5ー43

「だから、私にとっての初体験は、なんだかハタチまでずっと、重荷みたいに持ってた 処女を終わらせてもらった日ってゆうか、卒業させてもらった日って感じなんですけど。

忘れられないけど、いい思い出として忘れられないってわけじゃなくて、でも、それってレイプだって言われましたけど、無理やり犯されたってゆうようなイヤな感じもあんまりなくて。

紘汰のことは、好きとか嫌いとかって異性として見てなかったので、そうゆう風に関係をもっても、その後も、どうもならなかったし」

「三崎さん、ちょっとイレギュラー過ぎて、なんて言ったらいいのか、なんだけど……」

「あ!そうですよね!やっぱ参考にならないですよね!すみません」

「参考って?」

「えっ?曲作りの為のリサーチですよね?」

「えっ?リサーチ?あはははは!

ただの世間話なんだけど~~!」

「えっ!!」 

三崎さんは、大きく目を開いて、下を向いて両手で顔を隠した。

耳 真っ赤。

「世間話で、初体験の話なんて聞きますか~?

セクハラじゃないですか~~。ほんと、恥ずかしいんですけど~~」

顔を隠したままでそう言った。

「ゴメン、ゴメン。忘れられなかったりするもんかな~って、軽い感じで聞いただけだったんだけどな。あはは」

三崎さんは、今度は、ムッとした表情をして俺の顔を見た。

「ルピアーノの社員としては、ただの衣装部員ですけど、全力でRealをサポートしてるつもりなので、Realの曲作りの参考になるなら!とか思って話しましたけど!

も~!ほんとに恥ずかしいんですけど」

「ゴメン!いや、これ、参考にさせてもらいます!!ほんとマジで!そう言う曲 作るね!!

ありがとう!」



三崎さんに、なんでこんなことを聞いたのだろう。

この人は、なんてゆうのか、持ってる雰囲気が

彼女に似ている。

なんか、一生懸命に話をするところとか。

さっきのムッとして、怒った感じとか。


だから……この人に、

“初体験の相手のことは 忘れられない。

何年たっても”

とかって、言ってもらいたかったのかな。


 三崎さんと一緒に仕事をしたのは、たぶん5年前のルピアーノのライブイベント。

Ray-zarとのジョイントライブの時だと思う。

この時、入社したての新人さんだった。

事前に採寸とかしてもらって、衣装を用意してもらっていた。

当日、実際に着てみたら、大輝のやつだけサイズが合わなくて、結局その日着てきた私服でやることになった。

その衣装を用意したのが三崎さん。

衣装部の上司の人にだいぶ怒られていた。

大輝は

「採寸してもらってから、太っちゃったのかも、なんで、こちらこそ すみません!」

って、気を遣ってかばっていた。

そういうところは、大輝は優しい。

まぁ、誰が見ても、そう言うレベルの話じゃなくて、採寸ミスなのか、発注ミスなのかって感じだったけど。


ルピアーノ所属のミュージシャンは大勢いるけど、歌の仕事の時は、ルピアーノの衣装部が衣装を準備する。

ラジオとか、取材とかはだいたい私服で、雑誌の撮影とかは、雑誌社が用意した物に着替えたりする。

三崎さんは、入社してからずっとRealを担当してくれている。

最近は、採寸とかしなくても、俺らがちょっと太ったとか、ちょっと痩せたとかもわかってくれて、ピッタリなサイズの衣装を用意してくれる。

新曲のイメージに合った衣装を、大輝と瞬と相談して決めていたりする。

そんな時の三崎さんは、楽しそうで活き活きと仕事をしている。

そんな感じが、花屋でバイトをしていた時の、

花が好きで楽しいって様子だった彼女に 少し重なるような気がする。



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