化物屋敷にいってみた(巻第四「御池町のばけ物之事」)
京は御池町のある者の家に、化物が出るという噂があった。
持ち主もその家を他人に貸して、自分は他の家に住んでいた。
噂はあるが、確かに化物を見たという人はいなかった。
ある愚か者が二三人、寄り合い、
「例の家に行って、化物が本当にいるのか、いないのか、見届けない手はない」
そういうことで、例の家へ行くことになった。
例の家の借家人に、銀細工職人がいる。彼は夜も家で過ごしているが特に化物は恐れたことはないという。他の借家人も色々な身分の者が二三人いるが、化物から直接に害されたことはないとのこと。
ある晩、愚か者三人は、家主の案内で例の家をこっそりと訪問した。
裏によく茂った藪があり、噂ではこの中から化物が出てくると云う。
そのため、裏の戸には固く閂を下ろし、さらに沢山の重しを載せた。
また、いつも化物が打ち鳴らすという、家の中にある唐臼の上には、俵物、石などを重しとして沢山載せて、二十人ぐらいいないと動かせないようにして、化物を待つことにした。
丑の刻(午前二時)ごろ、裏の戸口から何者かがやって来たような物音がする。
三人ともはっと気づいて待ち構えたところで、唐臼が踏み鳴らされる音もする。
その夜は、朧月夜であったが、三人とも伏せて、隙間から様子を伺えば、身の丈七丈ぐらいの白い着物の坊主が、唐臼を踏んでいる。
坊主が三人の方へくるっと顔を向けると、そこには目も、鼻も、口も無かった。
「どんな化物であろうが、出遭ったら、斬ってやろう、打っちゃってやろう」
普段はそう云っていた三人だが、この時は息も出来ないまま、じっとするしかなかった。
それから程なくして、化物はどこへやら消えてしまった。
夜が明けて見てみれば、裏の戸も唐臼も、昨晩のままの状態であった。
不可解で恐ろしいと云う他ない。
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