エピローグⅠ

大統領の訪問

 翌朝ガレージで目を覚ますと、ウィルがピンクのツナギ姿で何やらバタバタと慌ただしい様子である。


「どうしたのだウィル? そんなに慌てて」

「どうしたもこうしたもないですよ! だって大統領がこれからここに来るんです、せめて少しでもきれいにしておかないと!」


 ああ、なるほど。ウィルはこのガレージを掃除しているのか。


 まだ来て間もないのだから、ほとんど汚れていないと思うのだが……。


 クワガタくんのついでに私の整備も毎日してくれてるし、感心するくらいマメな男の子である。


「そういえばハンナたちはどうしてるんだ?」

「ハンナちゃんたちなら身なりを整えてるところですよ。なにせこの国で一番偉いお方が来るんですから!」


 確かに耳を澄ませば、家の方からあーでもないこうでもないとハンナの慌てふためく声が聞こえる。


 私の前では心配になるくらいおおらかな彼女だが、こういうときは真剣になるのだな。


「ボクも掃除が終わったら着替えないと! ――クワガタくん、今はちょっと構ってる暇ないからあっちでいいこにしていてくださいっ」

「キリリ……」


 じゃれたところをウィルに軽くあしらわれて、クワガタくんは大あごをしょげて残念そうである。


 クワガタくんもすっかりウィルに懐いているみたいで、可愛らしい一面も見てとれるな。


 しばらくして掃除を終えたウィルも家に入ると、私のもとにクワガタくんが歩み寄ってくる。


「キリリリ」

「ん?」


 あいにく私にはクワガタくんの言葉というか鳴き声の意味が分からない。


 しかし私に触角を擦り寄せてくるあたり、同胞として彼?なりに信頼を示してくれているんだろうな。


「よしよし分かった、君も私の仲間だな」

「キリャーッ!」


 私があごを擦り寄せると、クワガタくんも嬉しそうに声をあげる。


 どうやらこれで意味が通じているらしい。


 こうしてクワガタくんと戯れていると、いつの間にかハンナたちがガレージに出てきた。


「じゃーん! 見て見てデューク、アタシきれい?」

「ううむ」


 自信満々なハンナだが、私にはいつもの彼女との違いがよく分からない。


 多少身なりや髪が整っているくらいか?

 とはいえ無粋な返事をしてハンナをガッカリさせるのも良くないので、とりあえずこう答えておく。


「ああ、きれいだ。これなら大統領の前でも問題はない」

「でしょでしょ~! ほら、この前髪とか気合い入れてセットしたんだ~」


 私の返事にハンナも上機嫌だ。


 やはり女の子は可愛いとかきれいと言われれば喜ぶものである。


「オレには違いなんて分からねーけどなっ。無駄に時間かけすぎだっつうの」

「こらこらボギー、そんなこと言っちゃダメでしょ? ハンナだって頑張ってたんだから」


 ボソッと毒をはくボギーをたしなめるカレン。


 ふと私は何かの物音に気づいた。


「車の音、誰か来たのではないか?」

「え、もう来ちゃったの!? こうしちゃいられないよ!」


 慌てて外に飛び出した四人に私も続くと、ガレージの前で立派な黒いリムジン車が停まっていた。


「ホントに来たんだ……!」


 高級そうなリムジン車を前にハンナは目を白黒させている。


 かくいう私も本物のリムジン車を見るのは初めてだ。


 先に車から降りたタキシードの男たちに続いて出てきたのがこの国の大統領だろうか、軍服ともスーツともとれる青い服装をした初老の男である。


「初めまして、私がこのマノス共和国で大統領を務めるヘリックだ。よろしく頼む」


 自己紹介をしてから頭を下げるヘリック大統領に、ハンナは逆にあたふたし始めた。


「そそそそんな! 大統領の方が頭を下げるなんて!」

「慌てすぎよハンナ、そんな態度じゃ逆に失礼だわ」

「そ、そんなものかな……?」


 まだ落ち着かないハンナに対し、ヘリック大統領はコホンと軽く咳払いをしてこうもちかける。


「ハンナ・ミリオンさん、だったか。君がそこの巨大な機械恐竜の主人かね?」

「は、はい!」


 ビシッ!と起立するハンナをよそに、ヘリック大統領は私の足元に歩み寄った。


「不思議な機械だ。私も長年この国の政治に関わってきたが、こんなものを見るのは初めてだよ」

「そうなのかっ」

「おっと、そういえばしゃべる機械との報告もあったな。君がデューク君だね?」

「はい」


 大人として礼儀正しく返事をしたところで、ヘリック大統領を初めとした要人たちは我々のガレージへと入っていく。


 ヘリック大統領はしばらくガレージの見学をしてから、ハンナたちの住居も訪問した。


 後からカレンに聞いたのだが、この後いろいろと交渉を受けたという。


 そうして落ち着かない時間は実際よりも長く感じたのであった。


 あれから結局カレンたちはリバイス団の殲滅による共和国からの表彰として、うなるほどの報酬がもらえたという。


 それだけでなく我々も大統領との顔が利くようになり、ウィルに至っては今後開始されるアニマジン(私を含めた動物型の機械を指す名称とのことだという)の研究などに顔を出すようになっていた。


 より忙しくなりそうな予感の我々だが、ハンナとの絆は変わらない。


 いや、それどころか彼女との繋がりは今後もより強くなっていくだろう。


「デューク、行くよ!」

「了解っ」


 今日も私は相棒のハンナを頭のコックピットに乗せてゆく、それが私と彼女の絆の証なのだから。

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機竜転生~乗り手の女の子にエッチなお願いをしてエネルギー充填、装備も増築して気づけば世界最強 月光壁虎 @geckogecko

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