第29話 『中継』

「こちら小惑星帯を抜けた地点の中継ボートです。既にギャラクシーファクトリーのロケットボートと、八幡㈱のロケットボートは小惑星帯を抜けまして、木星へと向かっております。そろそろMWコーポレーションのロケットボートも、この小惑星帯を抜けるでしょう。MWコーポレーションを始め、どのロケットボートにもまだまだ可能性は残されています。ここまでは全く予測の出来ない展開です」


ABCのテレビクルーが、中継地点から軽快にリポートを放送する。

今回のチェイス・ザ・ギャラクシーの独占放映権は、ABCテレビが獲得したため、ABCは局の威信をかけて大々的なプロモーションを展開していた。

第1回大会から、抽選でどこかのテレビ局が独占放映権を獲得し、レースの実況をしてきた。

ABCは記念すべき第1回大会で、独占放映権を獲得していたが、それ以来の放映権だったため、最新の映像技術も駆使し、視聴者へアプローチしていた。

ロケットボートの操縦席に取り付けられたカメラと、VRシステムを連動させ、リアルタイムのレースを、レーサー目線で視聴者が体験出来るようにしたのだ。



「アレン、ここまでのレース展開の印象を聞かせてくれ」


地球のテレビ局からキャスターが、中継ボートのレポーターに問いかける。


「そうですね、今回のレースは本当に予測不可能だと思います。現実的に言えばギャラクシーファクトリーのロックが勝つ確率が高いと思いますが、八幡㈱のミツルの操縦テクニックには驚かされるばかりなので、もしかしたら番狂わせがあるかもしれません。小惑星帯を抜けた時点でのロケットボートの速度は、これまでの大会の中でも最速でしたし。そして、今大会で引退を表明している、MWコーポレーションのパイソンですが、実は私が一番可能性を感じているのがパイソンです」


「その理由は?」


「やはりエンジン性能の差です。MWコーポレーションのエンジンシステムは、世界一です。現在の状況は芳しくありませんが、トップになれる可能性を大いに秘めていると感じます。あっ!待ってください」


「どうしたんだ?」


「MWコーポレーションのロケットボートが肉眼でも確認出来ました。『赤い彗星』が今、ちょうど小惑星帯を抜けました。そしてブースターエンジンを点火させ、ロケットボートを加速させた所です。これで全てのロケットボートがガニメデへの旅へと突入しました」


「途中、彗星群のアクシデントもあったが、各ロケットボート順調のようだね」


「はい。これからのレース展開からも、ますます目が離せません。是非この白熱しているレースを、最後までお楽しみください。以上、中継ボートからでした」

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