恋愛ゲームだけど死にゲーな世界の悪役令嬢に転生しました

くるみりん

第1話

今日、私ルージュ=ホルダーは10歳の誕生日を迎えた。

そして今、目の前に文字が浮かび上がっている。

「何かしら、コレ…?」

を触ってから、私の運命の歯車が動き出したのだった。


***


大好きなお父様を待っていた私は、執事から『お父様が帰ってきた』という知らせを聞いて、玄関まで全力疾走した。


「お、お嬢様!令嬢らしからぬ行動は慎んでください…!」

後ろから執事が声をかけ、メイド達は私を見てクスクスと笑っている。

どうせ、令嬢らしくなんてないですよーだ!

笑うメイド達を横目に、私は階段を駆け下りた。


「お父様!おかえりなさーい!」

私が飛びつくと、お父様は咄嗟に私を抱きしめる。


「ルージュ!待たせてすまないな。会議が思いのほか長引いてしまって」

「大丈夫よお父様!だって今日は…」

「ああ、そうだな。お前の誕生日の為のドレスを選びに行こうか。お母様は?」

「あ!置いてきちゃった!」

お母様の事をすっかり忘れてしまった。

慌てて振り返ると、そこには優雅にこちらへ向かってくるお母様の姿があった。


「もう、ルージュったら…あなたが帰ってきたと聞いて、走り出してしまって…お母様の事も忘れないでね?」

「はぁい…ごめんなさい」

「ふふふ」

私が謝ると、お母様は笑って許してくれる。


「お父様、お母様…」

呼ぶ声があって振り返ると、お兄様のアレンが立っていた。

「おお!アレン!」

「あ、あの…僕…いえ、私も…」

モジモジとお兄様が口ごもる。私は咄嗟に抱き着いた。

「ねぇ!お兄様もいっしょに私のドレス、選んでくれるでしょう?」

「…!う、うん!勿論!」

お兄様が笑顔で答えてくれて、お父様もお母様も笑ってくれている。

もうすぐ訪れる私の10歳の誕生日。

その誕生日パーティに着るドレスを選びに行くのだ。

皆で馬車に乗り、いつもの服飾店に向かった。


「お待ちしておりました、ホルダー様」

お店に入ると、綺麗なお姉さん達がお辞儀をして歓迎してくれる。

「予約の時に話した通りに。この子の誕生日パーティで着るものを。私たち家族全員に見繕って貰えるかな?」

お父様が笑顔でそう伝えると、お姉さんは顔を赤らめながら『承知しております』とだけ答えた。


私たちは服のサイズを測ったりデザインを確認する為、それぞれ個室に案内された。

「お嬢様、お話は聞いています。せっかくの10歳の誕生日ですが…ドレスはやはりピンクになさいますか?」

個室ではまずドレスの希望を聞かれた。

「うーん…ピンクかぁ…」

私が迷っていると、お姉さんは慌てたように付け足してきた。

「最近お嬢様のお年頃の方々では、ピンク色が流行っていまして…他の色がよろしいですか?」

派手なピンクが流行っているのは私も分かっていたけど、どちらかというと水色や緑などの淡い色が私は好きだ。


「あのね、お姉さん…そのね…」

「ええ、ええ。ゆっくりでよろしいですよ。何でも仰ってください」

私が言いづらそうにしていても、お姉さんはニコニコとしながら待ってくれている。

「私はピンクよりね、お姉さんが着ているみたいな水色のが良いの」

「あら、この色…ですか?」

「うん!ピンクも可愛いんだけどね、絵本の中のお姫様は水色のドレスで…お姉さんもお姫様みたいで綺麗だから!」

私が必死にそう言うと、お姉さんはバッと口元を抑え少し震えていた。

あ、これは笑われているんだろうか…


「あの、やっぱり変かな?ピンクの方が良いのかな…?」

思わず涙ぐむと、お姉さんは慌てて私の目元にハンカチを当てながら言った。

「とんでもないですわ!お嬢様、流行に左右されず好きなものを着るのはとても勇気のいる事です。とても素晴らしいです。それに…私を『お姫様みたい』と言ってくれたのが、とてもとても嬉しかったのです」

お姉さんは、私に目線を合わせるようしゃがみながら話してくれる。

ああ、この人は私の事を馬鹿にしないでお話してくれるんだなぁと、幼いながらに感じるのだった。


「ありがとう、お姉さん!じゃあ私、水色のドレスが良い!」

「お任せください!きっと、主役であるお嬢様を一番に輝かせるようなドレスを作ってみせますわ!」

お姉さんは、そう張り切って私の採寸をするのだった。


採寸も終わり、細かいドレスの希望を伝えた後は休憩室に案内された。

休憩室には最初お兄様しかいなかったが、他愛ない話をしていると時間はあっという間に過ぎ、お父様とお母様もすぐにやってきた。

その後はまた馬車に乗って、自宅へ帰るのだった。


それから時が経ち…ついに私の誕生日当日になった。

大勢の人が私の誕生日をお祝いしに来てくれている。

お父様が始まりのスピーチをしている横で立っているだけだったけど、とても緊張した。

「では、お楽しみください」

お父様のその最後の言葉で、皆それぞれが食べ物を食べたり踊ったりと自由に楽しんでいる。

私も皆の所に行き、同世代の仲良くしている子達とお話をする。

「ルージュ様、ドレスが素敵ですわ」

「わたくしも、そう思っていましたの!流行に流されない水色のドレスも素敵ですわね」

「ふふ、ありがとう」


「ルージュ」

話し中だったが聞き覚えのある声だった為、思わず振り返る。

「あ!イッシュ!久しぶり!」

私は話していた令嬢の子達に『ごめんね』とだけ告げて、イッシュと話し込む。

イッシュ=コールンは小さい頃から仲良くしている男の子。

お父様同士が仲が良く、自然と私たちも仲良くなっていったという感じだ。


「イッシュ。ルージュ嬢」

イッシュと話していると、今度はもう一人の幼馴染であるオーウェン=レイミーが声をかけてくる。

「おー、オーウェンじゃん」

「久しぶりね!」

「そうだね。ルージュ嬢、この度10歳の誕生日を迎えた事、賛辞を贈らせてもらうよ」

手を胸につけたままペコリとお辞儀する姿を見て、何だか照れ臭くなった。

「も、もう!私たちの間でそんな堅苦しいのは無しでしょー!」

「…ああ、そうだね」

私がそう言うと、オーウェンは変わらず笑顔のままだった。


その後も、結局最後までイッシュとオーウェンとばかり話をしていて、誕生日パーティは幕を閉じた。

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