第37話 さらば、侮蔑兵器だった物たちよ……
しかし下っ端とは言えこんだけの人数が俺を知らないということは、機村さんたちは俺と海斗さんが取り引きをしたことを知らないのだろう。じゃあなんでこんなにフル装備なんだよ……。
これって海斗さんたちが相手の前提でやってるんだろ? 普通の人間相手にここまでやる必要はないと思うが。
まぁ、俺が今からやることは変わらない。そして、俺が何をしようとこいつらのやることも変わらない。
なら、最初から頼んでも変わらないはずだ。
「そのおもちゃを俺に渡せば、命だけは助けてやる」
言うと次の瞬間、全方向から
でも変わらなくても、効果はある。俺はそれを直立したままただ待つ。
この光景を上から見るとどう見えるのだろう。逆に俺から何かすごいものがあらゆる方向に発射されているように見えるのだろうか。ほんとどうでもいいけど。
そういえば瀬渡には冷蔵庫を漁っとけと言ったが、あの中、賞味期限切れたやつ入ってなかったよな……ちょっと不安になってきた。あ、でも瀬渡ならどんなもん食っても死ななそうだから杞憂か。
……そんなことを考えていると、ぼちぼち侮蔑兵器を床に置いて腰を抜かしたり土下座したりする奴が出てきた。
効果が出てきたな。人は未知の化け物に遭遇すると自信の命を守ろうとする。そして現在、こいつらが自信の命を守るためにできる手段は一つ。
俺がさっき言った、「そのおもちゃを俺に渡すこと」だ。
ついに数十人全員が侮蔑兵器を置いた。逃げ出そうと床を這いずる奴、土下座する奴、放心状態になっている奴、動揺の仕方様々だが。
でも予想通り、一人も諦めず立ち向かってくる奴はいなかった。なぜならそんな奴は下っ端止まりになっていないからだ。
その証拠に、海斗さんが最初に俺の能力を見た時はすごかった。まるでマジックを見てるかのように、ケラケラ大笑いしてたもん。イイ声で。
皆が戦慄しながらこちらに注目している中、俺はネットを引きずりながら動き出す。俺が動く度にどこからか悲鳴が聞こえてくる。全く、人気者は辛いぜ。
そして侮蔑兵器の回収のために、一人一人を周ってポイポイとネットに入れていく。
ゴミ袋を一個、また一個、と収集車に入れていく作業員の大変さを今、実感した。作業員の皆さん、毎日、ありがとうございます。分別はやっぱりきちんとしないとだね。
半分くらい収集、間違えた、回収したところで、ふと後ろから物音がした。
見ると一人の下っ端の若い女が、涙を堪え、手を震わせながら俺に侮蔑兵器を向けてきていた。数十人もいるからもしかしたら先程は見落としていたのかもしれない。
彼女は精一杯声を出す。
「……死ねっ……化け物……!」
その表情からは、俺に対する強い殺意が感じられた。それは、とても下っ端のする表情には見えなかった。
「うん、お前、将来が楽しみだ」
俺はそう言って、彼女の持っている
まぁ、全部俺には当たらないが。そして彼女に、他の奴らは奇怪な視線を向けている。本当はこの女は、尊敬の眼差しを向けられるべきなんだけどな。
それからやめずにずっと続けてくるものだから、何だか健気で可哀想に思えてきた……。
俺は彼女の手をグッと掴む。
「お前ならいつか俺を倒せるかもな。だが、今は諦めた方がいいと思うぞ」
「……お前、一体何者だ!?」
彼女は、俺を見上げながら言ってきた。
俺はどうせこんな答えは求められていないと知りながら、適当に返す。
「見ての通り、探偵だよ」
「……そんなの、分かってるし!」
口を尖らせた彼女は、諦めたのか長い金髪を靡かせながら俺に背中を向けると「近いうちにぶっ殺してやる……!」と呟きながらどこかへ歩いて行った。
お前ならできるよ。俺はそんなことを心で思うと、侮蔑兵器の回収を再開する。
本当にあいつは下っ端に収まる器じゃない。おそらくまだこの組に入って間もないのだろう。次会う時はどこまで昇格しているかな? 楽しみだ。
そしてついに、全ての侮蔑兵器の回収が終わった。ネットくそ重い……。
俺は全員に言い放つ。
「約束通り好きにしていいぞー! ほら、さっさと散った散った〜!」
逆説的に「お前ら邪魔だからどっか行け」と伝えると、皆素直にどこかへ散って行った。
俺は、さっきの奴らがフル装備でやけに本気だったのと、もう物音一つ聞こえないことから嫌な予感を感じつつさらに奥へ進む。
倉庫の中は、進めば進むほどガラクタだらけのスペースから荒れ果てた住居のような場所に変わっていく。なんでこんなところに住みたいのだろうか。俺には理解ができない。
気がつくと、もう倉庫の奥まで来ていた。
――逃げられたか、か。
ここまで来てが結局、誰もいなかった。どうやら機村さんとその幹部には逃げられたようだ。薄々感じていた嫌な予感はやはり的中してしまった。
でもなぜ機村さんは下っ端に侮蔑兵器を使わせてまで侵入者を追い出そうとしていたのだろうか。まぁ彼が想定していた侵入者というのは、下っ端たちが誰も俺を知らなかったことから、俺ではなくて海斗さんたちのことだろうけど。
とにかく、集めた
俺は炎を出す侮蔑兵器を四つ手に持ち、それを大量の侮蔑兵器が入っているネットに放射して鉄屑の制作を開始した。はんだを使った時のような匂いが漂ってくる。
開始して三十分して、ついに数十個の侮蔑兵器が鉄屑の山と化した。やったね!
じゃあこの四つはどうしようか。
仕方ない。地面に突きつけまくって壊すか。
それからと言うもの、俺はただひたすらに四つの侮蔑兵器を痛めつけまくった。
開始して一時間くらいだろうか。ようやくさっきまで侮蔑兵器だった物四つがバッキバキに折れてあたり一面に転がった。あー、四つ壊すのにさっきの倍かかっちゃったよ。意外と頑丈だったな……。
そして俺はこれで、本当にやることがなくなってしまった。
機村さんがどこへ行ったかなんて分かるわけがない。現在十二時。事務所に戻って今夜の対亜井川の作戦でも考えるとするか。
俺は鞄から鹿撃ち帽を取り出して被ると、踵を返して倉庫の出口へ向かう。
さらば、侮蔑兵器だった物たちよ……
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