第11話 新しい仲間

 エスティから北西に100キロ先にあるヘルンポス鉱山。

 そこを越えた先にある森林地帯は、火山岩の影響で磁場が不安定になっており、方向感覚が狂いやすい。

 しかも、獰猛な生物や、不安定な気候もあり人が住めるところではないと言われている。

 さらに突き進んだところは、未だかつてプレイヤー含めてエスティの人間は誰も到達できていない。


 ——ここは、開拓最前線。



「今日が約束の日ですね。彼ら来ますかね?」


「彼の方はわからないけど、彼女の方は必ず来るわ!」


「そうですか。なら、約束の地に向かいましょう」


「えぇ! 暁斗」


 凪沙の呼びかけに応じて、彼女に近づき手を握る。

 彼女は時計を巧みに操作すると、ある技術スキルを発動させる。

 すると、私たちの体を光が包んでいき——



 *



 視界が開けてくると、私たちは見慣れたところに移動していた。


「何度体験してもこの上級技術スキルはすごいですね」


「ふぅ〜、まぁね♪ 暁斗を見習って、新しい上級技術スキル——<跳躍チョウヤク>を身に付けたんだから」


 <跳躍チョウヤク>は、凪沙が開発した上級技術スキルの一つ。

 イメージした場所に瞬時に移動することができるという、とんでもなく便利な技術スキル

 自分が開発したものよりも、遥かに利便性に優れていて、まさにチートと呼ぶに相応しい。


 まず、そもそも<跳躍チョウヤク>が生まれた経緯が、<創造ソウゾウ>ではない点が異常である。

 彼女はアーティストらしい発想で、持ち前のイマジネーションで創り上げたのである。


 原理?

 そんなのはまったくよくわかりません。


 当の本人に訊いたところ、「えっ? そんなのできちゃったんだからいいじゃん♪」という一言で終わり。


 常に、正解と不正解が求められている世界。

 根拠がないことをあたかも根拠があるかのように捏造——そして、無理矢理正解と不正解に差別する。


 理由がつくことがすべてではない。


 そのことを彼女——三位凪沙と同じ時を過ごすことで、体感する毎日。



 そんな<跳躍チョウヤク>であるが、使うリスクもある。


 凪沙の話では、かなりの集中力・イメージ力が必要になるらしい。

 つまり、そんなにピョンピョン気軽に使える代物ではないということだ。

 現段階で使える回数は1日に2〜3回程度。


 彼女の負担が大きくなるのであまり使ってほしくはなかったが……今回は新しい環境創りに二人とも夢中になりすぎて、気がついた時には約束の日の前日になっていたというわけである。



「それで、彼らがいるかどうかだけど——」


「ほらっ、やっぱりいたでしょ!」


 草木をかき分けた先に、二人組の男女——カーミアとサンドレアが待機している姿が確認できた。



「久しぶりね、カーミア」


「はい、ナギさん!」


「……どうやら、生きていく術は身に付けたようね」


「私もナギさんと同じ開拓士パイオニアとして、猛特訓してきましたので」


「そのようね。早速見せてもらうわよ」


「はい!」


 それだけやりとりすると、女性陣は危険エリアの方へと歩いていく。


「「……」」


 となると、当然残されるのは男性陣の私とサンドレスさんとなる。


「サンドレスさんもご無沙汰です」


「はい、アキトさんもお元気そうで」


「サンドレスさん、この状況に慣れているようですね」


「アキトさんこそ」


「「クックック……アハハハーッ!!」」


 お互い何がおかしいのか分からないけれど、二人して笑い転げるのであった。



 *



「それで、サンドレスさんは何の職業を選んだのですか?」


「僕は農業士ファーマーを選びました」


農業士ファーマー、開拓地では重宝しますね」


 農業士ファーマーは、その名の通り農作物を栽培することを生業とする生産系職業である。


「えぇ。ナギさんが仰っていたように『自分たちだけで生き延びる術を身に付ける』——そう思った時に、僕は『何かを育てたい』って」


「育てたい——ですか。とても素敵ですね。私に……その発想はありませんでした」


 会社を経営しているときも、会社を成長させるため。社会貢献するために必要な人員としてしか社員は見てこなかった。

 お互い雇用者と労働者。

 あくまで、仕事をする上でWIN・WINな関係。

 そう思うことで割り切ってきたが、振り返ってみると、ご都合主義による大義名分だったのでは?


(——いえ、これ以上はよしましょう。『思考実験はどこまでいっても実験』ですか……本当に凪沙は鋭いですね)


 以前凪沙に言ってもらえた一言が、蘇ってくる。



「大事なのはこれから、だもんな」


「何か言いましたか、アキトさん?」


「いえ、何も……。それよりも、サンドレスさんはいいのですか?」


「……はい。彼女とあれから何度も話し合い決めたことですから。もうあの環境に戻るつもりはありません」


「そうですか。では、あとは彼女たち次第、というわけですね」


「えぇ、そのとォォォアアアアアー!!」「サンドレー、ついにやったよーー!!」


 話している途中に、猛ダッシュでサンドレスさんに迫ったカーミアさん。

 真正面から突撃された彼は、突進してきた彼女もろとも後方に吹き飛んでいった。


「……」


(この一直線な行動、どこかの誰かさんにそっくりですね)


 そう思い、カーミアさんが突進してきた方を見てみると、その誰かさんがゆっくりと歩いてきていた。


「君のお眼鏡に適ったのですね?」


「まぁ、ね。これから忙しくなるわよ、暁斗」


「ですね。あなたが二人に増えたとなると、私の手に余る気がしますが」


「手に余る……はっ!? そ、それってどういう意味なの、暁斗?」


 凪沙は思い当たる節があったのか、問い詰めてくる。


「おや? ちゃんと自覚はあるようですね」


「もうっ!」


 からかわれたことに気づいた彼女は頬を膨らませて怒っているが、微笑を浮かべているので全然怖くない。



「さて、それでは新しい居場所に彼らを案内しましょうか」


「ええ、そうしましょう!」




 私と私のパートナーである凪沙。

 そこに、さらにメンバーが加わる。


 吹き飛ばされてノックダウンしているサンドレスさん。

 その彼に対して、お構いなしに嬉しさ全開で喋りまくっているカーミアさん。


 彼らも含めた新しい生活が、これからスタートする。



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