第36話 つまり、全部問題ない。

 すると、真ん中に立っていた奴が近づいてきた。


「お前、海斗さん側か? それとも部外者か?」


 そうか。いつか海斗さんたちがここにやってくることは上から聞かされているってわけか。


 俺はなんだろう……友達一覧に海斗さんいるし、これでいいか。

 キラッと横ピースしながら宣言する。


「俺は海斗さんのお友達だよっ!」

「嘘だな。お前、どう見ても探偵だろ」

「分かってんなら聞くなよぉぉっー!」


 急に俺は怒鳴りつけてやった。なんか結構頭にきたんですけどー!


 俺は鹿撃ち帽を手提げ鞄に入れると、右手を前に上げ、クイクイッと「どうぞかかってきなさい」ジェスチャーをする。


 ジェスチャーの意味を理解できる博識な彼らは、俺に向かって侮蔑兵器ディスパイズウェポンを向けて、水やら炎やらよくわからんビームやらを出してきた。


 水は服が濡れるから正直風邪をひきそうだが、別にそれくらい問題ない。


 炎は防炎スプレーのおかげでバッチリ問題ない。亜井川の居酒屋に行く時はコートにしか吹いて無かったが、今回はズボンにも靴にも吹いてきた。防炎スプレーまじ最強。


 よくわからないビームは服に影響が無いことから、瀬渡がいたあの部屋への一本道でも放射されていたであろう、人体にのみ悪影響がある物質だろう。もちろん問題ない。


 つまり、全部問題ない。ちなみに今持っている手提げ鞄も問題ない。今日は表面がプラ製の別の鞄なのだ。そこにもちろん防炎スプレーも吹いてきている。まじ最強鞄だ。


 するとすぐに彼らは、俺に全く効果がないことを悟ったのか、それとも俺の顔や手が透明人間のようになることに驚いたのか、侮蔑兵器を降ろして化け物を見るような慄然とした表情を向けてきた。

 

 そう、それが正しい。俺とお前らは違う。全部、違うんだ。俺は彼らの俺を見る表情を、九年前にも塾で火事の後に見た気がするが……気のせいだろう。


 その後たった一歩、俺が前に進むと彼らは瞬時に後退りした。俺、さっきからほぼ立ってるだけなんだけどなぁ……、なんで恐れられてんのかなぁ……。


 俺が侮蔑兵器を回収する方法はこれだ。その名も「ただネットに入れるだけという方法」〜!


 手提げ鞄の中には、大きなネットを入れてきている。そのネットに、回収した侮蔑兵器を全て入れて後でスクラップにでもしてやろうという作戦だ。どうやって回収するかって? こうするのさ。


 俺は三人を睨め付ける。


「そのおもちゃを俺に渡せば、命だけは助けてやる」


 すると彼らは全員、無言ですぐさま侮蔑兵器を渡してきた。ちょっとー、機村さーん! あなたの侮蔑兵器ディスパイズウェポン、こいつらには「おもちゃ」って思われてるみたいですよー!


 まぁとにかく、侮蔑兵器、三つゲットだぜ! 鞄からネットを取り出し、ポイっと放り投げる。


 用のない彼らには去ってもらおう。


「後は好きにしなー。さぁ、どいたどいたー」


 俺の棒読み台詞に三人ともどこかに散っていった。これでやっと中に入れる。


 中に入ると、下っ端たちが寝転んでたり土管に座ってたりと、まったりくつろいでいた。

 俺は侮蔑兵器を三つ入れたネットを引きずりながら進む。


 すると、俺に気づいた下っ端共がどんどん集まってきた。最初は中に入ってのはさっき俺があしらった番の男たちの誰かだと思ったのだろう。すまん、入ってきたのはこの俺だ。


 残念ながらまだ、機村さんの姿は見えない。俺をぐるっと囲む数十人の下っ端達が邪魔で見えないのだ。そして皆、侮蔑兵器を持っている。やけに本気じゃないか。


 一つ気になるのは、同じく下っ端のはずの瀬渡が侮蔑兵器について詳しく知らなかった上、あの部屋で殺した三人の男たちも侮蔑兵器ではなく拳銃を持っていたということである。

 

 下っ端たちはみんな、今日この侮蔑兵器を与えられたのだろうか。だとしたら、何か良くないことが今日行われるということだ……


 まぁそんなことよりまずは侮蔑兵器ディスパイズウェポンの回収である。


 俺は小学校で習った通り、ちゃんとみんなに聴こえるように大きな声で聞く。


「俺が誰だか分かる人〜!」


 声が倉庫に響く。しかし、周りから聞こえてくるのはこんな声ばかり。


「え、誰あいつ?」

「お前知ってる?」

「いや、俺も知らん」


 ……どう聞いても高校で影薄い奴がコンクールで賞取って全校集会で表彰された時の他の生徒たちのざわめきにしか聞こえねぇよ。嫌なこと思い出させんな!


 

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