異世界駄菓子屋

葵卯一

第1話異世界駄菓子屋

「・・・・暑い・・なんで九月も終わるってのにクッソ熱いんだ・・」

 昼過ぎから開けるような住宅街の片隅の駄菓子屋で、オレは一人いつものように愚痴をこぼしていた。


「理由はわかってんだよ、クーラーの利きが悪いってのと電気の節約だろ」

は~~最近じゃガキもおばさんも買いに来ないからな、売り上げが下がってんだよ。


(ウチも密林とか楽田とかでネット販売するか・・・なんてなぁ・・)

 問屋から下ろして値付けしたような駄菓子をネットで売って、宅配料金付けたら売れる所か、利用料だけで損しか出ない。。。


「はぁ・・それもこれも全部ネット通販が悪いんだ、ヤツらの大量仕入れと資金力に物を言わせたやりかたが・・・」


 今更言っても仕方ない、そんなのは流通革命を起こしたライエーの時代から言われていた事だろ。


 それに・・そろそろ、客が来る時間だ・・今日はどんなヤツが・・


 ガララララ・・駄菓子屋特有の横開きの扉が音を立てて開く、土曜の二時から五時まで、学生も大人も婆さんだって来やしない時間帯だけにやって来るその客は・・・


「いらしゃーいませー」やる気の無い挨拶に反応する事も無く、現れたのは緑髪の・・(女か)狩人のような弓矢を背負い、緑藻色のズボンと若草色のシャツと多分獣の皮を加工した胸当てをしている。


「・・・な・なんだここは!私は森の中にいたのでは・・あの怪しい扉を・・」

(今度は森の中か・・ほんと、どこに繋がっているんだ?アレは)


「・・いらっしゃい、お客さん、ここは駄菓子・・菓子屋やぶ犬。・・そちらの世界のヒトには異世界の駄菓子屋って事になんです・・か?」


「なんで疑問型なんだ?・・ってお前いつの間に!それに駄菓子だと?・・なんだそれは!」


・・・難しい質問を、[駄菓子とは何か?]それは古代ローマのアリストテレスにでも聞いてくれ。おれは駄菓子屋の店番であって哲学者では無いのですから。


「そう・・ですね、食って貰えば解ると思います。なんせ高々菓子、口を語る事に使うより食う事に使って欲しいですね」要は食えば解るって事ですよ。


「・・これは・・食い物なのか??」

 プチプチ占いチョコ・・小桜餅・・確かに全く知らない者には一見食いものには見えないかも知れないな。


「心配なら・・私が見繕いますが?・・それで満足いただけたら御代をいただくと言う事でどうです?」

 大体の一見さんはそうしている、っていうか最近の子供も駄菓子をあまり知らないからこっちからお勧めするしかないんですが!?


「・・それが気に食わなければ、金は払わない・・それでいいなら」

「もちろん、それも織り込み済みです」って言うより、初見さんはみなさん同じ・・とは限らないですが。


(『気に入らなければ殺す!』とか言い出すヒトもいたなぁ・・)


「では、少しそちらにお掛け下さい・・麦茶くらいはお出ししますから」

 冷蔵庫にぶち込んだヤカンを取り出し、コップに注ぐ。自分用なんだが異世界のお客さんには出すようにしているんだ。


(さて・・まず夏にはコレだな・・)「ちょっと失礼・・」

 駄菓子屋の外に置かれている、スト2ターボとミスタードリラーの筐体、そしてアイスを詰め込んだ業務用冷蔵庫を開ける。


「まずはコイツを試して下さい」丸く冷たく乳白色のアイス、卵アイスです。


 最初はラムネって事も有りますが、麦茶を出した後ではね。


「・・コレを・・食べろっていうの?」冷たく手の上で解け始める卵アイス、知らないひとから見たら怪しいのだろうか?


 オレは拳を作り、親指を噛む様にして食べ方をジェスチャーで伝え後は様子を見る。

(さて・・どうなるかな?)


 彼女は意を決したように噛み付いた、「ああ、表面のゴムは食べないで下さいよ」

 カムカムカム・・「なにこれ・・甘い・・なにかの乳を甘くして・・それに冷たくて」手の平から滴る水滴と、口の端から染み出す白いアイスが手を濡らす。


(・・・・良し!)目に栄養をいただき、ありがとうございます!


「では、ここからが本番ですよ!・・とその前に・・箸休め・・と言うより口休めの・・ボンタン飴です、一つどうぞ」

 薄いオブラートに包まれたオレンジ色の飴・・?飴かぁ?どちらかと言えば堅いグミに近いとオレは思うのだが。


「ああ、いただこう・・?これは・・はがして食べる物・・では無いのか」

 指先でカリカリしているのを、微笑ましく見ていた視線に気が付いた彼女は恐る恐る口に入れる・・


「っっむ?これは・・なんとも・・優しい味だ、これは・・柑橘か・・この様な食べ物があるなんて・・」


(う~~ん、微笑ましい)

 これが孫におやつを上げていた時の、祖母ちゃんの気持ちだろうか。


では早速、「まずは駄菓子を楽しんで貰う為に・・この恐竜チョコ[キャラパキ]で遊んでいて下さい」

「?・・コレは・・そのまま食べてはダメなの?」

 解る・・とても解るマン!でもそれは違うのです、「こう・・パキッと割ってホワイトチョコの部分と分けて、少しずつ食べる事にこのチョコの真価あるのです!」


 店主代行代表であるオレの熱意を解ってくれたのか、大人しく机に向かい、パキッと音を立て破片を口に。


「・・甘い・・なんて甘さなの!?確かにこの甘さなら少しずつ口に入れて味わう方が美味しさを味わえるわ!まとめて口に入れていたら、甘過ぎて逆に口が乾燥しちゃうのね!」

・・・うん、多分商品開発したヒトもそう思ってるんじゃないかな?

 大量の糖分を口に入れ、一気に吸収したら甘過ぎてイガイガするしベタ付くもんね。


 まずは・・このグラタン皿に明太味とピザ味とコーンスープ味を乗せ、その上にとろけるチーズを・・


「お待ちどうさま、特性うめぇ焼きチーズ乗せ棒です」

 ドリンクは・・(ここは面白いコーラ味でいきたい所ですが・・・)

「熱いので、チェリオで舌を冷やすようにお召し上がり下さい」


・・・「なんだ?!この・・チーズ乗せ?・・食べ方は・・スプーンでいいの?」

狩人の女性は、まず自分の知っているチーズに安心し、その次ぎに皿の隣に置かれた緑と黄緑と・・迷彩色の円筒に困惑の表情を浮かべる。



「・・まずはこのチーズ乗せから・・」

(うん、確かに焼いたチーズね。でもその下に有る味の濃い赤っぽいのは・・解らない!けどガシガシザクザクとした歯ごたえは良いわ!それに・・それぞれ棒の味が違って口に入れる度に味が変化するのはすごいわ!)


「って事は・・こっちの円筒は・・」鼻を近づけて匂いを嗅ぐと花でも無く果物でも無い不思議な匂い・・(毒・・じゃないわよね?)


 円筒に触れると水滴が指先に触れ、良く冷やしているのが解る。

(わざわざ冷やして出すのだから・・飲み物のはずなんだけど・・)


「ああ!フタをお開けしますよ、一応なにも入れて無いって証拠となるので開けてださ無いようにしているんですが、今日は特別って事で」


 店主が円筒を掴み、上の部分の・・金具のような物に指を引っ掛けグイッと立てて小さい取っ手を平に戻した。

(なるほど・・今度からは自分で開けろって事・・うん、理解した。今度が有るかは解らないけどね)


(円筒の中身は・・?よく見えないわね・・この穴の所に口を着ける・・であっているのかしら?)


 (冷たい)手の持った感覚は冷たく、恐る恐る口を付け円筒をかたむける。。。。?


 なに?これは?果物水でも砂糖水でもない、ましてやカッフェなんて物でも無い!どう言ったらいいのか・・言葉にするには、自分の記憶になさ過ぎる!たとえようが無い未知の味!


「店主!これ!これは・・なん・・なの・・」

「チェリオです・・お気に召しませんでしたか?」

 ニコニコ顔で説明する店主の青年は、そう言う物だと言うような表情で笑顔を見せる。


「・・なに味とか・・チェリオ味・・って言うのかしら?」

「ケミカルな味わいでしょう?それがうめぇ棒には合うんですよね」


・・・わからない・・ケミカルな味?・・うめぇ棒と・・


 私はチーズ乗せをスプーンですくって口に入れ、ザクザクと頬張るとチェリオを口にした・・・?


 なんと表現したらいいのだろう、美味いとか不味いとかで表現するなら美味しいで合っていると思う、でもそれ以外の不思議な・・癖になるような中毒性のある味覚が開く感覚。


 うめぇ棒を口に運び、それの持つ濃い味を口いっぱいに味わった直後にチェリオの不可思議でシュワシュワする味が全てを上書きする。

 最後にはチョリオ味しか思い出せなくなるような・・でも美味しく、味の濃い物を食べた記憶が確かに舌には残っている・・そんな感覚。


・・・「これが・・異世界の味ってわけね・・完敗よ・・」自分が食べた物・・最初の甘くて白い物・・柑橘の飴・・それらの味を全て上書きされ、狩りで獲った脂の乗った猪肉の味も朧気な記憶になっている自分がいた。


「それで・・私はいくら払えばいいの?金貨それともそれ以上の物を支払えと言うの?」

 支払うと言った以上、どれだけの価値が解らない物を食べるべきでは無かった。

[後で突き返せば]などと甘かった自分を叱ってやりたい。。。


「えーーと、うめぇ棒が三本とチェリオと・・・合計で小銀貨2枚ですね、今後ともよろしくお願いします・・ああ、うちは七日に一度、土曜のこの時間・・二時から五時までしか開いてないので、お気を付けて」


「あ・・そうなの・・ね」思った以上の良心価格と開いている時間に驚きながらも、銀貨を渡す・・

(よく見れば、珍しい物ばかり・・これが全て駄菓子って言うの?それじゃあ・・私の食べたのなんてほんの一部ってわけね・・・!?こっ・・これは!)


「店長・・まさか、うめぇ棒って」

「ええ、そこにある種類で20種類はありますが・・全部の種類となると・・40とか今は50種類とかはありますよ」


 愕然とした・・これが異世界だと言うなら・・私が狩りで獲った獲物の種類を遥かに超える・・

(七日に一度・・昼過ぎね)私はうめぇ棒をにらみ、全て制覇する事を誓う。

「また来るわ、その時は負けないから!」

「まいどありー」店長の気の抜けた挨拶を背に、ガラガラと横に引く扉を開ける。


(さぁて、うめぇ棒に負けないように狩りを続けますか・・)

 私は弓を握り、獲物探すハンターにもどる。そう私は狩人、うめぇ棒を狩るハンターなのだ。



・・・・「おらぁ!店主!ビックカツとファンタを出せ!オレンジの方だ!」

「ワシはきなこ棒とラムネをお願いするよ」


 二人の客は、それぞれ頼んだ物が出されると瓶を軽くぶつけて乾杯する。

 猪顔の男がファンタオレンジをがぶ飲みし、隣の耳の尖った白髪の老人がラムネを楽しそうに飲む。


「すまん店主、こちらの女性にチョコボールのキャラメル味を頼む」

「あんたねぇ!チョコボールって言ったら、ストロベリーでしょ!なによキャラメルなんて!それに、天使が出たら私が貰うから!」


「ふっ、なにを!私はすでに銀の天使を三枚手中に入れたのだ。

 今更くれてやる訳あるまい・そうオモチャの缶詰を狙っているのが自分だけと勘違いして貰っては困る」


 あちらではチョコボールで争っている男女が、それぞれのチョコボールの味を確かめ合っている。・・・たしか彼女の方は二枚のエンジェルを持っていたような・・


(・・これだから、この駄菓子屋は止められないんだよなぁ)


 異世界から来る様々な人々、彼等がまるで子供に返ったように笑顔で喜ぶ。そんな姿を見られる限り、オレはこの駄菓子屋を続けるだろう・・


 そう異世界駄菓子屋[やぶ犬屋]を。


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異世界駄菓子屋 葵卯一 @aoiuiti123

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