家に出る女の話(巻第二「おんねんふかき物の魂まよひありく事」)

 会津若松という所に、いよ、という者がいた。

 彼の家に色々と不思議なことが多数起こった。


 一日目。

 酉の刻(午後六時ごろ)、彼の大きな家だけ地震のように揺れた。


 二日目。

 昨日と同じ時刻、何かは不明だが、敷地内に入り込み、裏口の戸を叩いて、

「はつはな、はつはな」

と呼ぶ声がする。

 主人の女房が聞きつけて、

「汝、何者なれば、夜中に来て、このように呼ばわるのか!」

と叱った。

 叱られた何者かは、右の方あるもう一つの出入口が、たまたま開けたままになっているのを見つけて、そこから入り込もうとしてきた。

 その姿を見れば、白い肌着に黒い衣を着て、いかにも肌白い女が髪を捌きながら家の中へ入ろうとしている。

 女房は、これは只事ではないと思い、御祓箱を取り出して、

「汝、これが恐ろしくないのか!」

と云って箱を投げつけると、女はそのまま姿を消した。


 三日目。

 申の刻(午後四時頃)、昨夜の女が、台所の大竈の前でいつの間にか火を焚いている。

 家中の者ども、

「これはどうしたものか」

と騒ぎ立てると、再び消えてしまった。


 四日目。

 晩のこと、隣家の女房が家の裏に行くと、あの女がいよの屋敷の垣に立って、こちらの家の内をじっと視ている。

 隣家の女房は肝を消した。

「隣の化物がここにも出た!」

と云うと、化物は、

「汝のところへは行かないので、黙っていなさい」

 云うなり消えた。


 五日目。

 女は台所の庭に現れて、打杵で庭をとうとうと突いてまわった。


 六日目。

「この上は御念仏をするほかあるまい」

と、いよは様々な祈祷を始めさせた。

 真に神明仏陀が納受されたのか、この日、女は現れなかった。

 かの女がいよの屋敷に現れること、五回に及んだのだった。

 いよが、

「これ以上はもう何も起きないだろう――」

と云い切る前に、

「五回で終わるとは限らないですよ」

 虚空から女の声がした。

 サテ、その夜のこと、いつものように主人の女房が寝ようと、蠟燭を立てて置いたのを、かの女が現れてフッと吹き消した。

 女房は肝を消し、気絶した。


 七日目。

 その夜、かの女は、いよ夫婦の枕元に立って、二人の頭をくっつけた上、夜着の裾をめくって、その冷たい手で足を撫でたので、夫婦は二人とも魂が消えたのみならず、しばらくの間、気が変になったようであったという。

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