屋上から見た景色と招待状

ジャックの体からミントの爽やかな香りがした。


気持ちの良い風に流れる風景はキラキラと輝いていた。


ボクの住んでいるクラスターノダール地方にはなかった風景だった。


「この世界も中々綺麗だろ?」


不意にジャックがボクに話し掛けて来た。


「あぁ…、ボクの世界では見た事がないくらい綺麗だ。」


「ならしっかり目に焼き付けておけよ。」


顔は見えないけどきっと意地悪な顔をしてるんだろうなって思った。


心がポカポカして温かった。


なんだろうこの気持ち…。


ジャックといる時は煙草を吸っている時みたいに落ち着く。


暫くした後に古いビルの下でバイクが止まった。


「降りろ。」


「え?このビルに用事があるのか?」


「良いから良いから。」


「?」


被っていたヘルメットを取りバイクを降りた。


そしてジャックの後を黙って付いて行った。


埃臭いビルに入り長い階段を登り続けた所でジャックが扉を開けた。


そこに広がった夜景は凄かった。


言葉じゃ表せない程に幻想的で、手を伸ばせば星が掴めそうな距離に星が見えた。


夜のお店のネオンがキラキラと輝いていた。


「凄いなコレは…。」


「だろ?」


カチッ。


ジャックはそう言いながら煙草に火を付けた。


「コレを見せる為に来たのか…?」


「あぁ。」


「何で?」


ジャックが何故ボクをここへ連れ来たのか分からな

かった。


何か理由があるのかと思いジャックに尋ねた。


「あ?別に理由はねぇよ。ただ、ゼロにも気を休めて欲しいって思っただけだ。」


「気を…?」


「アリスの為にこの世界に来てくれただろ?だけどさ…お前にとっては関係ない事に巻き込まされたって感じだろ?まーこんな事で気休めになるか分かんねーけどさ。」


そう言って軽く笑った。


トクンッ!!


胸が跳ね上がった。


ジャックに見つめられただけでどうしてこんなに心


臓が早く動くんだ?


ただ、見つめられているだけなのに。


こんな感情を男に抱いた事がない。


今まで任務の為に男にハニートラップを仕掛け肌を重ねた事があるが何も思わなかった。


だけどジャックの体に触れた時は動かなかった心臓が動いた。


何でだ?


何でジャックにだけ心臓が動くんだ…?


「今日さ、城に潜入しただろ?何か情報はあったか?」


高まっていた心臓がその言葉を聞くと動きを止めた。


結局そうなのか。


ジャックのあの言葉も本当はこの話を聞く為に言った言葉なんだと理解した。


ボクは城で見た資料室の話やアルスの部屋で見つけた鍵付きの手帳の話をした。


「アリスの写真…、俺が見た事がないアリスが映っていた…か。それに鍵の掛かった手帳も気になるな…。」


ジャックとアリスの関係はなんだろう…。


気になる。


ボクはそんな考えを持ったまま口を開いた。


「ジャックとアリスはどう言う関係なんだ…?」


ボクがそう言うとジャックが驚いた顔をした。


「へー。ゼロでも気になるんだ俺とアリスの事。」


ジャックが意地悪な顔をしてそう言った。


「そ、それは気になるだろ。ロイドとは違う関係なんだろ?」


「俺とアリスは同じ孤児院で育ったんだ。」


「ジャックも孤児院で育ったのか…?」


「あぁ…ってもしかしてゼロもか!?」


「そうだ。」


「え、マジ?」


ジャックの顔を見たらかなり驚いている事が分かった。


ボクも驚いているのだから…。


「マジかよ…凄い偶然。俺とアリスは幼馴染みに似た感じだな。それで…1年前からアリスと付き合っていた。」


チクッ。


こっちを向いているのにジャックの瞳はボクを映していなかった。


どこか遠くを見ていた。


ジャックがアリスの恋人だって分かっていたのにどうしてこんなに息がし辛いんだ。


分からない、分からない。


今まで感じた事のない感情が体を支配する。


気持ち悪い。


気持ちを落ち着かせる為にボクは煙草を取り出した。


煙草を吸えばこの気持ち悪さは治る筈だ。


そう思いながら口に咥え火を付けた。


「だからアリスを殺した奴を俺は許せねぇ。見つけ出して絶対殺してやる。」


ギリッギリッ。


手すりを強く掴み夜景を睨み付けていた。


ジャックがこんなに怒ってるのはアリスの恋人だから。


アリスの事を好きだから。


分からない。


どうしてこんなにアリスの為に怒れるのだろう。


「お前に迷惑かけて悪いな…。だけど俺達にはゼロしか頼りがねぇ情けない話だが。」


「気にするな。ボクはその為にこの世界に来たんだ。」


「何でそんなサッパリしてんの?クククッ。」


ジャックは笑いを堪えながらボクに尋ねた。


「いやボクは当たり前の事を言ったまでだ。」


「クククッ、そうだな。ゼロはそう言う奴だよ。」


そう言ってボクの前に拳を出して来た。


「宜しくな相棒。」


相棒…。


ボクもゆっくりと拳を上げジャックの拳に軽くぶつけた。


コツン

「あぁ。宜しく頼む。」


「あっちの世界の話をしてくれよ。ゼロの事も知りたいし。」


「ボクの事を?」

「相棒の事を知りたいんだよ。ホラホラ!!」


ボクは顔を少し掻いてからジャックの質問に答えた。


ジャックは興味津々な顔をしてボクの話を聞いた。


まるで宝箱を見つけた子供のようだった。


そんなジャックの姿を見て胸が温かくなった。


ボク達は明け方まで話をした。


「ってもう朝じゃねぇか!?悪いなゼロ眠いだろ?」


「大丈夫だ。あんまり寝なくても平気な体だ、軍隊で教育されたからな。ジャックこそ寝なくて平気なのか?」


「俺は休みだから平気。そろそろ帰るか。」


「あぁ…。」


ボク達はビルから出てジャックのバイクに乗った。


夜景とは違う風景が流れた。


朝日が登り爽やかな風が心地良く吹いた。


ボクはそっとジャックの背中に顔をくっつけた。


キキッ!!


ジャックがロイドとアリスの家の前でバイクを止めた時、白い鳥がボク達の方に飛んで来た。


バサバサッ!!


「ん?鳥か?」


白い鳥がボクの肩に止まり、鳥の姿が手紙に変わった。


「鳥が手紙に変わった…?誰だ?」


手紙の裏を見ても名前は書いていなかった。


ジャックが手紙を見て眉間にシワを寄せた。


「帽子屋からだ。」


「帽子屋から?何でボクに?」


「開けてみようぜ?」


「あぁ。」


手紙を開けるとお茶会の招待状が入っていた。


「お茶会?」


「帽子屋主催のお茶会だ。よくアリスも行っていた。」


「ボクをアリスだと思って送って来たんだろうな。」


「どうする?」


ジャックはそう言ってボクの顔を見た。


「勿論、行くに決まっている。何か掴めるかも知れないからな。」


これは良い機会だ。


帽子屋に近付く口実が出来た。


アリスとの関係性を調べられるな。


「だが…。帽子屋と接触するのは危険だぞ。」


「ボクなら大丈夫だ。相棒ならボクの事を信用しろ。」


「悪い。任せたぞゼロ。」


「あぁ。」


ボクはジャックを見送り家に入った。

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