第27話 探偵さん、あの女誰ですか?
すると花火は今食べているオムライスをすぐに食い終え、満足そうな表情を見せた。
「いいですよ〜。こんなにいっぱい美味しいもの食べさせてもらったんで!」
「そうか、それは良かった……」
そして俺はまだ残っている一品、ナポリタンを食べることにした。
食器棚からフォークを取ってきて「いただきます」と手を合わせる。いや〜本日初めてのちゃんとした食事だぁ! 嬉しいぜ!
そんな喜びと共に俺が食べ始めた瞬間、それは起きた。
「憩野!」
「探偵、さん……」
二方向から聞こえてくる俺を呼ぶ声。
俺が口に入ったナポリタンを味わいながら顔を上げると、キッチンにはこめかみを抑えている瀬渡、目の前には顔を真っ赤にしている花火が。
「どうした?」
瀬渡は俺の食べているものを指差す。
「それ、さっき花火ちゃんが食べかけてた……」
「……ああ、そう」
やっぱり女子高生は俺みたいなどうでもいい男と間接キスしたことを気にするのだろうか。と言ってもまぁ、俺が一方的にしてるだけだけど。
さっきからぼけっーっとしている花火に声を掛ける。
「これ、食っちゃまずかったか?」
花火は、はっと我に帰ると視線を俺の顔じゃなくて俺の持っている食器に移した。
「……どうぞ、食べてください」
気にしてたのそっちかよ……
「そんなにこれ食いたかったのか?」
「いえ、そう言うわけでは。なのでお気になさらず、どうぞ召し上がってください」
そう無機質に言われたが、食べていいと言うことなら遠慮なく食べさせて頂こう。正直そろそろ何か身体に入れないとまずい。
作業を止めてこちらを見ていた瀬渡はまた、食器洗いを始めた。
どうやら相当瀬渡は料理が上手いらしい。食器の洗い方も手慣れているし、何よりこのナポリタンが美味すぎる。
上品な濃いめの味に細い麺。どんどん手が進む。マジでどうやって作ってんのこれ!? 女子力と関係してるかは全く分からないけど、本当にすごいな……。
もう半分以上食べてしまった。全然味に飽きてこないしむしろもっと食べたくなってしまう。
そんな感じに今日初めてのちゃんとした食事をとっている俺だが、実はさっきから異様な緊張感に襲われている。
「花火、さっきからなんでガン見してんの?」
「いえ、だから気にしないでください」
「気になるわ!」
花火がずっと、ナポリタンが俺の口の中へ運ばれていく様子を獲物を狙う動物のような目で見つめてきているのだ。
そんなに食いたかったなら言えよ……。
「ごちそうさまでした」
食べ終わると、俺は花火と一緒に大量の食器を積んでからキッチンへ持っていく。
「瀬渡、食器洗い任せていいのか?」
「ああ、これはウチがやりたくてやってることだから気にしなくていいわよ」
「……そうか。美味かったぞ」
「なら良かったわ」
そう食器を見つめながら答える瀬渡を横目に、テーブルへ戻る。
花火も食器だけ渡すと、すてすてと俺の正面に座った。そして、突然瀬渡の方を睨んだ。
「探偵さん、あの女誰ですか?」
「……今まで知らない女の料理食ってたのかよ!」
「だって、ここに来たら美味しそうなものいっぱいあったので……」
両手の人差し指をつんつんさせている花火。要するに全ての感情が食欲に負けたんだな。
「俺の高校の同級生だよ」
「ふ〜ん、そうですか……」
花火は改めて瀬渡を眺め始めた。そしてその後、視線を自分の胸にやるとニヤっと笑った。
うん。そこは圧倒的にお前が勝ってるから安心しな……まぁ、俺はお前でも敵わない相手にさっき会ったけど。
それはそうと、花火には一応瀬渡について多少は教えておくことにする。
「……ちょっと訳ありだけどな」
「訳ありって!?」
花火はガタッと音を立てて椅子から立ち上がると、不安に満ちた顔を前のめり姿勢で俺に近づけてきた。
「最初に言っとくが、花火が期待するようなことではないぞ」
「はい……」
ごくっと唾を飲む花火。あのな、多分恋愛の話とかを想像してるのかもしれんがこれはそういうんじゃなくて……
俺は近づいてきている花火の耳元で囁く。
「あいつ今も半分くらい、極道の人間なんだよ」
すると花火は急に姿勢を戻し、分かりやすい作り笑いを浮かべる。
「……あっそうだったんですか! あ〜それは知らなかった! ま、まぁそういう方もいらっしゃいますよね……」
その笑顔からはダラダラと汗が漏れてきている。どんだけ焦ってんだよ。まずまずお前はさっきからその人の作った飯を平げまくっていたんだぞ。
「で、ではなんでそんなお方がここに……」
「もう裏の社会はやめることにしたんだよ」
「じゃあここにいるのはたまたまってことですか?」
花火は何故かものすごい圧を込めて言った。
確かに今瀬渡がここにいるのは「たまたま」だけど、今後はそうじゃなくなるよな……
「いや、瀬渡は当分ここに住むことになった」
「……は、い?」
花火は怖すぎる笑顔で首をきょとんと傾げた。なぜか片手に血の付いた包丁を持っているように見えるぞ!
「いや、ちょっと事情があってだな……」
「事情とかどうでもいいんですー。それより住むって、住むってどう言うことですかー?」
なんでお前にそんなに睨まれなきゃいけないんだよ! あれ、なんか花火、本当に包丁持ってない!? どこからともなく嫌な物音とかしてきたし……俺は死ぬのか!? デッドエンドなのか……
――あ、いいこと思いついた。
死の間際(妄想)で最高のアイデアを思いついた俺はまず、本日手に入れた「変な物」カタログを花火に見せる。
「なんですかぁー、これ? あの女の写真集ですかー?」
「違うわ! この中から花火が家で見た『変な物』はどれか教えてくれ!」
「なんで、私がそんなことしなくちゃなんないんですかー?」
花火がつんと口を尖らす。
全く持ってやってくれそうにないので俺は、「決して嘘ではないこと」を小声で呟いてみる。
「……見つけるのが早ければ早いほど、瀬渡はさっさとここを出ていくぞ」
――その時、不思議なことが起こった!
俺の言葉を聞いた瞬間、花火は突然ぱーっと笑顔になり、俺の目から見えていた包丁は消えてなくなったのだ!
「じゃあ探偵さん、それ貸してくださいっ!」
天使のような声で花火はそう言うと、手を伸ばしてきた。なので俺は素直に「変な物」カタログを渡す。その後は一瞬だった。
彼女は目にも止まらぬ速さでページをめくり、それでいてしっかりと一箇所ずつ小刻みに目を動かして確認していく。
「見つけました絶対これです〜!」
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