夢の中で争う女の蛇髪(巻第五「夢あらそひの事」)
都に住む何某と云う男は、本妻を持たず、腰元として召し使っている女二人と関係していた。
女二人のうち、一人は出雲国、もう一人は豊後国の出身であった。
ある時、二人の女は奥の座敷で昼寝をしていた。
二人の間隔は畳半畳ほどであった。
ト、別室にいた男は奥の座敷から女二人のうめく声を聞いた。
不思議に思って、こっそり駆けつけて座敷を覗いてみれば、二人の長い髪が天に向かって逆立ち、毛先の方は互いに乱れ、絡み合っては落ち、あるいは両方に分かれたりと、なかなか凄まじい様は云いようもない。
さらに、二人の女の枕元を見れば、一尺二三寸ほどの小蛇が二匹、お互いに舌をちろちろと出して、喰い合っては後へ退くということを繰り返している。
その間、当の本人たちは殊の外歯ぎしりして、うめいている。
これを見た男は肝魂を消して、呆然とした。
男はその後、何もなかったように平静を装い、外から声をかけて、二人の寝ている奥の座敷へと入った。
枕元の二匹の小蛇はそのまま分かれ、それぞれの女の胸の上に上がったかと思うと消えてしまった。
二人の長い髪は、いつものように美しく、寝る前に一度解いてからまとめた状態のままであった。
男が二人とも起こしてやると、目を覚ましたのだが、全身汗だくであった。
「何ぞ夢でも見たのか」
男が二人に問いかけると、
「いえいえ、夢も見ませんでした」
女の一人が答える。
「私は不思議なことに、人と争っているとばかり思っておりました」
もう一人の女が云った。
サテ、男はこの件を恐ろしいことだと思い、それから二人の女には暇を出し、以来、独り身で暮らしたという。
女の妄念というものはとてつもないものだから、男よりも罪深いのだと古来より云い伝えられている。
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