幕間

 ◆???

 テスターが仮想世界にログイン(ダイブ)してから、もうすぐ2年近く経とうとしていた頃——現実世界では4日が過ぎていた。


「……」


「……」


「……」


 モニターに映る仮想世界ユートピアの現状を見て、集まった我ら三人は沈黙している。



「どうして、こうなったのでしょうか?」


 ついに、瀬田総理が沈黙に耐えられなくなったようだ。


「……」


 加納社長は相変わらず沈黙を守っている。


「言わずとも皆わかっているだろう。草薙彰——英雄・草薙誠の忘れ形見。奴が秩序を乱すキーマンになっている。加納社長、もちろんあなたのご息女も、ですが」


「……」


 これでもだんまり、か。


 ただでさえ口数が少なくて、彼が何を考えているのか分からない。

 が、彼抜きでは、このVSPはそもそも成立しないと言っても過言ではない。

 特に不審な動きもないし、態度ではなく結果で誠意を示してくれているから、逆にこちらから下手な動きはできないでいる。



「……改めて現状を整理したします。現在都市エスティから離れ、我らの管理下から外れているのは、テスター300名中80名。うち15名は仮想世界で死亡し、途中リタイアとなっております」


「社長、リタイアの経緯について詳細なことはわからないのですか?」


「申し訳ございませんが、詳細まではわかりかねます。座標の特定はできるので、エスティの外で死亡したということは分かっておりますが——」


 エスティの外ということは、恐らくなんらかの生物に殺されたということで間違いない。

 問題なのは、昨日までは誰も死亡していなかったということだ。


「それで……仮想世界における時系列で言うと、『奴らがエスティの外に出て数日後に死者が出た』という認識で間違い無いですか?」


「はい、間違いございません。その後、しばらく間を置き、大量のテスターが外の世界に出ております。それにより、死者が出ております」


「鈴木代表! まだファンタジー要素を色濃く出していない現状でさえ、これだけの死者を出しています。このままでは、我々の対抗勢力に揚げ足を取られてしまい、VSP自体の運用も——」


「総理——問題ありませんよ。数値なんていうものはいくらでも操作できます。、国民は我々の思い通りに動いてくれます。同じようにね」


「な、なるほど。確かにその通りですな」


「……」


「とにかく我々から直接仮想世界に関与が無理なため、静観するしか無いでしょう。だが、最後は結局我々の思うままです」


 そう思うままだ。

 そのはずだが、なぜか不安がまだ拭えない。

 また、あの時のように最後の最後で邪魔されるような失態があっては——今度は私の命が危ない。

 20年以上経ってもまだ草薙の血筋は、私を脅かすのか。


 けれど、私にも切り札がある。

 うまく動いてくれていれば——



 〜〜〜〜


 彰が凪沙と共に仮想世界を満喫する中、仕掛けられた陰謀がついに彼らに牙を向く。


 それは日常生活の些細なところから、じっくりと、じわりじわりと。


 次章、『所有ってなんだろう?』



「本当はどうしたいんでしょうか?」



 to be continued...

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