仮面の男 II

ゼロを殺せ?


何を言っているんだコイツは。


「あの少女はこの世界を壊す者。あの少女はアリスの心を壊す存在。」


「アリスの心?アリスは死んでるんだ。」


「アリスは死んでいませんよ。」


そう言って1枚の写真を見せてきた。


そこに映っていたのはベットで寝ているアリスの写真だった。


「アリス!?」


「我々が匿っています。」


「じゃ、じゃあ…あの死体はなんだったんだよ。意味が分からない。」


頭がゴチャゴチャになった。


意味が分からない事が多過ぎる。


「アリスはあの少女に狙われていたのでダミーを用意しました。」


「ダミー?ゼロがアリスを狙っていた?」


「あの少女が来る事は世界の決まりだったのです。アリスを殺されるのも運命だったのです。その運命

を我々が壊したのです。」


ゼロがアリスを殺す為に?


「俺達に黙ってなきゃいけない事だったのか?アリスは黙って行動したのか。」


「信じてもらえるか分からなかったのでしょう。あの少女の言う事は全てが嘘。アリスの情報や噂も全てはあの少女の嘘なのですよ。」


俺はその言葉を聞いてドライブに行った日の事を思い出した。


アリスとゼロの育った環境が似ていた事。


あれも嘘だったって事?


ゼロの言葉に疑問が湧いてきた。


だけど、そんな疑問がすぐに吹き飛んだ。


ゼロの顔が浮かんだ。


ぎこちない笑顔を俺に見せた事を。


ゼロがゼロ自身の話をしている時の仕草や声、表情を鮮明に覚えている。


俺がゼロの話を聞きたくなったからだ。


ゼロといる時に感じる気持ちを知っているからだ。


それはアリスといた時と同じ気持ちだった。


アリスと教会で過ごしていた日々に思っていた気持ち。


落ち着くと言う感情を…、俺はゼロといる時に思い出す感情だった。


俺は自分の手のひらから炎を出し、そしてアリスの写真を燃やした。


「なっ!?何をしてるんですか君は!?」


仮面の男が驚いた声を上げた。


「俺は俺が見たゼロを信じてる。ゼロは嘘を言っていない。俺はゼロを信じてる。」


ブォォォォォォォ!!


炎が俺の周りでメラメラと揺れ動く。


「貴方はアリスよりもその子を選ぶんですね。」


ドゴォォォーン!!


仮面の男がそう言うと外から爆発音がした。


「っ!?」


音のした方に視線を向けるとロイドの家がある方角から煙が立っていた。


「早く助けに行った方がよろしいかと。」


「お前、ゼロに何かしたのか。」


「さぁ?ご自分の目で見られたらよいかと。」


仮面の男は太々しい声を出し窓から飛び降り外に出て行った。


俺はバイクの鍵をポケットにしまい急いで部屋を出た。



数分前ー


ゼロside


ジャック…大丈夫かな。


ボクは煙草を吸いながらジャックの事を考えていた。


ご飯とか食べれてんのかな…。


何か差し入れしてやった方がいいか?


どうしてボクの今の中にジャックがいるんだろう。


「た、ただ心配してるだけだ!!な、何か買ってってやるか。」


ボクはピンク街に着て行った服を見に纏った。

 

「あ、そう言えば金ない。」


アリスの財布とかねーかな…。


机の引き出しを調べると赤いリボンの付いた巾着袋があった。


袋の中を覗いて見るとコインが10枚程入っていた。

これだけあれば何か買えるだろう。


ボクは護身用に銃を持って静かに部屋を出ようとした時だった。


「おねえーさん。」


振り返るとふわふわの黒髪の仮面をした女が机の上に座っていた。


カチャッ。


ボクは素早く銃口を仮面の女に向けた


「誰だお前。」


「そんなに敵意を向けないでよー。ジャックの側にいれて幸せでしょ?」


「は?」


コイツ…、何でいきなりジャックの名前を出した。


「ジャック良い男でしょ?アリスでもない貴方がアリスになれた気になれて幸せでしょ?」


仮面の女がボクに嫌味な言い方をしてくる


「ジャックとお前は知り合いなのか?アリスの事も知っているようだが。」


ボクが冷静な言い方をしたのが気に入らなかったらしく仮面の女が机の上から降りた。


そして、ボクに近付いて胸ぐらを掴もうとした。


ボクは体に身に付いた護身術が発動し、仮面の女の伸びて来た右手首を掴み捻った。


「痛い!!何すんのよ!!」

ボクは女の足を軽く蹴り床に転がした。


「お前が近付いて来たからだろ。」


そう言って女のツムジに銃口を付けた。


ビュンッ!!


窓の外から一筋の光が見えた。


あれは…まさか!!


ボクは素早く頭を下げると壁に銃弾が練り込んだ。

スナイパーを連れて来てたのか!!


「ッチ。当たんなかったか。」


仮面の女が舌打ちをしながら立ち上がった。


小さな光が何個か視線の中に入った。


ボクは物陰に素早く隠れた。


ビュンッビュンッビュンッ!!


部屋の彼方此方に銃弾が練り込んだ。


「どうした!!何があった!!」


慌てて駆けつけたロイドが部屋に入って来ようとした。


「入って来るな!!」


この家にいたら戦い辛い。


ボクは仮面の女の胸ぐらを掴み2階の窓から外に飛び降りた。


「キャァァァ!!何すんのよ?!!」


「ゼロ?!大丈夫か!?」


窓からロイドがボク達を覗き込んだ。


「大丈夫だ!頭を下げておいた方がいい!何人かのスナイパーが狙って来てる!!」


「なんだって!?その女は誰だ!?」


ロイドとボクが話してる隙に仮面の女が走り出した。


今あの女を逃したらここへ来た理由を聞けないままだ。


「ボクはあの女を追いかける!!」


「なっ!?ゼロ!?」


ボクはロイドの言葉を無視して仮面の女を追いかけた。


「待て!!」


暗い森の中を走り続けた。


仮面の女は銃を取り出したようでボクに向かって銃弾を放って来た。


ッチ。


暗視スコープがないから銃弾の動きが見えねー。


ビュンッ!!


ボクの右肩に銃弾が当った。


「ッチ!!」


仮面の女は足を止める気配が一向にない。


ボクは女の背中に向かって銃弾を放った。


ブジャァ!!


「ヴッ!!」


仮面の女の背中に銃弾は命中した。


走り続けていたらいつの間にか森を抜けて街に到着していた。


仮面の女は地面に倒れ込んだ。


「はぁ…、はぁ…。」


息の荒い仮面の女の後頭部に銃口を付けた。


「何でボクに接触して来た。理由を言え。」


ボクがそう言うと、仮面の女は軽く笑った。


「お前、何…。」


ドゴォォォーン!!


爆発音が街中に響いた。


どうやら、ビルが爆発したようだった。


「キャアアアアア!!」


「爆発だ!!」


街中が混乱の嵐になった。


もしかして、仮面の女はEdenの団員か?


「お前…、もしかしてEdenの団員なのか?」


「私達は楽園を作る者。」


「やっぱりお前はEdenの団員か!!」


ボクがそう言うと左の肩に痛みが走った。


左肩に目を向けると血が流れていた。


スナイパーが狙って撃ったのか。


しまった!!


油断した!!


すると、混乱の足音とは別の足音がボクの後ろで止まった。


振り返ると仮面をした男達が何十人もいた。


囲まれた。


これはヤバイ状況だ。


「大丈夫ですか?団長。」


仮面の女に近付いた仮面の男がそう言った。


この女が団長!?


「いつまで演技してるんですか。」


「バラしたら駄目じゃない。早くチャックを下ろして。」


「はいはい。」


仮面の男はそう言って団長の背中に触れた。


ジジジッとチャックの降りる音がした。


そこから団長が現れた。


「は?ど、どうなってんだ?」


「コレはあたしのフェイクよ。」


そう言って抜け殻になったフェイクの団長の体を持ち上げヒラヒラと揺らした。


「さてと…。ここで死んでもらうわよゼロ。」


団長がそう言うと仮面の男達が銃を構えた。

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