第2話

パーティが終わった後は自宅に帰り、家族に今日の別れを告げて自室に戻る。

寝支度をしてくれたメイドにおやすみの挨拶を伝え、ベッドで一人になった。


私はベッドで横になりながら、独り言を話す。

「ふふ、10歳かぁ。10歳といえば、もう大人の仲間入りよね!…そういえば、この間でのお茶会に参加していた子が、10歳になったら婚約者ができたって言ってたなぁ。私ももしかして、そろそろ…?」

私はイッシュとオーウェンを思い浮かべた後、誰かに言い訳をするかのように言った。

「ま、まぁどうなるかなんて分からないけど!」


私は恥ずかしさを打ち消すように、ギューッと目を閉じる。

パッと目を開くと、目の前に何かが浮かび上がっている。

「ん…?」

私は目を擦り、体を起こした。

「何かしら、コレ…?」

やっぱり、幻覚では無さそう。空中に文字が浮かび上がっている。

「魔法…?えっと…」


私は文字をゆっくりと読み上げる。書かれていた内容はこうだった。

『A.怖い夢を見たと言って、両親の部屋へ行く』

『B.怖い夢を見たと言って、兄の部屋へ行く』

『C.お腹が空いたと言って、キッチンへ行く』


「?どういう意味なのかしら…」

私はそう言いながら文字に手を伸ばした。

すると、文字に触れたようで私は真ん中の『B』を押してしまう。


すると、私はベッドから出てお兄様の部屋に向かっていた。

(え?なんで私…え?)

思考は出来るが口も体も自分の意志では動かせない。


「お兄様!怖い夢を見てしまったの!」

確かに私の口からそう発せられて、勝手にお兄様のドアを開けた。

そう、開けたのだが…

次の瞬間—


ザシュッ


「…え?」

お兄様が私の名前を大声で呼び、真っ青な顔でこちらへ向かってくる。

胸の方が熱い。どうしてだろう?痛い…

私が自分の体を見下ろすと、ナイフが綺麗に突き刺さっていた。

「どう…して?」

その言葉を最後に私の体は崩れ落ちる。

最後に見た光景は、目に涙をいっぱい貯めながら私の名前を呼ぶお兄様だった。


そして目を覚ますと、またあの光景だった。

そう、ベッドの上で座り込んでいる私。

目の前には先ほどの文字が浮かび上がっている。

「何が起こったの…?」

また目の前の文字を見ると『B』の選択肢の最後にドクロマークが付いていた。


「ああ、そっか…死ぬ選択肢を選んじゃったのかぁ…じゃあ次はAかC…」

言いかけて、自分の言葉に違和感を覚えた。

まるで、この現状を受け入れてるかのような言い方だ。

「あれ?いや、知ってるんだわ。これって…あのゲーム…そうよ!!」


【恋する私の学園生活~選択死をかいくぐれ!~】


通称、コイガク。でプレイしたゲームだ。

主人公の女の子は名門校に入学する。

そこは一般人も入れるような学校ではあるが、王子を含むイケメンがたくさんいて、主人公は選択肢を選びながら狙っているキャラクターの攻略を目指すという王道の恋愛ゲームだ。

ただ他と違うのが、選択肢の1つに必ず死ぬ選択肢、通称『選択死』があるという事。

選択肢によるBAD ENDこそ無いものの、毎度毎度死ぬ可能性があるっていう…所謂いわゆる、死にゲーという奴だ。


ファンの間では、もはや呼称が『コイガク』ではなく『選択死』になる程、めちゃくちゃ死ぬ。そんなゲームだ。

ああ、そっか…ここは前世でやったコイガクの世界なんだ。前世の私は死んだのだ。

今はルージュとして生きているわけだけど…

「え?ルージュ?」

そうだ、ルージュって…

「主人公の恋愛の邪魔をする、悪役令嬢じゃない!!」


思わず大声で叫ぶ。泣きたくなったしこの場から逃げ出したくもなったが、なぜか体は動かない。ああ、そっか…

「ゲームを続けろ、って事かしらね…」

とりあえず、この選択肢をクリアしてから色々と考えなければ…


大丈夫。Bで死んだって事は、AとCどっちでも大丈夫なはず…

本来であれば、死ぬ選択肢以外の2つの選択肢は、攻略対象誰かの好感度が上がるはずだけど…今はどっちでもよさそうだ。

「とりあえず…これで良いわ」

私は『A』を押した。


すると、私の体は先程と同様に勝手に動き出し、両親の寝室へと向かう。

(大丈夫…大丈夫なはずよ…まずはここを乗り切りましょう。大丈夫よ)

私は自分に言い聞かせるように、心の中で呟く。

体が支配されているような感覚の為、心臓の鼓動も変わらないはずだが、すごくドキドキしている気がした。


「お母様、お父様!怖い夢を見てしまったの!」

そう口から発せられた後、私は扉を開ける。

先程の選択肢Bと同じように…。


「まぁ、ルージュ!10歳になっても、まだまだ子供ね?」

「ふふ。そうだな。こっちへおいで。落ち着くまで、ここにいると良い」

優しく微笑む母と父。

ホッとしていると、手足が動く事に気付く。

私はヨタヨタと歩き、母と父に近づく。


(あれ…?)

私は自分の足が震えている事に気付いた。

今になって、さっき死んだのが怖くなったみたい。


『―ザシュッ』

胸を貫いたあのナイフと痛みを、鮮明に覚えている。

これはゲームじゃないんだ。勿論痛みも伴うし、死ぬ。

すぐに生き返り痛みも無くなる為、夢を見た気分だったが、あれは夢じゃなかった。


夢じゃ、なかったのだ。

「…うっ…げぇ…」

「!?ルージュ!?」

「どうしたんだ!?おい!カール、来てくれ!!」

突如、私は吐き気に襲われその場でうずくまる。

(これが、私の現実なの。ゲームなんかじゃないわ)


私はそのまま意識を失ってしまったのだった。

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