第40話 同じ頃、日本 その2

 病室は物々しい雰囲気に包まれていた。普段見たこともないような機材が搬入され、医者や数名の看護師が祖母の周りを取り囲んでいる。

 何も語ろうとしない父を見て、種も口を噤んでしまう。

 今、何が行われているのかすら種には理解出来ない。

 ベッドの上の祖母は、いつも通り、特に変わった表情も見せず、ただそこに横たわっている。

 これは本当のことなのだろうか? 種は思った。

 何かの間違いではないのか?

 おばあちゃんはただ眠っているだけだ。今までだって、ずっとそうだった。

 時間さえ来ればきっと、——目覚めるはずだ。

 急に、その場に居る人々の声と薬の匂いとに耐えきれなくなって、種は病室を飛び出した。理由も分からず吐き気がした。

 やっぱり、お姉ちゃんに、苗に連絡しなきゃ。

 早く伝えなきゃ。苗もおばあちゃんも可哀想だ。

 時差があることも忘れて種は携帯を手に取り、震える手で苗へのメッセージを打ち始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る