上には上がいるという話(巻第五「万うへうへの有事」)

 土佐国のある猟師、名は、と云った。

 山中に、特別に様々な獲物が集まるという、よく知られた沼地があり、みの庄右衛門は鉄砲の上手であるので、そこへ行き、獣を撃たんと待ち構えた。


 まず最初は、蚯蚓みみずがやって来て、沼地に入った。

 次に、蟇蛙ひきがえるが来て、先の蚯蚓を食すと、ぴょんと跳躍した。

 その次は、蛇が来て、蟇蛙を丸呑みにした。

 さらにその次には、蛞蝓なめくじが来て、蛇の周囲を二三遍ぐるりと回ったので、蛇は忽ち身を竦めて死んでしまった。


 みの庄右衛門はこれを見て、

「さてもさても不思議なことだ。それぞれにその上があって、平らげていく」

 そう思っていると、大きな猪が来て、蛞蝓を食すと泥浴びを始めた。

「それっ」

 きっと見据えて鉄砲に火をかけ、はや撃たんとしたが、

「待て、しばし、我が心よ。イヤイヤ、このように何物にもその上があって、その下を平らげるのだ。もしあの猪を撃てば、また何者かが現れて、私の命を獲ってしまうに違いない」

 思い澄まして、思案するうち、

「我が名は、。文字こそ変わるが、、だ」

 そう思い至った。

「早くこの場を去ることに勝るものはない」

 引き揚げようとしたその時、

「さても庄右衛門、分別のある者である」

 からからと嗤う声が、どこからともなく耳に響いたので、恐ろしく思い、急いで我が家へと帰った。


 そうであれば、物の報いというものは、この話に限ったことではないので、この道理を知らない人は愚かである。

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現代語訳・曾呂里物語 @tei_kou

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