よるのまち

眠れない。


こんな日は誰にだってあるのだろう。眠ろうと思えば思う程、どういう訳が眠りに落ちてくれない。僕はこの釈然としない意識を一旦リセットする為に外に出た。

門がキィと音を立てる。何故だか女の人の悲鳴に聞こえて嫌な気分になった。

当然、外は闇で覆われていた。カサカサと動く人型の煙のようなモノが横切った。アレは元々人間だったのだろうか。それとも、元から「ああいうもの」として夜の世界に在るのだろうか。ぼんやりとした意識の中、街灯と月明かりだけが僕を淡く照らし続けていた。

「そうだ、公園に行こう」

動機は分からない。僕は歩き始めていた。静寂を守っていた夜が僕の足音で割れる。その耳障りな音が気になりだし、次第にすり足気味な歩き方に変わっていった。よるのまちを歩く僕は段々と闇に調和していく。

公園に辿り着いた。昼でも賑やかな公園は夜でもまた賑やかであった。ただしそこに居るのは子供ではなく「ああいうもの」達が集っていた。

右を向く。頭を開いた女性が中身を零しながら低い呻き声を上げている。

左を向く。ヒトであるかなんであるか分からない、毛玉に顔を描いたようなナニかが佇んでいる。

「そうか」

人がよるに眠る理由、僕はそれを理解した。

よるは人だったモノ達のための時間なんだ。

ここに居てはいけない。

「もう 帰ろう」

僕は家路へと急いだ。


タスケテ タスケテ


振り返ると先程の頭の割れた女性が僕ににじり寄ってきていた。見えているのかいないのか、本来目が入っていた筈の穴から黒い血を流し、イタイイタイと叫んでいる。僕は女性に向き直り、告げた。





僕がそう言うと、女性はうずくまって地面に吸い込まれるように溶解した。


そう、僕もいつかきっと。


よるがきて、あさがきて、またよるがくる。

僕もいつか、よるを巡る事になるのだろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る