第13話:愛憎


「嘘だ……僕の両親は人間だ」


 クオーツがパスーラの言葉を否定する


「じゃあ君の両親が人間だと……誰からそれを聞いた? レジス孤児院の院長のロフマノからか?」

「なんで院長の名を」

「君をあそこに預けたのが……僕だからさ」


 それからパスーラが語った内容はクオーツには到底信じられない物だった。


「僕が……君の両親を殺した。理由は説明するまでもないだろう。あいつらは……僕を裏切ったからだ」

「……なぜ僕を……孤児院に」


 クオーツには理解できなかった。もし、彼の言うことが本当なら矛盾している。


 両親が憎いのなら……当然、自分も憎いはずだ。


「……君が……リエラに似ていたからだよ。だから僕は君を生かす道を選んだ。僕のリエラに対する憎しみは彼女を斬り殺した時点で消えていた」

「なんだよそれ……訳分かんないよ……じゃあ僕が【輝けるロータス】に入ったのは……」

「それはたまたまさ。だから驚いた。そして同時に……僕の中でいろんな感情が沸き起こった。君はリエラ……君の母親の面影を残しながらも、師匠の影が色濃くなっていた。だから……君を水晶鉱山に売るように指示したのさ。勿論ラルスもリンツ一家も偶然だと思っているだろうけどね」

「なんで……」

「君が愛しかった。君が憎かった。君に竜人の血が流れているのを知っている僕にとって、君を水晶鉱山に送ることは一種の賭けだった。あの悪環境で生き抜けば……君は誰よりも強くなると分かっていた。死ねばそれまで。生きていれば……改めてこの手で殺そうと」


 分からない。この死にかけの剣士の言っていることは何一つ理解できない。クオーツは混乱しながら、どう気持ちに整理をつけたら良いか分からなかった。


「だからこうして追い掛けてきたのさ。まさか負けるとは思わなかった」

「でも……貴方は本気を出していなかった。どこか……僕の力を引き出そうとしていた」

「そうかな? 気のせいだよ……きっと……さて……話は終わりだ」

「え?」


 パス―ラがそう言ったと同時に、その空間に複数の人物が飛び込んできた。


「大丈夫ですか!? ってパスーラさん!?」


 それは、クオーツに間違った試験内容を教えた受付嬢だった。今は制服ではなく、鎧に剣と、まるで剣士のような格好をしている。背後には、冒険者パーティが控えていた。


「どういう状況ですか!?」

「えっと」

 

 クオーツがどう答えようか迷っていると、パスーラが口を開いた。


「見ての通りさ。この生意気なガキを殺そうとしたら……返り討ちにあった。騎士失格だな……」

「殺す!? なぜですかパスーラさん!」

「こいつが嫌いだからだよ。そういうわけで……僕は……もう……」


 そのまま、微笑みを浮かべたまま……パスーラは息を引き取った。


 クオーツは何も答えられずに、ただひたすらパスーラの死体を見つめていた。悲しみも憎しみもあって……どうそれを表現したら良いか分からなかった。


 こうして、結局頂上では何も得られなかったカーネリア達と合流し――クオーツ達は王都へと戻ったのだった。



☆☆☆


 翌日。


 王都、冒険者ギルド本部内――冒険者専用酒場〝交差する刃〟


「あたしらが必死に頂上で黒焦げの植物を探している間にそんなことがあったなんてね~」

「……うん」

「複雑ですよね」


 クオーツ達三人がテーブルを囲み、食事をしていた。カーネリアとルーナはワインを、クオーツはビールを飲んでいた。


「でも、おかげで納得した。明らかに、あんたがあの鉱山に送られたのに恣意的な何かを感じていたもの。あんたに竜の血が流れているなら、納得。その強さも発現した能力が、水晶関係なのもね」

「そうなの?」

「そうよ。それに……。リエラ……リエラね」

「知っているの?」

「いいえ。ただ、どこかで聞いたことある名前なのよね……いえ、聞いたではなく、見た、もしくは読んだ……かしら」

「そっか」

「リンドブルムに戻れば調べられるけど……」


 カーネリアの言葉に、クオーツは微笑むとゆっくりと首を横に振った。その気遣いは嬉しいが、もう両親については正直どうでもいいと思っていた。


「今はいいよ。顔も声も知らない人だ。今さらだよ」

「それもそうね。さ、じゃあ、改めて――冒険者になれたお祝いに乾杯よ!!」

「おお!」


 今日、何度目になるか分からない乾杯がされた。


 クオーツ達はその後、冒険者ギルド本部に戻った際に事情を根掘り葉掘り聞かれ、全て正直に答えた。そして駆け付けた受付嬢の証言もあり、全て真実として受け入れられた。


 また試験内容を間違って伝えれたことのお詫びとして、特別にクオーツ達は冒険者登録してもらったのだ。


「あーあ。ついでにランクもちょっと上げてもらえば良かったわ~。だってあれゴブリンじゃなかったんだもん」

「あはは……そうだね」


 なんて話していると、酔った冒険者達がやってきた。


「お、【クリスタライズ】ってパーティがお前らだな!? あのオーガキングを倒したんだってな! すげえな!」

「今やお前らは期待の新人として、王都中の噂になっているぜ? 最強のFランクパーティ現るってな!」

「ちょっと話を聞かせてくれ! ついで情報交換といこうじゃないか」


 クオーツとカーネリア達が目を合わせると頷き合った。


「歓迎します。色々と教えてください」

「良い心構えだ! 良いか、冒険者ってのはな……」


 その後、酒場全部を巻き込んで、クオーツ達のパーティ――カーネリアによって〝水晶〟という意味が込められた名――【クリスタライズ】の歓迎パーティが行われた。


 こうして、クオーツ達の冒険者生活がはじまったのだった。

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水晶騎士は静かに貫く ~Aランク冒険者に騙され過酷な鉱山に追放された少年、触れたあらゆる物を貫き砕く〝黒水晶〟の力を得て最強に。今さら仲間になれと言われても竜国の姫に騎士として見初められたので嫌です~ 虎戸リア @kcmoon1125

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