狐の仕返し(巻第一「狐をおどしてやがてあたをなす事」)

 ある山伏が、大峰より駆け出して、ある野原を通りかかると昼寝している狐を見つけた。

 近寄って耳元でほら貝を思いっきり強く吹くと、狐は肝を潰して、どこかへ逃げていった。


 その後、さらに進んだ山伏だが、まだ未の刻(午後二時ごろ)には早いかという頃になると、急に空がかき曇り、日が暮れてしまった。

 不思議に思って道を急ぐのだが、野原は広大で、泊まれそうな宿もない。

 そこで、目についた三昧堂に入り、火屋の天井に上がって寝ることにした。


 そこへ、どこからともなく、幽かな火の明かりが数多見えたかと思うと、次第に近づいてくる。

 よくよく見れば、この三昧堂へ向かってくる葬列である。

 およそ二、三百人もいるかと思しく、華やかな様子で、引導を終えると、やがて死骸に火をかけ、参列者は帰っていった。


「仕方なくとは云え、とんだ所に来てしまったことだ」

 山伏がそう思っていると、段々と焼けているはずの死人が、火の中から身震いしながら飛び出してきて、周囲をきっと見回すと、山伏を見つけるなり、

「そこにいるのはどなたでしょうか? 知らない道を独りで行くのは心細いので、私と共にいざ参りましょう」

と飛びかかってきたので、そのまま山伏は気絶してしまった。


 ややしばらくして、次第に意識が戻ってくれば、まだ昼の七つ時で、そこは三昧堂ではなかった。

 さては、ほら貝で驚かされた狐の意趣返しであったか、と気づいたのだった。

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