第42話 海斗、そろそろ殺してもいいよな
まずい。このままだと今の俺は死んじまうぞ。
そして金色の拳銃のトリガーが引かれる直前、背後から大勢の気配を感じた。
「
「
振り向くと、そこには革ジャンを着た海斗さんと百人近い
海斗さんはあらかじめ用意していたかのように言った。
「そんな兵器を作って俺より優勢でいるつもりでいたかもしれんが、結局お前は舎弟なんだよ。最後には皆、俺についてくる」
「お、お前ら……」
そう言って機村さんが睨んだ先には朝、倉庫で見た下っ端たちが。
まぁ下っ端なんて結局、奴隷と一緒だから上の者に従うだけだ。
相手は十人、こちらはそれ以外の曇神組勢揃い。数の差は圧倒的だ。……でもマジでどうやってそんだけの人数で細い裏道を通って来たんだよ。
海斗さんが俺の隣へ歩いてきた。
「
「え、俺はまだ……」
「倉庫の件だけで十分だ。あれはお前じゃなきゃ出来なかった」
イイ声で爽やかに言われたが、いくら海斗さんがそう言ってくれたとしても交わした取り引きのノルマはまだ達成できていない。
こんな形で瀬渡を助けてもらっちゃ、嬉しいことではあるが俺が個人的に納得できない。
寛大な海斗さんに肩身が狭くなりつつ、俺は機村さん達の
「でも俺が機村さんたちの侮蔑兵器を破壊できていない以上、今戦うのは少々危険かと……」
「なんでだ?」
「数は少ないとはいえ、機村さんたちが侮蔑兵器を持っていることには変わりないので……」
「だがこっちには、お前と言う怪物がいるだろっ!」
俺が渋っていると、海斗さんはニッと笑いながらサムズアップしてきた。今は俺、怪物じゃないんだけどな……
まぁ後ろに大量の曇神組がいる時点で、俺が何と言おうとこの人は戦うつもりだろう。
「分かりました。……海斗さんが、それでいいのなら!」
「おう! ……で、この光ってる嬢ちゃん何者?」
海斗さんは花火を見て怪訝そうに聞きてきた。そりゃ気になりますよね……でも、俺も花火本人については何も知らないよなぁ……。
「えっと、実は俺もよく分からないんですけど、とにかく味方です!」
「あ、そう……」
その後も海斗さんは、「何これどうなってんのマジすごくね」とか言いながら花火を観察していた。それに対し花火は、居心地悪そうにしかめっ面をしている。
そして花火の視線が俺と合うと、ちょっと睨んできた。
「ほら、探偵さん! 戦うんでしょっ!」
「あ、ああ」
「じゃあいきまーすっ!」
そう明るく花火は言うと、俺に両手を向けてきた。すると、花火を包む輝きがどんどん無くなっていく。俺に能力を移しているのだろう。
「これで完了です!」
花火が自信げな表情を見せた。現在の花火は、元の花火に戻っている。おそらくこれでまたおかしな体質が俺の元へ戻ってきたのだろう。だけど、あまり実感はない。
これ、ちゃんと戻ってきてないと俺死んじゃうよね……
やっぱり不安だったので、さっきから俺たちの様子を「何これほんとどうなってんのもしかして魔法少女的な何かなの?」と言いながらじっと見てきている海斗さんに少し協力してもらうことにした。
「すいません。俺を殴ってみてもらえませんか?」
「は……?」
俺がドMにでも目覚めたのかと思っているのだろうか、海斗さんはちょっと引き気味に俺を見てくる。
しかし、方法はこれしかないのだ。
「お願いしますー! 一回だけ!」
「……分かったよ」
「ありがとうございますっ!」
すると海斗さんは結構ガチで俺を殴ってきた。そしてその拳が腹部に当たる。その瞬間、ちゃんと俺の腹だけは空気になった。
良かった、これで安心して戦える。
そんな生命保険に入った後のようなことを思っていると、花火が俺の背中を突いてきた。顔を見ると、むっと頬を膨らませて唸っている。
「なんで私を信じなかったんですかぁ〜! 『完了です』って言ったじゃないですかー!」
「あ、すまん……」
すると、海斗さんも呆れ口調で話し出した。
「そうだぞ憩野。詳しいことは分からんが、嬢ちゃんさっき『完了』って言ってたじゃないか」
「え、まぁそうですけど……はい」
そうか、海斗さんは花火を信じなかった俺に引いてたのか。なんて男らしくてカッコいいんだ! でも少しくらい確認したっていいじゃないですか……
花火は髪を払いながら人ごとのように呟いた。
「……確認できたなら、さっさと戦いに行けばいいじゃないですかー」
「ああ、そうだな。ごめん」
そんな、わざとらしく怒る花火を見て俺は心底安心した。もう二度と、あんな目には遭わせない……っと言っても、もう花火が俺といる理由なんてなくなったんだったな。
花火の依頼は「お兄さんを止めること」。もう先程解決したからな。
でも何故だろう。花火はただの依頼人でしかないのに、なんだか別れるのが寂しい気がするな……。
もうその答えは大体出ているのだが、俺はふとそんなことを思った。本当、長いのか短いのか分からない三日間だったな……
俺が入り交じる感情に浸っていると、もはやそこにいることすら完全忘れていた機村さんが口を開いた。
「海斗、そろそろ殺してもいいよな。お前も含め、ここにいる全員を……」
「あまり自惚れない方がいいぞ」
海斗さんはグワッと機村さんを見据えた。それに一瞬機村さんは怯むが、すぐに余裕ぶった表情を見せる。
「おい、海斗! これが何か分かって言っているんだろうな? ザコが何人いようと、俺が長年かけて作った
そうだ。侮蔑兵器が原因で海斗さんは機村さんにぶつかりに行けてなかったのだから。
でもそれは、侮蔑兵器が大量に存在していたから。
追い詰められ、焦りに満ちた人間は自身の敗北を分かっていながらも立ち向かおうとする時がある。
そしてその場合、無理矢理自身の所持している力を過信する。
もしかしたら勝てるかも、と自分に言い聞かせるのだ。そしてそれはただのやけっぱちに他ならない。
だから、海斗さんの表情は変わらない。
「全く、自惚れるなと言っているだろう。今ここにある侮蔑兵器はたかが十個。それで百人近くいる俺たちに勝てるとでも思っているのか」
その言葉を聞いても機村さんは諦める様子を見せなかった。
何を言っても無駄だと判断したのか、海斗さんはため息を吐く。そして、後ろにいる曇神組全員に向かって一言。
「機村以外を殺れ」
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