第3話 真実と藍色

 いつも通り。そう、いつも通り。自分に言い聞かせるしか無いこの状況だった。

「ねえ藍、どうして避けちゃうの?俺のこと嫌い?」

「理解不能の宇宙人みたいだとは思ってる。」

「何それ!俺すごい!」

「というか、これ何?」

壁に追い詰められて逃げれないという状況。これが壁ドンというやつなのか。

「壁ドン!かっこいい?惚れちゃった?」

「控えめに言って気持ち悪い。」

ドヤ顔が一瞬で崩れ、へそを曲げた顔になる。とりあえず私は遥斗の足の隙間を上手く通って解放された。今日は部活が本格的に始まる。

 「江原藍です。前の高校は正セッターやってました。サーブはジャンフロとジャンプサーブできます。よろしくお願いします。」

「江原さんね!よろしく。部長の宇野煇うのひかるだよ。あの天才セッターがきたー!」

天才セッター。よく言われる。確かに高校No. 1だけどもうすぐそうじゃなくなるんだから関係なかった。

「江原さん?」

不意に後ろから声をかけられた。顔は知ってるクラスメートだ。ただ、それに以外確か…

「私、羽田優はねだゆう。ウイングスパイカーなんだ。久しぶり。」

「久しぶり、優。高校No. 1スパイカーなったんだね。イメチェンしたでしょ。2日じゃ分かんなかった。」

「あははっ!そうだよね、というか藍は全くって感じだね。」

私のただ1人の友達でライバル、優。彼女にはまだ言ってないなと今思い出した。

 どたたたた!!ガラガラ!

 大きな足音と一緒に女バレが使っている第3体育館の扉が勢いよく開いた。

「おっ!いたいた、藍!!今日一緒に帰ろー!!」

「は?嫌だけど。優と帰りたい。」

「OK!校門で待ってるから!」

「お前、本当に日本語通じてるのか?」

 ガラガラ!ピシャン!!次は勢いよく扉を閉めてどこか行った。本当に遥斗は嵐って感じだ。

「まあ遥斗だしね。帰ってあげたら?ほら、再会にさ。」

再会?やっぱり私と遥斗は会ったことがあるのか。しかも優まで知っている。まあ、いいか。

「優、スパイクとトス合わせたいからちょっと良い?」

「藍は相変わらずだね。」

 着替えて校門へ向かう頃はもう暗くなっていた。9月でも流石に7時は暗い。

「あ!もう藍ったら遅いんだから!」

「え?何で居るの?」

「部活前を覚えてないの?!」

「何かあったっけ?」

とりあえず知らないフリしとこう。めんどくさい。

「話、あるんだ。」

急に遥斗が少し高めのハスキーな声を出した。真剣な時の声だ。何故か知っている。まだ会ったばっかりの相手なのに。

「歩きながらで良い?」

「あ、うん。」

緊張感が走る。きっと昨日の続きというのはすぐ分かった。

「俺はね藍、君を救うためにここに居るんだ。君の過去からも、病気からも。」

「え?」

過去なんてもう分からない。覚えてない。

「ここからは少し長くなる。君は精神的なショックで記憶喪失してしまったんだ。これが今日から5年前の出来事だよ。」

「は、何言って?」

「その時、俺の親が医者だったから、君の主治医だったから俺達は知ってる。」

これは紛れもない事実で真実だ。真っ直ぐな夜の藍色を映した遥斗の瞳が私だけを見て訴えた。

 これは藍と俺の真実だ、と。

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