陸奥国の事故物件(巻第四「おそろしくあひなき事」)
陸奥国に小野寺という山寺があった。
その里に、化物が出るので誰も住み着かない家があった。
そんな時、都から下ってきた旅人の男がその里にやって来て、宿に泊まることにした。
宿の亭主は、様々にもてなし、四方山話の物語のついでに、化物が出る家の様子を細々と語った。
「そのような家を見てきてこそ、故郷への土産話になるのだ。よし、今夜その家に行ってみよう」
旅人はそう言い出して、色々云って止めようとする亭主の話も聞かず、その家へ向かった。
夜半ごろ、件の家に到着すると、旅人は奥の間に立てこもり、内側から掛金をかけて、用心しながら、化物の虚実を明らかにしてやろうと待ち構えた。
八畳敷の奥の間の裏には、大いに茂った森があった。
虎の刻(午前四時ごろ)と思しき頃、その森の方から稲妻のような光り物が、ちらりと見えた。
あっと思った旅人は、腰の刀を抜きかけたまま、待ち構えた。
ややしばらくあって、先ほどと同様に光り物が奥の間の内外にはっきりと見える。
ト、五丈あまりの身長の、青黒い肌をした、いかにも痩せ衰えた男が妻戸にがっと取り付いた。
大きく息を吐き吐き、中にいる旅人をじっと見つめているので、恐ろしさは云いようがない。
しかれども、この旅人も不敵な人物であったので、少しも動じず、
「寄らば斬らん」
太刀を抜いて、構えた。
「ここには入口がない、では、台所に回ろう」
外の男はそう云って、台所の方へ回ると、二重三重に鎖した戸を易々と蹴破り、奥の間へ入って来た。
「変化の物ならば、斬りつけても仕留めきれないだろう」
化物を目前に思案した旅人は、刀を捨てて走りかかり、ひっしと組み付こうとしたのだが、瞬間、化物に胸をはたと蹴られたので、ひっくり返るとそのまま気絶した。
「夕べの旅人はどうなったのだろう」
翌日、在所の人々が件の家へ行ってみれば、気絶している旅人がいた。
気付けしてやれば、次第に目を覚まし、昨晩の出来事の仔細を語った。
台所の戸の二重三重の掛金は壊れても外されてもおらず、昨晩のままの状態であった。
その後、件の家には誰も住まず、人もますます寄り付かなくなったという。
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