたんだ。


そうか、ボクはジャックが来てくれた事が凄く嬉しかったんだ。


こうして今、ジャックの腕の中にいる事も嬉しいんだ。


アリスよりボクを選んでなんて思わないから、ボクの事を利用しても構わないから。


ボクの側に置いてよジャック。


「ジャック!!!」


「「っ!?」」


ボクとジャックは慌てて顔を上げて声のした方に視線を向けた。


部屋の入り口に仮面の女が立っていた。


この女…、今、ジャックの名前を呼んだのか?


「何で俺の名前を知ってる。」


ジャックが仮面の女を睨み付けながらボクを背中に隠した。


「何で…。何でゼロの事を抱き締めてたの!!あたしにそんな冷たい視線を向けないでよ!!!」


この女の慌てようがおかしい。


何だ…この違和感。


この女は一体…。


「許せない…。やっぱりアンタがこの世界に来なければ!!!」


そう言って仮面の女が銃口をボクに向けて来た。


ボクは素早く仮面の女に向かって銃弾を放った。


パァァァァン!?


カシャンッ!!


ボクの放った銃弾が仮面に当たったようで、女のしていた仮面が床に転がった。


ジャックは女の顔を見て固まっていた。


「う、嘘…だろ?」


ジャックの声が震えていた。


黒い髪の中から青い瞳が輝いていた。


女の顔がボクと同じだった。


「ボクと同じ顔?」


「ジャック。あたしの顔を忘れてないよね。」


そう言って女がジャックに近付いた。


「アリス…なのか?」


「っ!?」


この女がアリス!?


「アリス?!だって、アリスは死んだんだろ?」


「ウフフ。ジャック会いたかったぁ。」


アリスはそう言ってジャックに抱き付いた。


どうなってるんだ?


アリスは本当は死んでいなかったのか?


「アリス…、アリスなのか?」


「そうだよ貴方の恋人のアリスよ。ホラ、もっと顔を見て。」


アリスはそう言ってジャックの顔を両手で触れた。


そしてアリスはゆっくり顔を近付けてジャックの唇を唇で塞いだ。


ズキンッ、ズキンッズキンッ!!!


胸が張り裂けそうだ。


この光景を見たくない。


ジャックがアリスとキスをしている所なんて見たくない!!!


やめろ、やめろ!!!


「あたしはゼロに殺さされそうだったんだよ?ゼロの言葉は嘘。Edenの団員達の言葉が正しいの。可哀想なジャック。こんなゼロの言葉を信じて火傷だらけになってしまって…。」


何を言ってるんだこの女は…。


ジャックがそんな言葉を信じる訳が…。


カチャッ。


ジャックがボクに銃を向けていた。


「ジャック…?」


ジャックの瞳はボクを映していなかった。


感情のない瞳…。


アリスはジャックの頬にキスをした。


「さぁ。早くその女を撃って。」


アリスがそう言うとジャックが銃の引き金を引いた。


パァァァァン!!


撃たれる!!


ボクは強く瞼を閉じた。


だが、銃弾はボクの体に当たらなかった。


目を開けると、銃弾が水の塊の中に浮いていた。


「なっ!?どうなってるの!!!」


「ハァイゼロ。間に合ったわね。」


窓の外からインディバーの声がした。


窓の方に視線を向けると黒いマント来た帽子屋とインディバーの姿があった。


「インディバー!!帽子屋!?どうしてここに!?」


「間に合って良かった。やっぱり死んでなかったかアリス。」


「マッドハッター。どうして貴方がここに?それに何故ゼロを助けたのかしら?」


帽子屋とアリスの間に冷たい空気が流れた。


「ジャックは…。一足遅かったようね…。」


インディバーはジャックの方を見てそう呟いた。


「遅かった?」


「ここは一旦引くわよ!!!」


ボクの服の首元を掴み窓の外に出た。


「うわっ!?」


ボク達はそのまま窓の外に落下した。


地面に大きな扉が現れていた。


キィィィ…。


「この中に入るわよゼロ。」


「なっ!?どこに繋がってるんだ!?」


ボクはインディバーに尋ねた。


口を開いたのは帽子屋だった。


「Night'sのアジトさ。」


パタンッ。


ボク達を飲み込んだ大きな扉が音を立てながら閉じた。



 第3章  END

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