第12話 むしろ後者だったらどうしようかと思った

 だんだん足音が大きくなって来る。そしてついに、ライトを点けたスマホを持つ一人の男子生徒が現れ、俺の横にやって来た。


 彼が口を開く。俺は佐藤君に変身だ!


「誰ですか?」

「俺は佐藤。鳥に興味があるんだ」

「そうなんですか……」

「君の名前は?」

「……二年の、平井です」


 うわぁ、めっちゃ警戒されてるよ……。でもまず、平井健太に出会うことはできたか。見た目は至って標準的な、普通の男子高校生。彼のスマホのライトのおかげで踊り場が幾分か明るくなっており、特に本人の姿はよく見える。


 さて、佐藤君の秀逸な演技を披露してやろう。佐藤君はアマゾン川流域くらい自然に聞く。


「ところで平井君はどうしてここに?」

「それは……、その鳥の巣には何匹も雛がいるんです。どうしてもそれを見ていたくて……」


 どうしてもそれを見ていたいだとぉ? 何が君をそこまでさせるんでしょうか?


「なんで見ていたいんだい?」

「えっ? それは……可愛いから?」


 彼は床を眺めながら疑問形で答えた。 分かった。嘘なんだな。


 俺は今まで解決してきた生き物関連の依頼の経験から、ある質問をすることにした。

 ……て言っても今まで俺がやってきた生き物関連の依頼って、ほとんどがヤクザさんたちの犬様や猫様に関しての依頼なんだけどな。

 

 まぁとにかく、この質問で解決にグッと近づくのだ。


「――ペットとか、飼っていたことってあるの?」


 瞬間、平井健太がビクッと反応した。なるほど、平井健太をこんなにも鳥の巣に執着させているのは「彼が過去に殺してしまったペット」だ。もしくはペットに相当するなんらかの生き物。


 もし彼が何も反応しなかったら、執着の理由は「死んでしまった・殺してしまった大切な人を想って」だ。簡単に言うと、今は亡き誰かさんのことを想って、か弱い生き物を眺める、といった感じ。

もうお分かりの通り、ヤクザさんたちは大体後者の反応をする。

 やだなー、怖いなー。


 でも良かった。平井健太は前者で。いや、むしろ後者だったらどうしようかと思ってたけど……。


 そんなことを考えていると、突然平井健太が俺に顔を向けてきた。


「あいつらが来た……! 佐藤君は逃げてください!」

「あいつら?」

「鳥の雛たちを殺そうとする奴らです!」


 随分と慌ててるようだ。でも、平井健太は勘違いをしている。もしかしたら、自分に言い聞かせているだけなのかもしれないが。


 平井健太は、自分が鳥の雛たちを悪い奴らから守っていると考えている。

 でも実際は違う。


 平井健太がいるから、鳥の雛を襲うと言って言うことを聞かせようとする悪い奴らが現れるのだ。


「ああっ! 来ちゃった……」

「おお?」


 振り向くと、制服を着崩したイカつい男子生徒が二人立っていた。どう考えても、こいつらが平井健太を奴隷のように扱っているやつらだろう。


「おい奴隷犬他くんよ〜? ちゃんと昨日言ったやつ持って来てくれたよね? ん、隣のやつ誰?」


 背の高い方のやつが口を開いた。これから背高君と呼ぼう。俺は「佐藤です」と一言。すると、あっそーっみたいな表情をされた。俺に興味を持たないでくれてありがとう。


 平井健太は、ささっと鞄から何かを取り出して背高君に渡した。


「はい、これです!」

「ああ、これこれ。サッンキュ〜よ!」


 何かと思って見てみると、それはスマホケースだった。お前、それが欲しかったのか……? まぁ高いやつは結構するらしいけども。


 そんで平井健太はと言うと、なんだか達成感に満ちてるような表情をしている。これで鳥の雛たちを守った気になってんのか? マジで殺されたペットがこの光景を目にしたら、さぞ悲しむだろうな。


 次に、背の低い方、名付けて背低君が嘲笑するかのように話し始めた。


「で、俺のは? まさか無いなんてことねぇよなぁ?」

「え、えっと、それは……」


 平井健太は慌て出した。どうせ背低君は「背高君が頼んだってことは俺の分も頼んだってことだろ?」とか言ってくるんじゃないのか? てか、お前もそれ欲しいのかよ……。


 すると次の瞬間、背低君がニヤッと不敵な笑みを浮かべた。


「あ〜、ここにあるのはサンドバッグですかぁ〜!?」


 背低君の腕が動く。

 ――まったくしょうがねぇ!


「うわぁ!」


 俺は平井健太の腕を引っ張り、俺の背後に移動させた。不良二人は俺を睨んでくる。


「おい、佐藤とか言うやつ、何のつもりだ?」

「奴隷犬他のお友達だったのかぁ?」


 背高君、背低君、俺は奴隷犬他を守ったんじゃない。依頼人の息子さん、「平井健太」を守ったんだよ。


 それにしても、平井健太はこんな風に毎日殴られているのか……。

 やべぇな。やべぇほどくだらねぇ。お前ら三人共が。


 前にいる不良二人はもちろんのこと、自分の罪悪感を払うために自ら殴られに行ってる平井健太もそこはかとなく、くだらない。


 背低君が腕をブンブン振りまわし始め、背高君もそれに続く。


「サンドバッグは二つでもいんだぜぇ!」

「ストレス発散だ!」


 まぁ俺は当たらないし、平井健太はサンドバックになりたいみたいだからこのままでもいいけどさ、依頼だからなぁ……。仕方がない。


「おい幼稚な不良二人組。まずは俺を倒してから平井君を殴れ」

「ああ!? 面白いじゃんよぉ! いいぜぇ、まずお前から殺してやんよ!」

「行くぜ!」


 二人ともやる気満々だな。ガキの喧嘩は安全で素晴らしい! 実に楽しそうだ。……そうか、「ガキ」とはこういう連中に対して使うべき言葉だな。以後気をつけよう。


 そして不良二人の拳が俺の腹に向かってきた。とその時、予期せぬことが。下の階から、花火が声を出したのだ。


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