武田信玄を迎えに来た女(巻第五「信玄せいきよのいはれの事」)
「少し、風邪をひいた気がするな」
甲斐国の信玄はそう云って、医師
信玄と作庵の二人は最奥の間で少し昼寝をしていた。
ト、次の間の障子をさらりと開けて、忍んで入って来た者がある。
白い小袖に打掛姿の、さも優美な女であった。
臥している信玄の枕元に近寄って座ると、物思いにふけっている様子だったが、そのまま何もせずに帰っていった。
半分寝ながら女を見ていた作庵は、目を覚まし、
「きっと奥方が信玄様の御気色のお見舞いに寄越した上臈であろう」
と思っていた。
「作庵よ、今の女をば見たか?」
起きた信玄が作庵に問うた。
「はい。御上臈衆をお見かけしました」
その時、信玄が云うことには、
「あれは既にこの世を去った者だ。至極、不思議なことである。
果たして、信玄はそのまま逝去したと作庵は語った。
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